ニート
フライカが家に来て暫くたった。ここにも日本と同じく四季がある。季節は春を過ぎて雨季になる。海も荒れるので、漁具のメンテナンスや家事をして過ごしているのである。主に仕掛け罠だが、仕組みは慣れたもの。多くは単純作業きなる。
ちくちくぬいぬいコツコツコツコツ。
当のフライカは…
「マーオー。ご~は~ん~。め~し~。」
ニートになっていた。
普段付きっきりという訳ではないが、どこかにフラッと出掛けては帰ってきて飯、飯、飯の三食催促である。我が家の食料事情はカツカツなので手伝いを求めると渋々といった所でやってはいるがフラッとでかける様だ。俗にいう穀潰しという奴である。
「いやいやいや、手伝いなさい。働かざる者食うべからずという言葉はご存知ですか?フライカさん」
「働いてるぅ。働いてるよぉ。この恩はいずれ返しますのでおねげぇしますだ。ひもじいのひもじい」
こんな調子でソファーに転がってうにゃうにゃもにゃもにゃ言ってるのである。
我が家の獲物は草食のカニっぽい生き物。通称クリーンクラブ。浅瀬に生える植物や小型の生物の死体を食べる雑食性であるが、肉はそこそこ美味しく殻は薬、建築材料、工芸品やお土産等々の多岐にわたって消費されるのでそこそこのお値段になる。なので、裕福とまではいかないものの、蓄えもそれなりにはあるのでなんとかはなっている。
「マオマオマオ~。アレが恋しいよぉ」
「わかったから待てって。」
アレとは、クリーンクラブの炊き込みご飯だ。
この世界には当然だがインターネット等の便利な情報媒体は無い。魔法やギルド、冒険者というファンタジー要素は聞いたが、あまり身近なモノではなかった。少し憧れはあったが、日々の生活や三度の飯が人間重要なのである。調味料を探して市場を歩いて、気になった料理を試して腹を満たしていた。
つまり、俺は平凡な生活に、この世界に順応できていた。この先どうなるのかはわからないが、それも良いだろう。
ホカホカと湯気をたてるクラブライスとお茶を準備してやるとソファーからヒュンと軽やかに瞬間移動した。
ん?いや、瞬間移動したってなにそれ。
「フライカさん…いまなんかスキル使った?」
「ん?よくわかんない!クラブ食べる!飯!いただきます!!」
勢いよく食べ始めた。このペースだとおかわり×2になりそう。俺の分まで食い尽くされるかもしれん。
「いただきます。」
ちなみに、この世界に魔法はある。メイジもいるが、流派もそれなりに別れている様で割合としては少ない。というか、俺は会った事が無い。才能もそうだが環境や血筋も重要なんだとか。知らんけど。ただ、スキルは少なくとも一つ以上は皆持っている。この世界の成人まで…16才ごろまでにはなにかしら発現するようだ。フライカの目にも止まらなかった速さ?動き?もなにかのスキルかと思ったが、わからないとのこと。速く動くスキルも聞いた事が無い訳ではないが、それとは違うような気がする。
「おかわり!!」
「はやっ!自分で用意してきなさい!」
「アイアイボス」
敬礼をして釜からライスをよそって目をキラキラさせるという表現がぴったりな表情でパクパク食べている。
なんだかんだ、自分の作った料理を美味しそうに食べてくれるというのは嬉しいものだなと思った。
「なぁ、普段出掛けてなにしてんの?」
頬を膨らませたフライカはポケッとこちらを見て、もぐもぐゴックンと食べてから喋った。
「ん、わかんない事多いから自分で調べてる」
「そっか。困った事とか、危ない事してないか?」
「大丈夫。でも、街の外にも行きたいけど、おじさんたちが通してくれなかったから冒険者になる。」
「え、冒険者?」
「え」
冒険者。ギルドの依頼で様々な仕事をこなす。低ランクは稼ぎが少なくリスクも少ないが、突発的なトラブルに巻き込まれる可能性もある。十分に稼ぎのある生活ができていたり、実力が無いなら止めておくべきというのが私見だ。が…。
あちゃ~…これまずった?やぶ蛇ふんじゃったー。という顔をしているフライカを見て思うに、仮に止めてもするするするっと勝手にやりそうな感じがもの凄いのである。絶対やりそうなやつ。
「…一緒にやる?冒険者」
少し意外そうな顔をしてニヤーッとし始めた。
「あるぇ~?意外と冒険者やりたかった?先輩が手取り足取り教えてあげようか???ん?」
「飯抜きにすんぞ」
「すみません。おかわりください」
フライカはいそいそとおかわりに行った。
このフライカという少女は謎が多い。スキルであったり呪文もそうだが、容姿や出で立ちも相当に異質である。はっきり言ってよそ者である。この町はそう広くもない村社会ではあるので、誘拐等の犯罪はそうそう無いがどういった反応があるかはわからない。責任者としては心配が多い。
「もしかして心配してる?大丈夫だって。それなりに強いと思うし、天才だからさ。ハッハッハッ」
「ご飯を食べてる時に喋りません。知り合いとか友達ってできたか?気に入った場所とかさ。」
「友達?かなぁ。メイジっぽい女の子に道案内してもらった。あの公園までの道狭くて分岐も多くて迷路みたいでしょ?そこ歩いてると声かけて来てさ。迷ってはなかったけど、迷子だと思って案内してくれたって訳。そこで冒険者とかの事も聞いた」
「メイジいるんだ。どこのギルド?」
「アイアン・フィストかな。たぶん」
この町には、二つのギルドがある。小さな個人経営ギルドの『帽子の影』と『アイアン・フィスト』である。詳しくは知らないが、アイアン・フィストが主にこの町の依頼の大半以上をこなしているとは聞いている。
「アイアン・フィストって言えばファイターオンリーっていう噂なんだがどうなってるんだろうな?」
「へぇ~…。だからかな?ちょっと自信無さげな感じだった」
「名前わかるか?」
「聞けてなかったけど、顔はバッチリ覚えてるからまた今度聞く。さて、洗い物して寝よっかな」
そう言ってフライカはカチャカチャと食器を洗いに行った。
夜は暗くなる。明日に備えてマオも寝る事にした。