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井神   作者: 黒駒臣
第三章 結
39/44

整2


 猪狩山異聞と同じことを行う――それは片岡(まき)が囮として走り、小木原(一海)三上(邪櫃見習)が読経、祝詞を上げ、井戸に井神(化けもん)を封じ込める。

 まきは己を犠牲にして井戸に飛び込んだが、片岡を生贄にはできないので井戸を飛び越える。その時に簪を井戸に放り込めば、それに引かれて井神も飛び込んだところ蓋をし、御札で封じるという算段だ。

 だが、いくら片岡の身体能力が優れているといっても、飛び越せるような井戸なのか、場所的に可能なのか、今のところ何もかも不明だ。

 それを確かめるために鎮たちが出て行ったのだが――


「松明も準備できたようですし、荷物を玄関まで運んでおきましょう」

 三上が男子たちに指示を出す。

「親父らまだ帰って来てへんのか?」

 小木原が誰にともなく尋ねると、「まだや」と桧川がうなずいた。

 そのタイミングで玄関のほうが騒がしくなった。

「お、帰って来たんか?」

 玄関のほうへ皆と行こうとしたが、小木原の制服の裾を千華が引っ張る。

「どしたん?」

 しゃがんで目線を合わせると、千華が涙ぐんでいた。

 きっと怖くて心細いのだろう。

「大丈夫やよ。みんなで千華ちゃんも百華ちゃんも守るよって」

 だが、千華が首を横に振る。

「小木原たちが心配なんよね」

 背後に立っていた桧川が千華の肩に手を置くと、こくりとうなずいた。

「俺らは心配いらん。みな、いつもやってることやるだけやよって」

「そやそや。安心して待っとこ」

 桧川の言葉に千華がうなずいた。


 鎮、光悦、聖徳が草臥(くたび)れたように上がり框に腰かけていた。

「アレの気配ばんばんしてたで」

 鎮が顔を上げ、息子を見る。

 小木原はうなずき、

「こっちの準備できてる。そっちは?」

 手に持った松明の束や御札の箱を持ち上げながら訊いた。

「こっちも準備万端や。小賀のおばはんの家まで――井戸まで逆結界張って来た。結構深さあったし、蓋つきやし、使えるって判断した。高さも径もあんま大きないさかい、片岡君やったら飛び越えられるやろ」

 光悦はそう言ったが、鎮が唸りながら腕を組む。

「確かに飛び越えられんことない。そやけど、何回も出来ん。全力で走ってさらに井戸飛び込えんのは、いくら片岡君でもようやって二回や。でないと、失敗してアレにやられる」

「ひっ」と女子の間から悲鳴が上がった。女子たちに囲まれた片岡が青い顔で立っている。

「成功させたら良いだけですから」

 三上がにっと笑う。

「そういうことやな」

 小木原も笑った。

「人の気も知らんで~」

 ほぼ泣き声の片岡に、「頑張ってなお兄ちゃん」と百華が明るく無邪気に応援した。


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