整2
猪狩山異聞と同じことを行う――それは片岡が囮として走り、小木原と三上が読経、祝詞を上げ、井戸に井神を封じ込める。
まきは己を犠牲にして井戸に飛び込んだが、片岡を生贄にはできないので井戸を飛び越える。その時に簪を井戸に放り込めば、それに引かれて井神も飛び込んだところ蓋をし、御札で封じるという算段だ。
だが、いくら片岡の身体能力が優れているといっても、飛び越せるような井戸なのか、場所的に可能なのか、今のところ何もかも不明だ。
それを確かめるために鎮たちが出て行ったのだが――
「松明も準備できたようですし、荷物を玄関まで運んでおきましょう」
三上が男子たちに指示を出す。
「親父らまだ帰って来てへんのか?」
小木原が誰にともなく尋ねると、「まだや」と桧川がうなずいた。
そのタイミングで玄関のほうが騒がしくなった。
「お、帰って来たんか?」
玄関のほうへ皆と行こうとしたが、小木原の制服の裾を千華が引っ張る。
「どしたん?」
しゃがんで目線を合わせると、千華が涙ぐんでいた。
きっと怖くて心細いのだろう。
「大丈夫やよ。みんなで千華ちゃんも百華ちゃんも守るよって」
だが、千華が首を横に振る。
「小木原たちが心配なんよね」
背後に立っていた桧川が千華の肩に手を置くと、こくりとうなずいた。
「俺らは心配いらん。みな、いつもやってることやるだけやよって」
「そやそや。安心して待っとこ」
桧川の言葉に千華がうなずいた。
鎮、光悦、聖徳が草臥れたように上がり框に腰かけていた。
「アレの気配ばんばんしてたで」
鎮が顔を上げ、息子を見る。
小木原はうなずき、
「こっちの準備できてる。そっちは?」
手に持った松明の束や御札の箱を持ち上げながら訊いた。
「こっちも準備万端や。小賀のおばはんの家まで――井戸まで逆結界張って来た。結構深さあったし、蓋つきやし、使えるって判断した。高さも径もあんま大きないさかい、片岡君やったら飛び越えられるやろ」
光悦はそう言ったが、鎮が唸りながら腕を組む。
「確かに飛び越えられんことない。そやけど、何回も出来ん。全力で走ってさらに井戸飛び込えんのは、いくら片岡君でもようやって二回や。でないと、失敗してアレにやられる」
「ひっ」と女子の間から悲鳴が上がった。女子たちに囲まれた片岡が青い顔で立っている。
「成功させたら良いだけですから」
三上がにっと笑う。
「そういうことやな」
小木原も笑った。
「人の気も知らんで~」
ほぼ泣き声の片岡に、「頑張ってなお兄ちゃん」と百華が明るく無邪気に応援した。




