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序
二〇xx年十月十日月曜日 午後十時十分
P県P市新関地区
P市を襲った土曜日未明から降り続く凄まじい強風と豪雨は最後の仕上げをするかのように、さらに吹き荒れた。
標高約三百メートルの猪狩山にも豪雨が襲い、山頂辺りから流れ落ちる濁流が蔦の絡まる竹林を押し倒し、山崩れを引き起こした。
被害は大した規模ではなく、山頂付近の竹林から引き剥がされたおよそ五、六十本の竹と泥土の流れは中腹で止まった。それでも崩落時の音は自然の驚異を伝えるには十分なものだった。
だが麓に点在する民家にまでその響きは届かず、誰も山崩れに気付かなかった。
そのため、崩落音ともに響いていた禍々しい獣の咆哮にも気付くことはなかった――