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イカバベル【仮】  作者: じー
3/3

謎宣言

この街にある冒険者の大半を取り仕切る巨大ギルド「アイアン・フィスト」のギルド建物前にフライカとマオはいた。フライカは何故か仁王立ちをしてドヤ顔で立っている。これから僕の伝説が始まる的なオーラがでている。危うすぎてフラグ感すごいなと思うマオだった。

アイアン・フィストの建物は複雑怪奇な作りだった。一階はシンプルな作りだったのだろうと思うが、それに部屋を幾つも無理やりくっ付けていた。嵐の日には崩れそうな印象だが、植物の根?が絡み付いて補強する事でバランスを保っている様だった。その窪みにモンスターの骨や頭蓋骨を嵌め込んだり埋め込んでいる。無造作に向きもバラバラで指の石像が生えているという作りだった。


なぜこうなった。という建物である。


「マオ!さっそ」


バン!!とフライカの言葉を遮るようにバラバラ指の扉が勢いよく開いて、ぼろ切れが外に放り出されて水溜まりにバシャッと突っ込んだ。放り出した男は冒険者だろうが、ボロ切れを忌々しげに睨んでいる。

マオはボロ切れをよく見ると、それは少女だった。鮮やかなブロンズの長髪に整った顔立ち。年齢は低いと思われるが、可愛いというより綺麗というイメージがくる。目が合ったが、淡紅色の瞳には著明な動揺や恐怖があった事は容易に読み取れる表情だった。


「あ」


フライカが思い付いたかの様に泥だらけの少女の顔を覗き込んでみると、少女は顔を強ばらせて少女は顔を伏せた。


一瞬の沈黙。完全に修羅場ではあるが、どうしたものかとマオは迷った。


「立って」


フライカは少女の手を半ば無理やり引いて立たせると指に入って行った。マオは血の気が引く思いをしながら、急いで後を追った。

建物内では、酒やカードで雑談をしている冒険者が数名いた。フライカはすうっと息を吸うと建物が響くかの様な大声で叫んだ。


「私!!!フライカがギルドを創設する!!!!!ギルドマスターは何処に!!!」


冒険者の視線がフライカに注がれる。静寂の後で大爆笑が沸き起こった。


「ギャハハハハハハハハハハハハ!!!なんだ??なにぃ!?もっぺん言ってみろガキぃ!!」

「若いねぇ…」

「ぎるどをそうせつする↑ぎるますはいずこに↑笑」

「クソガキが!!剥かれたくなきゃ消えろ!!!」


反応は様々だが、嘲笑、怒号、失笑等の渦の中心になっていたのはフライカだった。横にいた少女は小刻みに震えながら口を開いた。


「だっ…い、じょうぶだから…帰って…だいじょうぶだから…だいじょうぶだから帰って」


キョロキョロとして心配そうにフライカを見ては帰るようにフライカを軽く引っ張って帰るように促しているが、びくともしていなかった。


マオは今度こそ血の気が引いた。地面が揺れるような感覚に陥りそうになったが、フライカを顔を見るとそうも言っていられなかった。

フライカは決意に満ちたような顔だった。恐れも迷いもなく威風堂々と全体を見据えていた。

冒険者も笑っているのが大半だったが、フライカの様子に気付くと怪訝な顔をしたり、ヒソヒソと話し合いをし始めたりとだったが、扉がまたキィと音を立てて開いた。

それに気付いた冒険者はそれぞれ雑談やカードゲームに戻ったが、一部は視線をフライカに向けていた。

扉から入ってきた男は少女を投げ出した男だった。気だるげで不機嫌そうな表情で切れ長の目。若い青年だが、引き締まって鍛え上げられた肉体。威圧するかの様なオーラが立ち込めており、並みの人間では立ち塞がる事はできない貫禄があった。男が口を開いた。


「なんだてめぇ…どこのガキだ。ネルを置いて家へ帰れ。ぶち殺すぞ」


「…!…!!」


ネルというのが放り出された少女だろう。焦ったようにグイグイと引っ張る力を強めたり押したりしているが、やはりフライカはびくともしていない。


「私の名はフライカ。あなたは?」


「ブーセ。だからてめぇは何なんだよ。消えな」


そう言ってブーセがフライカに手を伸ばそうとした所でマオは遮るように立った。

マオは内心ドキマギしながらブーセの手を掴んだ。間髪入れず、マオの体に横薙ぎの衝撃が走るがガードが間に合った。


「ガキが!!!」


再度、放たれた横薙ぎの蹴りはガードの上からでもマオの体を吹き飛ばし、扉ごと吹き飛ばして外の水溜まりにマオを突っ込ませた。


瞬間湯沸し器かこいつ。そうアダ名をつけながら泥でグチャグチャになりながら起き上がる。

ブーセが悠々と外に出てくるなり言った。


「訳がわからねぇのが多すぎるだろ。てめぇは言葉通じるタイプのサルか?通じねぇサルか?」


「通じねぇよッッ!!」


振りかぶってパンチを繰り出したが、目の前のブーセがふわりと動いてマオの視界から消えた。


「スキル使うまでもねぇ」


ズンッ


腹にブーセの肘がめり込んでパキッとした嫌な感覚を感じながらマオはよろめいた。

そこに2度目の蹴りが放たれた。ボキッっと初めて感じる痛みを感じながら地面に叩き倒された。


呼吸ができない…!やばい。怖い。殺される…!!


そのまま逃げてしまいたかったが、次の言葉がマオに逃亡を許さなかった。


「さて…あっちのフライカとやらも片づけるか」


「…!まて…」


「な」


と、言いかけて振り返ったブーセ。「に」を言いきる前に拳が顔面にめり込んでブーセをよろめかせた。

即座に体勢を立て直したブーセ。マオが見たのは鬼の形相というに相応しいものだった。


「色々とわかってねぇようだなぁ…?教育してやるよ…スキル!」


【発勁-氣-接続-渦雲】


緑色のオーラがブーセの体に沸き起こる。そのままオーラを纏ってマオを殴り付けた。マオは両腕でガードを固めたが、オーラがマオの両腕に移動するかのように纏わりつくと、そのままマオを吹き飛ばした。


「痛いな…!」


地面には砂利や石がある。そこに吹き飛ばされると、叩きつけられるだけでなく擦過傷もできる。

つぅ。と生暖かい水がマオの目に垂れてくる。血だった。隙を逃さずブーセが乱打を叩き込んだ。


「…っ!!!」


マオは動けなかった。ガードを固めたが、恐らく折れているであろう骨に響く衝撃が絶え間なく走る。ガードを解いた瞬間に致命的な攻撃が来ることを予感していた。10発か20発か、時間にしては一瞬だが、テンポの良いコンビネーションで殴打を加え続けるブーセ。


「飛べ」


マオにヒットした乱打の数だけ緑色のオーラが膨れ上がり、マオを錐揉み的に回旋させながら壁に突っ込ませた。


「ブーセ!壁壊すんじゃねぇ!おやっさん来たらどうすんだ!!」


そんな野次に苦虫を噛んだような表情をして、ブーセは野次馬と罵りあいを始めた。

一方、マオの意識は無かった。そんなマオに駆け寄ったのはネルだった。ネルは、マオの状態を確認すると顔を真っ青にした。擦過傷で顔やあちこちに傷ができ、血と泥と砂でぼろきれのようになっていた。状態から察するに、服の下は打撲や骨折も想像しうる事は容易だった。

ネルは一瞬だけフライカに目配せをしたが、フライカは静かにマオを見据えるのみだった。ネルには、フライカの詳しい事情やマオとの関係性などわからない。だが、これ以上の傷は命に関わる。


ネルはブーセに向かって木の板の破片を投げつけた。

ポコン、と音がするような軽い木の板だったが、ブーセをイラつかせるには十分だった。


「忘れてたぜネル。元はと言えばお前と話をしたかったんだ」


「うるさい!やりすぎでしょバカ!!」


「あ?」


ブーセがギッッとネルを睨みつけた。普段のネルであれば縮こまっていたが、今のネルにとっては普段の事などどうでもよかった。この人とフライカを守る。それだけだった。


「深遠なる森より、古の息吹を纏い知る!


 木屑、泥土、小石よ、我が掌に集い、結び、土塊の兵となれ!


 祖霊よ加護を!其の心臓よ堅くなれ!


 クリエイトゴーレム!」


魔法詠唱も十分にできた。込める魔力や祝詞に不備があり失敗も多かったが、今のネルにできるクオリティとしては10割以上のできでもあった。周囲の板や石を骨組みに簡素な石の兵ができた。

石の兵はずんずんとブーセに近づくと手に持った棒で叩きふせようとブンッと音を鳴らして振り下ろした。振り下ろされた棒はバキィと床を砕いた。ブーセはするりと煙の様に避け、ゴーレムに纏わりついた。


「スキル」


【泡咲】


ポウッと起こった緑の氣がゴーレムに吸い込まれるとボンッッ!!とゴーレムの胸部から背面を吹き飛ばした。


「うあっ!」


弾け飛んだゴーレムが部屋中に散らばり、破片がネルの目にも入った。ゴーレムは本来、力と頑強さに長けた精霊魔法でそう簡単に破壊されるとは露ほども思っていなかったネルは恐怖した。このブーセという闘士を止める術は、無かった。


「そういえば何で部屋から引きずりだされたかわかってねぇんだろ。ネル」


そういえばそうだった。とネルは思った。このクリエイト・ゴーレムを含めた祝詞の構成や詠唱の考察をしていた所をブーセに引きずられて外に放り投げられて今に至る。ネルにとっても訳がわからないといった所だった。このギルド倒壊寸前の惨状の原因にどこからどこまで関わっているのか確証は無いが、原因は知りたかった。なんで。と口を開く前にブーセが続けた。


「昨日の街道駆除だ。前も言ったが、お前の魔法は役に立ってねぇ。発動は亀、なんなら発動すらできてない時もある」


「そっ、それは」


二の句は継げなかった。街道付近のモンスター駆除をした事を思い出した。昨日は珍しくモンスターが3度も襲ってきた。ブーセの解説を思い出す。この街「イスタリカ」は連合国家「クーシャン」の海沿いの街になる。隣国の軍事国家「ニドリア」との交易も盛んに行われているため、定期的に街道のモンスター駆除を行っているのである。その担当がブーセのチームに周ってきたのであった。そのモンスター駆除の中で役に立ってないという事は無いと断じて言いたかったが、発動の失敗や効果が不十分である事は実際にあった。悔しかったが、負い目もあった。


「それは?それだけじゃねぇ!!護衛中にホーンテール・ベアが二匹出た時に、てめぇは何をしてた?モタモタしてやがったろ?その間にフォローは誰がした?結果お前は何をした?何もしてない!」


沈黙が流れた。流石にフライカや野次馬も離れた所でこの流れを見守っているが、ネルにとっては糾弾されているかの様な沈黙にも感じられた。


「わかってる…。わかっ、わかっ……わかってる、から祝詞の練習、を」


「馬鹿が」


遮るような圧力があった。

ツカツカとネルの前にブーセが立った。


「お前がまずやるべき事は他のメンバーへの詫びだろうが。そんな事もわからねぇ奴がいるとどうなるかわかるか?何れお前のせいで仲間が死ぬんだよ」


「う…」


ネルは呼吸もままならなくなり、足はプルプルと震えてしまっていた。


「そんな事もわからねぇようなら消えろ」


「そーかそーか。君も大変だねぇ」


軽快な声で声をかけたのはフライカだった。相変わらず、恐れもなく堂々としている表情だった。


「フライカとか言ったか…。ギルド設立宣言の了承はした。おやっさんが直に来るだろうから直接話しな。だからあんたは良いとして、あっちの野郎はどうするんだ?」


「了承ありがとう。マオって言うんだけど、まだやれるよ。相手してね」


こいつまじか?と誰もが思った。なんならちょっと引いた。冒険者でも滅多に負うことも無いダメージを負っているであろうマオに、流石に同情する者もいれば、高みの見物をするフライカに苛立つ者もいた。しかし、フライカに手を出すのはご法度になった。ブーセがギルド設立宣言を了承し、アイアン・フィストのギルドマスターとの面談という名の処刑かお仕置きが待っているのであった。名のある冒険者が、国やギルド、優秀な冒険者の紹介状や推薦があり、潤沢な資金も備えているのであれば、アイアン・フィストの承認も得て新ギルド設立も正式に通る。だが、素性もしれない少女が軽々しくできる訳もないのが常識ではあった。


「マオ、あなたの力を少し起こす」


フライカが呟くと、ガラリと瓦礫かれマオが起き上がった。


「スキル」


【発勁-筋剛-接続-ライトニング・ノック】


まさか。とフライカを除く誰もが思った。刹那、紫電の様なオーラを纏ったマオの裏拳がブーセを叩いた。ブーセも迫る拳を受け流そうとしたが、それを許さない剛拳だった。顎を掠めて胸を叩き、ブーセをよろめかせた。


やりやがった。ブーセの思考と意識はそこで途切れ、床に崩れ落ちた。


「うひょおおおおおお!!!すげぇえええ!」

「やるじゃねぇか!」

「天才かよ!強すぎ!」


冒険者とは強さに惹かれるものである。ブーセは事実としてこのギルドでも有数の実力者であったが、それを応酬の末にノックアウトしたのである。沸き上がるには十分すぎるほどだった。惜しみない称賛がマオに送られる中で階段にいる人物から噴火のようなため息が出た。ピタリと称賛の雨は止み、ギルド冒険者達は散り散りに野次馬の影に消えていった。


「おぉい。これはどういうこったぁ」


低く、野太く、大きい声で男はそう言ってジロリとネルを見た。


「お、お騒がせしてすみませんマスター。私とブーセのトラブルにお客様が巻き込まれてしまいました。」


「ふん!お客様たぁ珍しいなぁ!!どいつでぃ!!!!ギルドマスターのバッシュが来たぞ!!!!!」


喋るたびに空気を震わせるような大声を出す男だった。ギルドマスターの「バッシュ」と名乗った男は髭の生えた筋骨隆々のドワーフだった。ドワーフの体格にはかなり個人差がある。基本的には身長は低く、骨格が太く、頑丈。暑さや寒さに強く、筋力は人に勝るのが特徴だが、この男は身長が高い。腕は樽の様に太く、紋様が刻まれている。そしてとにかく大声を放つ存在だった。


「私だ。名をフライカと言う。新ギルド設立を承認してほしい」


バッシュはねめつける様にフライカを見ると大声で笑った。


「バハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!冗談きついぜお嬢ちゃん!バハハハハハハ!!!」


バッシュはひとしきり笑っていたが、フライカは無駄な時間を過ごすかの様な無表情で待った。

バッシュは笑い終えると声をかけた。


「まぁ面白れぇ嬢ちゃんだな。ゆっくり話をしてテストだなこりゃ。おいネル!!!後でブーセ起きたらこの嬢ちゃんの後で話す!他のガキどもと片付けしとけ!!」


「はい!あっ、あっでも、この人も治療してからにしますね!!」


この人とはマオだった。ブーセを倒しはしたが、かなりの怪我を負ってぐったりしていた。


「ネルちゃん。マオを頼むね」


そう言ってバッシュとフライカは階段を昇って行った。

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