冷
三上優光は猪狩山の麓にある邪櫃神社の息子だった。
色白で整った顔立ちはブレザーの制服も良く似合うが、空色の袴姿を見かけた女子の間ではアイドル並みの人気を誇っていた。
しかし、三上に告白した女子が手ひどい振られ方――あまりのショックでその女子は一週間学校を休んだ――をしてから、人気はがた落ちになった。
今では整った顔も『冷酷そう』白い肌も『薄気味が悪い』と酷評され、完全に教室内、学校内で浮いた存在になっている。
だからといって、それでいじめられるというわけではなかったし、三上本人はまったく気にしていなかった。
明け方までかかっても読みきれなかった神道の学術書を鞄から取り出し続きを読み始める。
片岡たちの視線が自分に注がれているのを感じたが、本を開いたとたん、三上は神道の世界に入り込んでいった。
「おはよう」
始業五分前に小木原恒徳の朗々とした声が教室内に響いた。
三上は本から顔を上げずに小さく舌打ちした。読み耽っている間は他の誰の声も耳に入ってこず、知らずに授業に突入していることも度々あるが、小木原の声だけはどんなに夢中になっていても脳内にまで入り込んでくる。それがたまらなく不愉快で嫌だった。
それがなぜなのかは、自分でもわからない。
小木原が寺の息子で、神社の跡継ぎである自分と相反するものだからなのか。
考えてはみるが答えはいまだ見つからず、ただ生理的に合わないのだと三上は思うことにしていた。
小木原は今まで三上に直接話しかけてくることはなかったが、どんなに遠くにいても小木原の声だけは頭に響いてきて三上の神経を逆撫でした。
気を削がれ、集中できないと感じた三上が本を閉じた時、ちょうど始業ベルが鳴った。