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side妹 ー7

【黒瀬月】



それはほんの少しの綻びだった。


母と兄……二人の態度の変化が、私に違和感を覚えさせた。



昔から、兄さんは優しくて……母の言うことを聞く気弱な一面を持っていた。

だからこそ、私は中学時代に兄さんが、他の女子から強引に迫られて肉体的に傷つかないために守ることを考えた。


私の思惑通り、兄さんは私の言うことを信じて、他の女子に近づかないようになった。他の女子たちが近づかないように私がガードもした。



それは上手く言っていた。



変化し始めたのは、中学の卒業式だった。



恥ずかしがりやの兄さんが、私の頭をポンポンと撫でた。

他の女子が驚く行為であったことは間違いない。



それからの兄さんは、高校生活を送る間に気弱どころか精力的に動き始めた。

兄さんも変わろうとしているのだと、最初は傍観していた。

日が経つにつれて、兄さんだけでなく周りの変化もあった。



ユウナ姉さんの闇落ち変化。

セイ母さんの態度の軟化。



夏休みの終わりには、母さんの方が兄さんに媚びを売るようになっていた。


いったい何が起きているのか?私は兄を観察するようになった。



シャツの匂いは変わっていない。

肉体は成長を遂げ、身長が伸びて筋肉もついた。

他の男子とは、元々違う生き物であった兄さんは完璧さに磨きをかけた。

料理を始め、私のことも気遣ってくれるようになった。

性格は優しく真面目で、男子とは思えないほど素晴らしい。



はて?どこが変わったのだろうか?



ダメだ。あまりにも完璧すぎる兄さんの変化がわからない。


だから、私は兄さんにカマをかけてみることにした。



「お兄……ちょっと話があるんだけどいい?」



リビングでくつろいでいた兄さんに声をかける。



「どうした?」



私は兄さんを窓に追い詰める。

これで逃げられない。言い逃れもさせない。



「……高校に入る前から、違和感を感じてたの。

私の知っているお兄は本当に今のお兄なのかなって?

中学時代のお兄は頼りなくて、身体は大きかったけど。私が守らないとダメだって思ってた」



私が顔を近づけると頬を赤くする兄さん。

可愛い。好き。

私が怒っているように見せているので戸惑う顔も可愛い。



「そっそうか?お兄ちゃんはもう大丈夫だぞ。だから、ツキはツキで好きにすればいいよ」


「ううん。そういうことじゃないの。

ねぇお兄……お兄って本当に私の知っているお兄なの?」



カマをかける言葉を発すると兄さんは驚いた顔を見せる。



「どういう意味だ?」



兄さんは驚いた顔を誤魔化すように、問いかけてくる。



「ちょっと黙って!」



本当に変化があるなら、私の言うことに従わないはずだ。

私は強引に兄さんのシャツのボタンをはずしていった。



「何を!?」


「うるさい」



全てのボタンをはずしてシャツを捲る。



「顔も、体も、お兄で間違いない……」



私しか知らない兄さんの秘密。

脇腹に隠された傷跡を覗き込んだ。

昔と変わらない場所に存在する傷。



「脱いで」



「えっ?」



「いいからシャツ脱いで」



「はい」



昔と同じ、兄さんは私の命令に従うようにシャツを脱ぐ。

上半身裸になった兄を見ながらシャツの匂いを嗅ぐ。



「うん。間違いない。お兄の匂い……でも……ねぇ、お兄」


「はっはい!」



変化がわからない。カマをかけたときに驚いた顔をしていたけど。

まったく違いがわからない。

だけど、違和感だけが拭い去ることができない。




「お兄は、お兄?間違いない?」



「ああ、ツキのお兄ちゃんだよ」



兄さんの言葉にウソはない。



「そう……」



だけど……私は確信してしまった。



「お兄はお兄じゃないんだね」



「えっ?」



「私の知っているお兄はね。凄く優しいの。優しくて、気弱で、私に詰められるとオドオドして言葉を発することも出来なくて、ドモッて顔を避けるの……最近は少し明るくなろうと頑張っているから放置してた。


だけど……ずっと違和感があって、この間の温泉で確信したの……お兄は私の知ってるお兄じゃない」



兄さんが、最初に見せた驚いた顔を見せる。



「あなたは誰?私のお兄ちゃんをどこにやったの?教えなさい!!!」



兄さんは考える素振りを見せて黙ったまま、顔を上げた兄さんの表情は怒りが込められていた



「俺はヨルだよ。ヨルに間違いない。ただ、中学時代は暗黒時代だった。

誰からも相手にされなくて、家族からもキモイって言われて、だから変わろうとしてるんだ!」



兄さん?であって兄さんではない誰か?だけど、その感情は兄さんのもので間違いなくて、兄さんが傷ついていたことを私は知ることになった。



「……そう……もういい」



兄さんが見せた激情に私は耐えられなくなった。

怒られたことなど一度もない。

シャツを抱きしめたまま自分の部屋へと戻った。



兄さんであって、兄さんではない誰か?だけど、兄さんにしか感じられなくて……兄さんの怒りを持っている兄さん。



「少し距離をおいてみよう」



私は次の日から兄さんを避けるように、母さんが用意してくれたホテルに泊まるようにした。

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