表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
80/223

side転校生 ー 1

【座敷露】



広い座敷には和服を着た女性が正座をして私を不安げな眼差しで見つめている。



「ツユさん……東京はとこさぁ~本当にいくだが?」



お母さんから発せられた言葉に私は無言で頷いた。


都会には、弟がいる。


歳は10個も離れている弟は病気がちで、ほとんど病院から外に出たことがない。


当家がある静岡で最初こそ病院通いをしていたが、5歳を過ぎると病状が悪化したため都会の病院へ移送された。

家族の誰もいない場所で暮らす弟のために私は都会の家へと移動することを決意した。



「ツユさんが行かんでも、週末になれば私が行くんだよ」



「わかっているよ。だけど……側にいてあげたいの」



「……うちは、ツユさんがいないと寂しいんだよ」



「ツララはもっと寂しい」



「う~、ツユさんがお母さんを捨てる~」



「子供成長を褒めて」



親を振り切って都会へと転校した私には弟の看病と、もう一つ目的があった。



それは夏に出会った忘れられない出会い。



「あっあの」



大きな体をした男の子がオロオロと困っている姿を見た時、多くの女性たちが話しかけていいのか視線を集めていた。



「えっあ?はい」



大きい!私の身長は138cmで、彼の胸にしか私の身長は届かない。



「トイレ探してるの?」



男性が困ること?私が弟と出かけた時、困ったことを考えて質問をしてみた。



「実はそうなんだ」


「ついてきて、男性用のトイレってあまりないの」



他の女性たちが悔しそうな顔をしているのが分かる。

みんな男性と話したいと思っているのに慣れていないから話しかけられなくて、私に先を越されたことを悔やんでる。



もしもトイレに連れて行って、彼を放置したら彼は他の人に襲われるかもしれない。



「ありがとう」


「いいの……私にも弟がいるから、慣れてる」



彼は出てきて私がいたことに驚いているようだ。



「ありがとう。助かったよ」


「いいの。さぁ戻ろう。さっきの場所わからないでしょ?」


「あっ」



弟だったら手を繋いで戻るところだけど。

初対面の女性に手を繋がられるのは抵抗があると思う。



彼がちゃんとついてきているのか確認しながらゆっくり歩く。



「重ね重ねありがとうございます。何かお礼をしたいんだけど。よかったらジュースでも奢るよ」



丁寧にお礼を告げるいい子。

彼の厚意を無下にするのは悪い。

私は大好きなジュースが自販機に見えたので口にする。



「……イチゴミルク」



男の子に告げるのは恥ずかしい。



「OK」



並んで座っても彼は大きくて、隣にいると安心感を与えてくれる人だった。



「俺は黒瀬夜って言うんだ。道案内してくれてありがとう」



彼が名乗り、名乗るつもりもなかった私は躊躇いながら名前を告げた。



「……ツユ。座敷露ザシキツユ。別に慣れてるからいい」


「ツユちゃんか。慣れてても困っている人に声をかけられるって凄いことだと思うよ。本当にありがとう」



ツユちゃん???そんな風に男性から呼ばれたことはない!!!

私は急に恥ずかしくなって顔を赤くして下を向いてしまった。



「そろそろ行こうか。元の道までお願いします」


「んっ」



元の道に戻ると彼の家族が待っていて、安堵した私はそっとその場を離れた。

それは夏のたわいない思い出になるはずだった。



だけど、夏の終わり……彼をテレビで見かける機会があった。



青葉高校?のスポーツ科がテレビに出ているとき、応援席に見える彼の姿。



私は居ても立っても居られない気持ちになって、転校することを決意した。



大好きな弟と心に残った彼の側に行きたい。



青葉高校は都会でも有名な進学校で、編入するための条件は進学クラスに入れるだけの学力があるか、スポーツ科に推薦してもらえるだけの運動能力だった。



青葉高校の進学科は男子と一緒に授業を受けることが出来るというので、私の選択は進学科クラスに入ること一択になった。夏休み前に行われた実力テストを受けて進学科の順位を決めるというので試験を受けた。



私は並みいる優等生を押しのけて実力テスト一位の座を手に入れた。



「1ーAクラス?」


「そうだ。男子は、緑埜洋平君。赤井隼人君。白金聖也君、黒瀬夜君の四人が在籍している」



担任になる神崎椿先生にクラスの説明を受ける。


進学科のトップ25名だけが在籍できる1ーAクラスに転校することが決まり、青葉高校の暗黙のルールとして男子に迷惑をかけないでほしいと言われた。



「迷惑?」


「ああ、元々男子は精神的に弱い生き物だ。女子へのトラウマや苦手意識を持つ者も多い。座敷は見た目が若く見えるから男子から、拒否されることは少ないかもしれないが、傷つけないようにしてやってくれ」



学校には色々なルールがある。私は承諾して弟に会いに行った。



「お姉ちゃん!」


「ツララ、起きて大丈夫?」


「うん。大丈夫。今日は調子がいいんだ」



大丈夫と言いながら青白い顔をするツララは本当にいい子。



「お姉ちゃんは好きな人に会えた?」



私は夏に出会った彼の話をツララに聞かせた。

ツララは病気がちな自分とは違って大きく強い彼の話を聞きたがるようになった。



「ごめんね。まだ夏休み前だから会えてないの」


「そっか~お姉ちゃんとその人が結婚して僕にお兄ちゃんになってくれたらいいのになぁ~」



私は弟の願いを叶えてあげたい。

彼と結婚したい。彼を弟に紹介したい。



「ガンバル!」


「お姉ちゃん、モテモテだから大丈夫だよ!!!」



地元では私は人気者だった。

この見た目と家柄によって、男性からも敬遠されることなく。

むしろ、接しやすいと好まれていた。



弟に背中を押されて始まった学園生活は、以外にも修羅の巣窟だった。



彼が人気があることは分かっていたけど。



クラスメイト達から向けられる敵意が強い。



「はい。承知しています。男子応援団の皆さんは青葉高校の誇りですから、生徒会や各運動部連からも是非にと嘆願書が届いたそうです」



話題に上がった男子応援団とはなんだか?



「はい!」


「はい。座敷さん」


「男子応援団とは?」


「ふふふ、座敷さん。それを教えることはできません。

青葉生徒として、男子応援団を知らない者はおりません。

ですから、知らないことが恥なのです」


「なっ!ぐっ卑怯!教えてくれてもいいはず?」



マウンドを取ってくる眼鏡女子。

こいつは敵だ!



「座敷、これだ」



私が悔しくて奥歯を噛みしめていると、後ろから黒瀬君が話しかけてスマホを見せてくれる。



「ん?ありがと。これは!!!」



そこには歌って踊り、ときに応援で声を張り上げる彼の姿が映し出されていた。

スポーツが変われば、衣装も変わり歌や踊りも変わる。



これは……すぐにツララに見せてあげたい!



「登録した。ついでに私の番号も入れた」


「えっ?番号?」


「ツユちゃん?」




彼が初めて会った時に呼んでくれた呼び方。



「そう。私のことはそう呼んで」


「おっおう」



戸惑う彼に私はお願い事をする。



「ヨル君……ヨル君……」



彼は考え事をしているのか、呼びかけても返事がない。



「えっ?」


「ヨル君。やっと気づいた」


「あっごめん。呼んでた?」


「うん。呼んでた。ちょっとお願いがある」


「お願い?」



私がヨル君に話しけていると、帰りかけていた他の女子の足が止まる。



「どうした?」


「学校案内してほしい」


「学校案内?俺が?座敷の?」


「そう。ヨルが、ツユちゃんの」



ヨル君は隣に立っている男子へ視線を向ける。

彼は……白金君?二人は友達なのかな?



「いいんじゃない。ヨルって学校のこと知らなさすぎだし。この機会に一緒に探検してきたら?」



どうやら白金君は私の味方をしてくれるようだ。



「ダメ?」



私は自分でもあざといと思いながらも見た目の幼さを利用する。



「いいぜ。俺も詳しくないから、一緒に探索する形になるが」


「それでいい。行こ」



私は立ち上がって彼の手を握る。ドキドキするけど嬉しい。



「「「「「「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!!!!!!」」」」」」」」」」




敗者の嘆きが聞こえてきたけど関係ない。



そのあと、二人で歩いているとスポーツ少女に物凄い情報を教えてくれた。



ヨル君の生ブロマイド!!!絶対手に入れてツララに見せる!!!



私は早々にヨル君に別れを告げてブロマイドを購入してツララの病院へと向かった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ