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 ―翌日―


 屋根に打ち付ける雨の音で目が覚める、何か月いや何年ぶりだろうか?

あの夢を見ずに目が覚めたのは、湿度が高く決して心地がいいわけではないが不思議と嫌な気分ではない。

そんなことを思いながらベッドから立ち上がり大きく伸びをする


「よし……」


 呟きながら身支度をする、寝間着を着替え外套を羽織り長剣を腰に携えるいつも通りの格好だ。


 そして布団を整え部屋を後にする


「旦那、世話になりました。」


 店主は暫し不思議そうな顔をし俺を見つめ、続ける


「何があったかは知らないが?昨日とはまるで別人みたいな目ぇしてるぞなんて言うかな……?生気を感じるな」


 今までどう見えていたんだ……そんなことを考えながら

俺は笑みを浮かべ


「やっと前へ進めそうなんだ」


「そうか深い事情は分からんが良かったじゃねぇか、まぁがんばれよ」


 笑みを浮かべ答える店主に俺は再度、礼を言い宿屋を後にすると昨日の賑わいが嘘かのよう静かな商業地区を抜け

〈セラフィア〉へと向かう


「いらっしゃいませ!……ってリアム……その恰好?」


「あぁ行ってくるよ……その…なんだ改めてありがとうな必ず真実を見つけ出してくるお前の『その目』の事も……」


「……うん。行ってらっしゃい。」


 悲しくもあり嬉しそうな顔を背に再び都市の外へと繋がる門を目指し歩き始めた


 魔族やエヴェルソルそれらの侵入を防ぐために設けられた防壁、その門をくぐり海に沿った街道を進みギルドを目指す――


 一時間ほど歩いただろうか景色は先程から変わらず右手に砂原、左手に海といった具合だそんな変わらない景色に少しの退屈を感じていた時だった――


「うっ!うあーーっ!」


 突如、悲鳴が響き渡る


 すぐさま辺りをを見渡すと地面に座り込んだ男の前に、八本の足で地を這う黒い巨体が見える


 その瞬間、俺の体は思考よりも早く動く――


 腰に携えた長剣を引き抜き、男と黒い巨体の間に立ちはだかる


「立てるか?」


 俺が背を向け男に問いかけると、すぐに立ち上がり近くの岩陰へと身を隠す


 黒い巨体に八本の足、マッドスパイダーか……

一体だけなら一人でどうとでもなるな……


 しばらく俺と巨体の間に沈黙が流れる――


 沈黙を破り動く巨体、二本の前足を大きく振り上げるとそのまま俺の頭へ振り下ろす、俺が後方へ飛びそれを躱すと、その振り下ろした前足の反動を使い巨体が宙を舞う


 狙うは着地後――

 

 轟音と共に着地した巨体の後方で構えた剣で横に薙ぎ払う


「狙うなら関節だ」


 大きく体制を崩した巨体に飛び乗り脳天に剣を突き立てると微動だにしなくなる、俺は絶命を確認し先程の男に声を掛ける


「もう大丈夫だ。」


 声を掛けると岩陰からゆっくりと出てくる、ひどく怯えているが見た所、外傷はなさそうだ


「ぁ…ありがとうございます……」


 とてもではないがこのまま帰らすのは無理そうだ……

俺はギルドに向かっている事、そしてそのギルドがすぐ近くだという事を伝えひとまずギルド同行させることにした。


 再び歩き始め十数分経っただろうか、壁に囲まれた孤島が目に入いるそしてその孤島がギルドだと伝えると、男が少し安堵の表情を浮かべる、そのまま俺と男が壁の方へ向かっていくと人影が見えた、こちらに手を振っているように見える……サイディルだ


「おーいこっちだ」


 見ればわかっている……


 俺と男は急ぐ訳でもなくそのまま歩を進める


「リアム、やっぱり来てくれたんだね

そちらのお方は?」


 道中の状況を伝えるとすぐさま兵を招集し道中の安全を確保する為の兵が派遣された


「とりあえず中に入ろうか雨の中体も冷えただろう?

温かいお茶でも飲みながら君の紹介をみんなにしようか何せ君は言ってしまえば一人で魔族とエヴェルソル(ヤツら)を相手にしてる〈変人〉だからね」


 まったく今日は朝の宿屋の主人といい、酷い言われだ……

そんな事を思いながらサイディルに連れられ建物の中へと入っていく、先程の急な派遣命令のせいだろうかかなりあわただしく感じる


「はーい、みんな注目!彼が昨日話した私の特別推薦リアム君だまぁ面識は無くとも噂は聞いてる人が居るかな?取敢えず今日から、共に任務こなして行く仲間だ、とは言っても私や副長などと共に()()調()()任務を主として動いてもらう事になるだろう」


「リアム・ノーレンです。」


 サイディルからの紹介に合わせ一言、自己紹介を終えるとすぐにサイディルに別の部屋へと連れていかれる


「すまないね、取り急ぎ片付けないといけない任務が幾つかあるから、来て早々悪いがちょっと手伝ってもらうよ。」


 そう言われ、中央にテーブル、壁には塗版が掛けられた部屋へと案内される


「支部長、お待ちしていました。」


 部屋へ入ると青年が出迎える


「待たせたね、アロウでは少し打ち合わせをしてすぐに出発しようか。リアム、彼はアロウ今回の任務に同行してもらう、そして任務の内容だが、此処から北西に向かった所に今は使われていない坑道があるんだが、最近その付近を通る行商人が襲われたという報告が入っている、報告をもとに

数名を調査に派遣したところ、派遣した兵は消息不明という事態になっているそこでこれ以上の被害を出さないために私、直々に命令が下ったという訳だ、そして襲撃から逃れた行商人からの証言だが坑道付近には魔族が、坑道が見渡せるような丘の上には監視所のようなものがあったらしい……正直、情報不足もいいところだが先に言った通りこれ以上の被害を出すわけにもいかないからね、先ずはその監視所のような所を調査、可能であれば制圧する状況次第ではそのまま坑道を制圧する取敢えずこんなところかな、大丈夫かい?何か質問は?」


 俺とアロウが頷くと


「じゃあ、行こうか。」


――街道を北西へ向かい半日ほど歩いただろうか遠目に小高い丘が見える

そしてその奥へ見える山々は白く染まっている


「どおりで寒いわけだ……」


 呟きながら歩く俺に先を行くサイディルが声を掛けてくる


「あの丘の上が恐らく例の監視所だ、万全の状態で挑む為に今日はこの辺りで休息をとろうか、二人は夜営の準備を進めてくれ私は少し状況を見てくる。」


 サイディルはそう言い残し丘の方へと再び歩を進めていく


「じゃあリアムさんは天幕を張ってもらえますか、自分は火を起こしておくので」


「あぁわかった」


 アロウと野営の準備を進め、日が落ち辺りが夕闇に包まれる中、辺りから足音が聞こえる――


 素早く俺とアロウは剣を構えると――


「どうしたんだい?そんな剣なんか構えちゃって……」


 安堵のため息をアロウと共につくと、サイディルが笑みを浮かべる


「すまない、すまない驚かせたねじゃあ状況を共有しながら食事でもしようか」


 俺は焼き上がった肉を切り分けシチューを器へ盛り二人へ手渡す


「おぉ旨そうだ!早速いただこうか……あぁとても美味しいよリアム」


「お店が出せるくらいですよ!」


 自分で言うのは何だが料理そして狩猟は幼いころからとある理由で得意だった


「満足してもらって何よりだ」


「よし、楽しい食事の最中だが監視所の状況を説明しようか……まず監視をしている者は三名一人は更に高くなった見張り台にいる恐らくそこから状況を共有し残りの二人が街道の陰から襲うというのが手口だろう」


 アロウが続ける


「では街道で行商人を装いそれを襲いに来たと同時に監視所を制圧するというのは?」


 俺は少し間を置いて口を開く


「いや、それだと行商人を装う役へのリスクが大きいそれに見張り台というものがある以上坑道の方へ何かしらの合図が送られた際に坑道が警戒状態になり兼ねない……」


 サイディルが何やら満足そうな顔を浮かべると


「いいねぇ二人とも各々、意見を持っていて素晴らしいよきっと二人は良き指導者になれるよ、そして肝心な作戦だがリアムが言った様に行商人を装うのは確かに、リスクが大きすぎる、街道側はあまり見通しが良くなく隠れる所が多いからね、敵が二人とは限らないしね……だから直接、監視所を制圧する私とリアムで下にいる二人を片付けるからアロウは見張り台の奴を弓で頼む、坑道の方に関しては監視所の制圧によって動きが見られなければそのまま制圧へと向かうつもりだ」


 俺が頷き続けてアロウが頷く


「じゃあ夜明けと同時に行動し始めるから二人も早めに休んでくれよリアムご馳走様、美味しかったよ」


「リアムさんも後は片付けて置くんで休んで下さい」


 俺はアロウに言われるがままにサイディルと天幕へと向かい眠りに就いた


―翌日明朝―


 サイディルを先頭に気配を殺し存在を悟られないようにゆっくりと丘を登る、見張り台を狙う為に途中でアロウと別れ頂上を目指す、頂上へ着くと近くの巨木の陰へ身を潜め様子を伺う


「んー、ちょっとまずいね……二人の距離が近すぎてこのまま二人で行くとお互いを斬り兼ねないね……一人でいけるかい?」


「問題ない、任せてくれ」


 そう返答を返し俺はアロウへ合図を送れる位置へと移動し再度、様子を伺う槍を構えた者と、短刀を二本腰に携えた者が建物を背にし立っている、俺はアロウと目を合わせ合図が見えることを確認し更に近づく


 そして合図と同時に矢が放たれ見張りを射抜く――


 その瞬間俺は、陰から飛び出し短剣使いの背中を目掛け突きを放つ


――――否


 気づかれている、空を裂き突き放たれた穂が俺の目前に迫る既所で体を捻り、左手で槍の軌道をずらし飛び出した勢いのまま槍使いに体当たりをし突き飛ばす、振り返り短剣を両手に構え、突進してくる短剣使いに右手に持った長剣を顔目掛け投擲する


 無論弾かれる、だが短剣で塞がれた視界を利用し胴へ体当たりをし崖下へ突き落す、止まらず投げた長剣を拾い上げ槍使いの元へ向かう、立ち上がり再度突き放たれた槍を躱し喉元へと剣を突き刺した


 糸が切れた人形の様に倒れこんだ槍使いから剣を引き抜き、眼前から足元へ向け空を斬り鞘へ収め、崖下に目を遣ると、痙攣を起こす短剣使いが横たわっている


「時間の問題だな……」


 俺はそう呟き二人へ制圧が完了したことを伝える


「いやぁヒヤヒヤしたよ、頬は大丈夫かい?少し休むといい

おーいアロウ建物を調べよう」


「はい。」


 俺は近くの倒木に腰を掛ける……決して罪悪感が無いわけではない今殺めた彼らにも大事な何かが、大事な人が居たかもしれないだがその為に徒党を組み何かを奪うなどましてや国王を亡き者するなど有ってはならない……


「リアムすまない、ちょっと来てくれ」


「あぁ」


 サイディルの問いかけに答え腰を上げ建物の中に向かうと、其処には大量の武器、物資、恐らく全て襲われた行商人から強奪されたものだろう


「こんな量の武器それに食料……奴ら戦争でもする気ですかね?」


「んー戦争かどうかは分からないけど何かしら企てているのは間違いなさそうだね……」


 そういうとサイディルが一枚の手紙を差し出す



「―指令書―


先日の荷馬車隊、襲撃の失敗により当初の予定より武器及び物資の量が

不足しているため骸の砦、南東の廃坑付近及び極彩の森、南西の村近くへと野営地を設営し行商人、付近の村からの略奪へと変更する、当初『ライド』からの一般人への被害は最小限、との方針から少々外れてしまうが敢行せよ


                               ―マイドー      」



「ほら、何かしらの目的のために物資を集めているようでしょ?

そして不幸中の幸いかこの『ライド』は必要以上に一般人を巻き込むことを、よく思っていないみたいだね……という事は消息を絶った兵や行商人、まだ生きている可能性があるってことだ」


「ですがこのまま坑道を制圧するのは……こちらは三人ですよ」


「だけどね、このまま帰って態勢を立て直してもう一度、っていう暇があるとも正直思えないんだ……

一応言っておくが君たちに無理強いはしないよ、この先に行くかは君たちで決めてくて構わないよ」


 すぐにアロウが答える


「僕はついていきますよ」


「あぁ、ありがとうアロウ。」


 黙っている俺を見てサイディルが声を掛ける


「リアムどうした?さっきから黙り込んで」


「この手紙の……荷馬車隊の襲撃失敗って……」


「あぁ、君が先日守った荷馬車隊の事だろうね」


「俺があの荷馬車隊の護衛をしたせいでこの近辺や複数の村での略奪が行われている」


「結果的にはそうなるね、じゃあ君は其処で指を咥えて救えるかもしれない命がただ死に逝くのを見ているかい?」


 あの時と同じ少し冷めた口調のサイディルを俺は無言で見つめる


「まぁ君が此処でそうやって足踏みをしてるというのなら私は構わない……だが折角、再び歩き始めたのにこんな所で止まってしまうなら最初から歩き出さない方がよかったじゃないか?」


「――っ!」


「そう、そうだよ、この先もっと辛いことが有るだろうそして君はそれを承知で()()探っているこんな所で止まっていられないだろう、いや止まるはずがないだろう。

それにね、君が守った荷馬車隊だがギルドの本部へ医療物品を運んでる最中だったんだ

人員不足で護衛を付けられなかったこちらの責任もあるがあの品が無ければギルド内に多くの死者を出していたんだ」


 微笑みながら俺の肩に手を当てサイディルが続ける


「大丈夫私の経験上、善意が全て裏目に出たことは無いからきっと君も大丈夫だ!」


 もっとマシな励まし方は無いのか……


 俺は少し微笑み肩に乗っている手を軽く退け、丘の上から坑道の付近を見渡しサイディルに言う


「此方側から見えるのはあの、でかい骸骨だけだがどうする?」


「そうそう、それでこそ君だよ、じゃあ少し作戦を練ろうか」


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