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お雛様とストーカー

時系列は『より平』終了後になります。

挿絵(By みてみん) 



「あー! おひなさま!」


 母親と思しき女性と手を繋いでいる少女が腕を真っ直ぐ伸ばして指差す先には、真っ赤な着物を身に纏った人物の姿があった。

 その人物は、牡丹が描かれた振袖に黄金色の帯を巻いてチラシを配っている。ロングストレートの黒髪には、つまみ細工の大きな赤いダリアが一輪咲いている。

 多くの雛人形に見られる“大垂髪(おすべらかし)”ではなくただ流しているだけの髪なのだが、着物を着た身近な存在といえば、幼い少女にとっては“おひなさま”なのかもしれない。時期的にも、きっと家に飾ってあるのだろう。


 六、七歳ほどの少女は母親の制止を振り切って赤い着物に駆け寄るも、母親よりも背丈の高いその人物に近付くにつれ、おずおずと動きがぎこちなくなっていった。

 満開の花のようだった笑顔も、強張ってしまっている。

 すると、少女の頭の高さまで赤いダリアが降りてきた。

 着物の膝裏を折ってしゃがんだ人物が、ふわりと笑う。

 少女の顔はみるみる紅潮してゆき、瞳は星が散っているように輝いた。


「こんにちは」


 赤い口紅の隙間から発せられた声は、澄んだメゾソプラノだった。


「お人形がしゃべった!」


 少女は口元を押さえて、体を弾ませている。

 かと思うと、ママー! と叫んで母親を呼び寄せた。


「あのね、お人形さんがねっ」

「ほら、大きな声を出さないの。すみません」


 子どもを諫めた流れで視線を下から上へ移動させ、母親が頭を下げる。


「いいえ、とんでもございません。何かお探し物でしょうか?」

「あ、はい。来月、小学校の入学式があるので、着物のレンタルを……」

「承知いたしました。奥に居る黒髪の店員がご案内いたします」


 奥に視線を送ると、話題に上った店員が近付いてきた。その店員について行こうと母親が少女の手を引いたのだが、


「まだお人形さんとおはなしするの!」


 (がん)として動こうとしない。

 困っている母親に、赤い着物の店員は柔和な笑みを向けた。


「お嬢様は(わたくし)がお相手しておきますので、奥様はごゆっくりなさってください」


 母親は「それじゃあ……」と、黒髪の男性店員と共に奥のレンタルコーナーへと向かった。




 ここは都内某所にある“よし田”という、江戸の頃から続く呉服店だ。

 今は三月頭。現在は、卒業式の着物や袴のレンタルをと駆け込んでくる客や、今回のように入学式にと着物を求める客をターゲットに呼び込みを行っている。

 赤い着物の店員はちゃっかり七五三用のカタログを少女に見せていた。

 商談用のソファーへ並んで座りカタログをめくっていると、少女の小さな指がある一点を差した。


「このきもの、おねぇさんが今きてるのとおんなじ!」


 ピタリ、と店員の笑顔が一瞬、本当に一瞬だけ()んだが、少女は自分と同い年くらいのモデルが着ている着物に釘付けで気付いていない。


「赤色は発色がよく、目立つので印象強いですよね。白地に花柄もはっきりしていて華やかですし、最近では水色のお着物も人気なんですよ」


 笑顔で説明を再開した。

 少女は、これがかわいい、こっちもキレイ、と手を叩いてはしゃいでいる。赤もいいけどピンクもいいな、と言っていた少女の眼が、唐突に店員を見上げた。


「おねえさんのおめめ、まん中がピンク色でキレイだね。宝石みたい」

「……そうですか? ありがとうございます」


 綺麗と言われた目を細め、店員は微笑する。

 ほどなくして、母親の用事が終わり迎えが来た。

 赤い着物の店員と、母親の接客をしていた男性店員が並んで頭を下げ、母子(おやこ)を見送る。

 バイバイ! と元気な声を残して、少女は母親と共に道行く人の中へ紛れ、消えていった。


「潤、今日はナンパ男じゃのうて幼女に掴まったん? モテモテじゃな」

「何とでも言え。今回は結果的に集客に繋がったんだから良いだろ」


 潤と呼ばれた赤い着物の店員は、下げていた頭を上げながら黒髪和装の男に冷ややかな視線を送っている。


「お母ちゃんを落としたんはワシじゃけどな。ま、幼女のお相手ごくろーさん。帰りに肉奢ったるわ。んじゃ、チラシ持って呼び込みよろしゅう」


 男は白い歯を見せて笑うと、赤い着物の背中を軽く二回叩いて店外へ送り出した。




◇◆◇◆




 時は一週間ほど遡る。

 《P×P》の事務所を、社長が満面の笑みを湛えて訪れたのだ。それ自体は喜ばしい事なのだが、温泉土産と共に、休日の仕事も連れて来た。

 黒髪黒目に黒スーツ。肌以外全身黒い男は、にこにことご機嫌に笑いながら所長と副所長が並んだ席の前に立って言った。


「次の土日、僕の知り合いの呉服店で接客のバイトをしてきてもらいたいんだー」

「ええよー」


 所長は即答したのち、疑問を投げ掛ける。


「でもそれって、ワシらが行かんと駄目(おえん)の?」


 灰色の髪と瞳を持つ所長は、よく高校生に間違えられる童顔を傾けた。

 一応、複合企業のいち部門のトップ2であるふたりに声を掛けるという事は、それなりの案件に違いないはずなのだ。でなければ、本社に居る工作員へ話が行くだろう。

 《P×P》が請ける特務は、あくまで殺人専門なのだから。


「バイトはオマケ。二日間働いてくれたら、男性用と女性用の和装セット一式ずつくれるって言うからさ。合計が五十万円くらいのやつ。因みに、ふたりには日当一万円を振り込むよ」


 バイト代は一日一万円だと言う。


「で、本題。今回の標的はこの子」


 クリアファイルから書類を出してみると、金色の短髪をした男の写真が載っていた。耳にはピアスがジャラジャラ付いている。人相は決して良いとは言えない。

 情報部からの資料を要約すると、こう書いてある。

 男の名前は丸屋政宗(まるやまさむね)二十八歳。呉服店“まるや”の長男だが、親と仲違いして独立。しかし上手くいかず、実家に金をせびる事を止めない。あげく、呉服店“よし田”を買収しようと目論んで、強引な手段に出ている。

 追記では“よし田”の長女に一目惚れをして、ストーカー行為に及んでいることや、過去に婦女暴行や強制わいせつで五度逮捕されていることが記されていた。


「あ、両店の関係は良好なんだ。このご時世だから、潰し合うよりも手を取り合って乗り切ろうっていう、素晴らしい考えを持っていてね」


 社長の言葉を、所長である泰騎は紙面に視線を落としたまま、興味なさげに聞いている。

 泰騎と同じ書類を渡されている副所長が顔を上げた。白い肌にミルクティーのような髪、整った顔にあるピンク色の眼を渡るかたちである傷が、ある意味アクセントとなっている、絶世の美女。


「俺は女物の着物で接客ですか?」


 に、見える男。それが《P×P》の副所長である、潤だ。


「潤が嫌ならワシが女(モン)でもええで?」


 女装が嫌いな潤をよく知る泰騎が提案するも、社長は潤に両手を合わせて言った。


「ごめーん。『絶世の美女を連れてくる』って先方に言っちゃったー」

「ワシもカワイイじゃろが。まぁ『美女』ってイメージじゃねーけどな」


 泰騎は口を尖らせるも、すぐに顔を元に戻す。


「泰騎はどっちかっていうと、ギャルって感じになるもんね」

「じゃな。っちゅーかワシも和装か。髪の毛どねんしょーかな。ウィッグか染めるか……あ、眼はこのまま行くで」

「二日働くし、一週間くらいで色が抜けるヘアマニキュアを用意させるよ。潤は染められないから、ウィッグとカラコンを用意させるね」


 体質上、髪を染められない、というより、染まらない潤は、地毛を隠す時にいつもカツラを被る。そして、ピンク掛かったルビーのように赤い瞳を隠すために、カラーコンタクトレンズは必須なのだ。

 ただ、瞳孔だけは元の色が出てしまうのと、ワニのように縦割れの形をしている瞳孔も隠すことが出来ないのは難点といえる。

 目の傷は化粧で隠れるので問題ない。


「接客用の衣装は向こうに任せてあるから。何か分からない事があったら僕に電話ちょーだい」


 という事は、会社を通しての依頼ではなく、社長からの個人的な依頼なのだろう。

 また経理が文句を言うな、と潤は思ったが、口は閉じたままにしておく。


「はーい。雅やんも仕事気を付けてなー」

「社内でその呼び方はやめろ、泰騎」


 指摘する潤に、社長は目尻を下げた。


「いいよ。今は僕ら三人しか居ないんだし」

「そうじゃで潤。社長もたまには兄弟らしいことしてーと思っとるで?」

「だからといって……」


 潤の赤い眼が社長をちらりと見やる。

 社長は何やら期待の込められた眼差しを潤へ返しているが……。


「社長、お気をつけて」


 三男からは、いつも通りの表情でいつも通りの言葉しかもらえなかった。

 血の繋がりがない三兄弟は、特別何かするでもなく、結局、仕事の話だけをして解散した。




◇◆◇◆




 というわけで、現場へ到着するなり泰騎は「イケメンが来たわ!」と女性陣に囲まれ、潤は「とんでもない美女が来てくれた!」と男性陣に囲まれた。

 潤も泰騎もすでに黒髪仕様で、アルバイトも偽名で登録してある。

 普段の無表情さからは想像が出来ない、どこからどう見ても完璧な営業スマイルをしている潤の眉が僅かにピクピク痙攣する様子を視界の端で捉え、泰騎は業務内容の説明をしてほしいと頼んだ。

 それが昨日の事だ。

 そして現在、潤は不機嫌さを微塵も感じさせぬ笑顔で客寄せを遂行しているわけだ。

 店外へ出た潤は、着物のレンタルを全面にアピールしているチラシ配りを行っている。

 最近は外国人観光客の一日レンタルも多いらしく、チラシには日本語の他に英語、中国語、韓国語も記されている。

 日本人の着物離れが進む中、試行錯誤して様々なアイデアを出しているのが、ここ“よし田”の長女である。

 しかし、ストーカー被害が深刻で、表に顔を出さなくなったらしい。


(ストーカー被害と家の乗っ取りで殺害依頼か……)


 今までも何件か請け負ってきたが、いつも頭を過るのだ。

 殺すほどのことだろうか? と。

 そして、いつもこう考える。

 自分がこの男を逃がせば、ひとりの女性が暴行されるかもしれないし、ひとつの家庭が崩壊し、最悪、一家心中も有り得るのだ、と。

 加害者に同情してやる義理は無い。犯罪者……特に性犯罪者は更生する確率が著しく低いのだ。再犯率の高さが、それを物語っている。

 潤が思考を切り替えたと同時に、煙草の臭いに混じって声がした。


「おい、(なぁに)オレの許可なく人を雇ってやがんだよ」


 短い金髪をつんつん立てた、ピアスの男が近付いてくる。今回の標的だ。

 頭が特務モードになっていた潤は、つい睨みそうになるのをぐっとこらえ、瞬時に営業モードへ切り替え直した。

 客として扱うべきか、もしくは“まるや”の長男として扱うべきかと思案していると、政宗が潤の顔を覗き込んできた。因みに、身長は政宗の方がやや低い。

 潤は何か言わなければと口を開きかけたが、全身が粟立つのを感じ、言葉を詰まらせた。

 こいつもか、と思う。

 政宗の眼が、好色男のそれなのだ。

 普段は恐がられて近寄ってくる人は少ないのだが、赤い瞳を隠すと、途端に人が寄ってくる。

 潤はうんざりする気持ちに蓋をして、鍛えられた営業スマイルを政宗へ向けた。


「申し訳ありません。私の顔に何か付いていますか?」


 問えば、政宗は顔から耳まで赤くした。


「なっなん……っお前、いつからこの店で働いてんだ?」

「昨日です」


 今日までだとは告げず、相手の反応をみる。


「お、おまっ……オ……オレについて来い!」

「勤務中ですので、お引き取りください。どうしてもとおっしゃるのでしたら、夕方六時に勤務が終わりますので、それか――」

「いいや! オレはこの店のオーナーだ! すぐに話をつけてくるから待ってろ!」


 いや、お前はオーナーではないし、完全に部外者だろう。と心の中でツッコミを入れる潤のことなどお構いなしに、政宗はずかずかと店内へ入っていった。

 ガラス越しに泰騎と目が合い、自分が請け負う旨を適当なジェスチャーで伝え、政宗が戻ってくるまでチラシを配って待った。

 あの手の人間は、どこか憎めない愚かさがあるよな、と胸中でひとりごちる。


(というか、一目ぼれしたというここの長女の事はもういいのか?)


 人の心の移ろいやすさときたら……。いや、あの男が特殊なのだろう。と潤が少しばかり閉口していると、政宗が戻ってきた。


「すぐに着替えろ!」


 会ったばかりの男に命令され、潤は「は?」と漏れそうになった声を喉奥で留め「はい?」と聞き返した。

 要点がまるでまとまっていない。


(泰騎が書いた報告書を突き付けられた気分だ)


 心中で毒づく。

 色々と破綻しているのだ。何故、初対面の相手にこうも傍若無人に振舞えるのか。そして、無駄に偉そうな初対面の男の誘いに、本気で乗ると思っているのか?

 思っているのだ。この男は。通常ならば警察に通報する状況だろう。だが、普通に接するつもりなど、潤にはない。

 政宗に言われるがまま従い、会社から支給されている今日の私服に着替え、ふたりで出掛けた。




 潤が政宗と出掛けて二十分ほど経った頃、泰騎のスマホに特務が終わったことと、それを本社へ伝えたという知らせが入った。

 更に四十分後、会社から支給されている私服姿の潤が帰ってきた。ダークブラウンのロングトレンチコートに白いタートルネック、黒いパンツ。175センチを超える長身と黒いロングヘアも相まって、その辺のモデルよりも街中で目立っている。


「あいつ、ホテルへ直行だぞ。信じられるか?」


 とは、潜めもしない潤の声。


「あの素行じゃと、余罪も色々ありそうじゃったな。ま、もうええか」


 罪人は今頃、本社の工作員によって体を片付けられているはずだ。


「潤、何でそんなに不機嫌なん?」


 潤の表情は全く変わっていないが、泰騎は何か感じ取ったようで……。


「ここへ戻ってくるまでに、五人に捕まった」


 つまり、五人から何らかのスカウトを受けたということ。

 しかも、潤のこの反応は相当しつこかったときのものである。


「男だと言っても引き下がらないのには、毎度困る……」

「そりゃあ、絶世の美女が実は男でしたーって方が話題性あるもんな」


 潤にじっとりと睨まれたが、いつもの事なので泰騎は気にしない。


「まぁいい。まだ定時まで時間があるから、もう一度着替えて……」

「あぁ、ええよ。ワシが外出るわ。潤は中に()り」


 女性用と男性用のレンタル着物のチラシを両手に持ち、泰騎が人の行き交う通りへ出た。

 そして、秒の速さで人だかりができた。


(泰騎のコミュニケーション力は少し羨ましいな)


 潤は雑用でもしていようと、店の奥へ進む。そこで、住居となっている上の階からトタトタと降りてきた人とすれ違った。

 “よし田”の長女だ。資料になかったので、名前は知らないが。晴れやかな顔で「お父さん、お母さん!」と店主たちを呼んでいる。


「あの強姦魔が死んだって!」


 どこからその情報が?

 潤は自分の眉根が寄るのを感じたが、十中八九社長だろう。この家とは縁があるのだと言っていた事を思い出した。

 両親は自分たちが殺人の依頼をしたと娘には明かしていないらしく、少し引き攣った笑顔で喜んでいる。

 手を取り合っている同業者の息子を殺める依頼をしたのだ。後ろめたさはあるだろう。

 と、思っていたのだが、


「あぁ、昨日からバイトに来てくれている方がね」


 彼女の父であるこの店の主が、さらっと明かした。

 これはもう、ここに居る全員を抹殺するか、最低でも記憶の隠ぺいをしなければならない事態だ。

 潤は痛む米神を押さえた。

 見て見ぬふりをするか、いや、一度持ち帰り社長に相談を……と頭を悩ませている潤の横を、長女が走り去った。

 彼女はスキップをするように跳ねながら店の外へ飛び出すと、一直線に泰騎の元へ駆け寄った。


「あのクソ野郎を退治してくださって、ありがとうございます!」


 あまつ、勢いに任せて抱きついている。

 泰騎は「あー、いや、僕は何も……」と営業用の標準語で対応する泰騎に、長女は「ひぃ! イケメン!」と絶叫し、瞬きを繰り返している。

 それに関して何も思うところがない潤は、情報漏洩についてどうするかで頭がいっぱいだ。正直、泰騎が女に掴まれて引っ張られていようと、どうでもいい。

 そうこう悩んでいるうちに、就業時間が終わりを迎えた。

 泰騎が店の長女をくっつけたまま歩いているのが見えたが、潤は私服だということもあり、従業員の面々に挨拶を済ませて先に帰路へついた。

 泰騎が「帰りに肉」とかなんとか言っているのが聞こえるが、無視する。




 休日二日間のバイトから四日経った。

 あの一家の記憶はそのままにして、工作員が様子を見ている状態だ。


「潤……ちょっと(ちょお)、相談が……」

「俺は関係ない」

「まだ何も言うとらんじゃろ」


 泰騎はあれから“よし田”の長女からストーキングされている。黒色に染めていた髪は徐々に落ち、元の灰色へと戻っていっているものの、バイトをしていた人物と泰騎が同一人物であるということは一目瞭然だ。

 家と職場は知られないよう徹底して撒いているのだが、夜のデートはそうもいかないらしい。何人居るのか潤は把握していない“カノジョ”たちから苦情が相次いでいるのだとか。


(ストーカーを退治したらストーカーに取り憑かれるなんて、泰騎にしては運がないな)


 いつもは、突っ立っているだけで銃弾が避けていく幸運の持ち主だというのに。

 しかし、こんなに参っている泰騎はなかなか拝めないので潤も物珍しさと好奇心から、事態を放置している。

 泰騎からは恨めしそうな視線が向けられているが、それも気付かぬふりをした。

 どう転んでも、この男の都合が悪いようにはならない運命なのだ。潤はそれをよく知っている。




 結局のところ、ストーカーが泰騎を追いかけ回していたのは四日間だけだった。

 現在、泰騎が“お付き合い”していたうちの厄介な相手はストーカーにより去って行き、泰騎のストーカーをしていた女は、泰騎を探している時たまたま見付けたであろう泰騎たちの後輩にターゲットを変えている。

 うんざりとデスクに突っ伏す後輩を尻目に、泰騎は声高らかに笑った。


「イケメンは(つれ)ぇな!」


 と。

 泣き出しそうな後輩にほうじ茶を淹れつつ、細く長い息を静かに吐き出した。


 次の標的があの女にならなければ良いな、と思いながら。





 

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― 新着の感想 ―
[一言] ターゲットだけで潤さんのストレスが解消されれば万々歳だったのに……(笑)。
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