平
夕暮れに染まる空の下、村長は権三と一緒にまだ息のある古猪の穴を見張っていた。他の者たちはみな屋敷内や庭に寝転んで泥のように眠り込んでいる。
まきはというと弟妹とともに座敷に上げてもらっていたが、誰もそれに異を唱える者はなかった。
昼間見張りの合間に村長が屋敷に戻った時、かつはまきたちを風呂に入れ、娘や息子のおさがりをいそいそと着せていた。隣村に嫁した娘や奉公に出している息子の幼い頃をを思い出して楽しんでいるのかもしれない。
いっそあの子たちを引きとろうかと村長は考えていた。
「だいぶ弱なってきたわ」
松明を手に穴を覗き込む権三の声で我に返り、同じように覗き込んだ。
横倒れの全身を何本もの竹槍で貫かれた古猪の腹はまだ上下に動いていた。それでも穴に落ちた直後を思えばだいぶ衰えてきている。身体をぐねらせ、口が届く範囲にあった猪の死骸を横になったまま食らっていた姿を思い出し、村長はその執念にぞっとした。
このまま生き埋めにとも考えたが、話し合いの結果、確実に死ぬまで見届けることに決めた。
その後はどうするか――
まだまだ古猪に悩まされることを思うと頭が痛い。
村長は自分の頭をぽんぽん叩きながら権三に問うた。
「このまま埋めよか、別のとこへ運んで埋めよか――せやけど穴から死骸出すんも一苦労やろし、ここへ埋めたら埋めたで道のど真ん中や――祀る場所がなぁ――どうしたらええもんか」
「祀る? そんなんせんでもええわっ。ばらばらにして肥溜めへ捨てたったらええんや」
「そんなわけにいかんで。こんだけの化けもんや、祠立てるかして祀っとかな祟られる」
「けっ」
権三が穴に向かって唾を吐く。
古猪を捕らえた後、権三は真っ先に自分の家に帰って様子を見に行った。荒らされた家中にはおびただしい血の跡と食い散らかされたきぬや子の残骸が転がっていたという。それを目の当たりにした権三の心中はいかばかりか――村長は胸を詰まらせたが悲しみと憎悪を募らせる権三にかける言葉が見つからない。
「わしはこいつの息の根止まるとこ見たいんや。でないと気ぃすまん」
権三だけ見張りの交代をせず続けているのはそのためだ。
炎の揺れがちらちら映った権三の赤い顔を見ながら、
「こいつに食われたもんたちのためも含めて祀ってやらなな」
そう言うと権三が涙を零した。
松明を持った伊吉と忠治が背後から近付いてきた。
「交代にきたで。村長も権やんもいっぺん休んでや」
「今はええわ。わしはこいつの最期見てからゆっくりするんや」
権三が笑う。
「そうか……村長は休んでくだせ。ずっと動きっぱなしやで」
伊吉の言葉に、
「ほな甘えよか。明日からまたひと踏ん張りせなあかんしな。みなも気張ってや」
村長は松明を受け取り暗い道を屋敷へと戻った。




