封
十月十三日木曜日午前零時
新関地区方面主要道・隣地区境界
幾つもの投光器に浮かぶ濃密な霧は範囲を広げ、今や地区へと入る主要道をすべて白く塞いでいた。
火が弱点と判明した後、焚火や松明を焚いたが霧の拡張は抑えられなかった。
だが、時折咆哮を上げては近づいてくるアレには効果があり、焚火や松明だけでなく、火炎放射器まで準備したおかげで、あれから人が犠牲になるという被害はなかった。
新関地区近隣に避難勧告が出され、周辺にはすでに野次馬の姿はなかったが、霧からわずかしか離れていない場所には新聞社やテレビ局の人間が危険を顧みずスクープを撮ろうと待機していた。
加野範夫は宮原から渋々許可をもらい、霧に近いが警官隊の邪魔をしない場所で中に入れないかと様子を窺っていた。
もし入れるチャンスがあるのなら、帰宅して家族を捜索したかった。それが死に繋がる行為だとわかっていても。
「あれ?」
ふと範夫は今まで霧に隠されていた路面標示『止まれ』の白文字が微かに見え始めていることに気づいた。
警官隊はみな難しい顔で任務に就いているので、
「宮原さんっ」
手を振りながら気安く呼べる巡査を呼んだ。
「霧、薄なってる思いませんか?」
「ほんまやな……どういうことや」
範夫は、そういえば時折近づいてきた咆哮もしばらく聞こえてこないことに思い至った。
宮原が警官隊のところへ慌てて報告に行く間にも霧がどんどん薄くなっていき――というか、吸い込まれていくように後退し、最初に置いたバリケードと黄色い規制線テープのある場所まで引いていた。
生臭いにおいも消え、まだまだ引いていく霧の向こうに目を凝らしてもアレの気配はない。
火炎放射器を持った警官隊が霧の中へと入った。
続いて中に入ろうとする記者たちを宮原が制止し、勝手に入ろうとした範夫も厳しい表情で止められた。
「警察にまかしてここで待っとこ。まだどんな状況かわからんし。なっ」
涙を浮かべた範夫の肩を宮原が優しく叩く。
すぐにでも様子を見に家に帰りたい。だが、今まで危険な場所にいても咎めず、見守ってくれた宮原にこれ以上迷惑はかけられない。
範夫は下唇を噛み締め、新関地区のほうを見遣った。
真っ白に隠されて見えなかった猪狩山の輪郭が薄くなった霧の中に浮かび上がっていた。




