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態度の変化

朝、目が覚めると布団に母さんの姿はなかった。


仕事に言ったのかな?


そう思って朝食がとれる部屋に入ると、女性陣が座っていた。



「おはよう。ヨル」



少し気恥ずかしそうにする母に手を引いかれてお膳の前に座らされる。



「さぁ食べましょう。いただきます」



お茶碗にご飯を注いでくれる母さん。


今まで、こんなことをしてくれたことなどないので、戸惑ってしまう。


それは俺だけじゃなくて、一緒に座っているツキやユイさんも驚いているみたいで母さんを見ていた。



「何?みんなして変な顔をして、ご飯が冷めるわよ」



朝食を食べ始めた母さん。

これまでのことが嘘のようにツンツンした雰囲気がなくなって、ケロッとした顔をしている。



ツンデレ?そんな母さんが面白くて笑ってしまう。



「あはははは、うん。なんかいいね。こういう雰囲気」



俺が笑うと戸惑っていた二人も顔を見合わせて息を吐く。



「いったい何があったんだか」


「母さんが……変」



ユイさんはヤレヤレといった風に笑顔になり、ツキは相変わらず辛辣な様子で変な物を見るような態度を取っていた。


ユウナだけは黙々と食事を取っていた。



ーーーーーーーー----------------------------



朝食を終えた俺たちは初めて、家族三人で旅行先で観光をした。


母さんが俺と手を繋いでハシャイでいる。



「ヨル!あれ見て、やっぱり大きいわね」


「ヨル。一緒にこれ食べよ」


「母さん。お兄を独り占めしないで」



何故か対抗心を燃やしたツキが反対の腕に抱き着いて母さんに張り合っている。



「はいはい。ツキは本当にお兄ちゃん子ね。でも、ツキは妹だからお兄ちゃんと付き合えないけどね」


「そっそれは」


「あっヨル。今度はあれ食べよ」



観光名所だけあって、色々な店を三人で歩くのは初めての経験だった。


家族で旅行するのは凄く楽しかった。


ユイさんは、ユウナを連れてどこかに行くと言ってたので。今日は別行動だ。



「ふふ、たまにはこういうのもいいわね」



厳しくて、いつも眉間に皺を作っていた母さんが穏やかに笑っている。

ツキは不気味な物を見るような目をしていた。

俺は母さんの中にあった毒が吐き出されたお陰だと知っている。



「そうだね。家族で旅行って初めてだったから楽しいよ」


「まぁお兄がいいなら行ってあげてもいいけど」



ツンデレなことを言うツキに、俺は二人が似ているのだとまた笑ってしまう。



「え~別にツキはいなくてもいいんだけど」



ツキをからかうように母さんがそんなことを言う。



「!!!絶対嫌。お母さんとお兄を二人きりにするのは危ない」



ツキの後ろに犬の幻影が浮かんで警戒しながら吠えている姿が見える。

母さんの後ろには余裕で笑う狸が見えた。



「二人とも仲良くね。俺はトイレ行ってくるから」



そう言って二人から離れる。


遠くから見る二人はケンカしていながらも会話が続いていた。


俺はよかったという思いでトイレを探して……



迷った。



だって男子トイレがないんだもん。



「あっあの」



俺が困っていると、小さな女の子に話しかけられる。



「えっあ?はい」



身長は130cmぐらい?小学生にしか見えない女の子に話しかけれて戸惑う。



「トイレ探してるの?」



どうやら俺が困っていることに気付いてくれたようだ。



「実はそうなんだ」


「ついてきて、男性用のトイレってあまりないの」



観光客が多いところで小学生の女の子に助けられる俺って情けない。

でも、物凄く視線を感じるので助かった。



「ありがとう」


「いいの……私にも弟がいるから、慣れてる」



こんなにも大きな弟はいないだろうけど。

男性の兄弟がいる苦労を知っているのだろう。

事なきをえて出て行くと、女の子はトイレの前に立っていた。



「ありがとう。助かったよ」


「いいの。さぁ戻ろう。さっきの場所わからないでしょ?」


「あっ」



何故、女の子が待っていてくれたのかを悟って恥ずかしくなる。


言われるまで元の道に戻ることも考えていなかった。



「重ね重ねありがとうございます。何かお礼をしたいんだけど。よかったらジュースでも奢るよ」



年下の女の子ではあるが、俺は丁寧にお礼を告げた。

自販機が見えたで指さして彼女にお礼をすると言う。



「……イチゴミルク」



小さな声で恥ずかしそうにほしい物を告げられる。



「OK」



俺は自販機にあったイチゴミルクを購入して女の子に渡した。

缶コーヒーを買って二人で並んで座って飲んだ。



「俺は黒瀬夜って言うんだ。道案内してくれてありがとう」



困ったときに助けてくれた人に、もう一度改めて名乗ってお礼をする。



「……ツユ。座敷露ザシキツユ。別に慣れてるからいい」


「ツユちゃんか。慣れてても困っている人に声をかけられるって凄いことだと思うよ。本当にありがとう」



俺が三度目の礼を言うとツユちゃんは顔を赤くして下を向いてしまった。



二人で無言でお茶を飲んで、飲み終わったところで声をかける。



「そろそろ行こうか。元の道までお願いします」


「んっ」



ツユちゃんは、頷いて歩き出してくれた。


俺が戻ると母さんとツキが探していたようで、慌てて抱き着いてきた。


ツユちゃんにお礼を言おうと思って振り返ると、そこには彼女の姿はなかった。



「旅先の出会いかな?」



また一つ思い出が出来た。


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