side妹 ー 5
【黒瀬月】
兄が高校に入学して活動的に行動を開始するようになった。
私は兄が何をするのか見守るつもりだ。
それによって、これからの自分の行動について考えようと思っている。
兄は私に対して、常に特別な存在として接してくれている。
それは妹という立場があるからであり、家族として私には全てを許してくれる。
ゴールデンウイークを超えた辺りから、兄は服装だけでなく。
誰かと電話をしている姿を見かけるようになった。
最初はユウナ姉さんかと思っていたけど。
どうやら相手は男性のようだ。
聞き耳を立てて聞こえてきた声が男性だった。
名前は白金聖也さん。
どうやら私が知らない間に男性の友達が出来ていた。
週末も男友達と遊びに行っていた。
聞き耳を立てて知ったのだが、兄はどうやら部活動を始めたらしい。
男友達と仲良くしている分には許せる範囲だ。
いったいどのような部活なのか気にはなる。
ただ、引っ込み思案な兄のことだ。
文化系で、男同士でゲームでもしているのだろう……
私が気楽に考えていると母から呼び出しを受けた。
忙しい母が私を呼び出すなど珍しいことだ。
私は兄にメッセージで遅くなることを送ってから家を出る。
普段とは違って大人っぽい化粧にドレスコードが認められる畏まった服装へと着替えを整えた。
「お待たせしました」
ガラス張りの部屋に漆黒の床。
母が好む黒を基調とした個室の部屋へと案内される。
「ツキちゃん。いらっしゃい!」
私の挨拶に応えたのは母ではなく。もう一人のお母さん。
ユウナ姉さんの母である。
青柳結さん。
「こうして女子会もいいわよね」
青い髪を腰まで伸ばした結さんはYUIとして、母と共に会社を興して、今では美魔女モデルとして化粧品会社を設立して社長をしている。
「ユウナ、ほらあなたも元気だしなさい」
先に到着していたユウナ姉さんは、どこか虚ろな瞳をしていた。
最近は連絡を取り合っていなかったが、YUIさんと同じく、明るく少しおバカで天然だったユウナ姉さんの印象とは随分と変わってしまったように思う。
「ユウナ姉さん。久しぶりね。元気がないようだけど大丈夫?」
私が問いかけると、ユウナ姉さんは私を見た。
ただ、私を見ているようで、その焦点が合っていない。
「そうなのよ。七月に入ったぐらいから、この子の様子がおかしくてね。
最近は大好きだった水泳の部活にも参加してないみたいなの。
学校側からも体調不良で部活をやめるようなら普通科に編入してはどうかって連絡まで来ててね」
YUI母さんが心配そうに話をしてくれる。
私には心当たりが全くない。
「YUI、少し黙って。今日はツキに聞きたいことがあって呼んだの」
母であるSEIが私を威圧する口調で、YUI母さんの話を遮る。
この人は昔からそうだ。
他の人の話など聞こうともしない。
「なんです。母さん」
「あなた、私にヨルがキモイって報告してたわよね」
兄さんの名前が出るとユウナ姉さんがビクッと反応する。
「ええ。母さんも中学時代の兄さんを見て、そう思ったでしょ?」
最近の兄さんはカッコよくなってきている。
だけど、私にとっては昔から兄さんは完璧な人だった。
多少見た目が変わってもカッコイイことに変わりはない。
「それは……まぁそうね」
母さんが何を言いたいのか分からない。
「ねぇ、ツキちゃん。この動画知ってる?」
YUI母さんが差し出したスマホには男性が水着姿で歌って踊っている動画だった。
テレビなどで、少数ではあるがアイドルがこのようなことをしているのを見たことがある。
この動画がどうしたのか?私は見ている間に違和感に気付いた。
黒い髪に紫のラッシュガード。
中央で歌って踊っている人物は兄さん?
「これって!」
「そっか〜ツキちゃんは知らなかったんだね。これね。ヨル君が高校で作った部活なんだって。名前は男子応援団部」
私は何も聞いていない!
兄が部活を始めたことは知っていた。
こんなことをしていたなど何も聞いていないのだ。
「そうか……その様子だとツキちゃんは何も知らないみたいね。ユウナ?あなたは知ってたんでしょ?」
YUI母さんは、私ではなくユウナ姉さんへ話を振る。
私もユウナ姉さんを見て反応を見る。
ユウナ姉さんは私が見ていたスマホをガン見して笑い出す。
「あははは!!!ヨル~私のヨル~!!!素敵。やっぱりヨルはカッコイイなぁ~ハァ~ヨルが好き」
話し出したユウナ姉さんは、壊れたオモチャのように兄さんの名前を呼んで好き好きと繰り返す。
「この間、ヨルに会ったわ。自信に満ち溢れて男らしくなっていた……私が知らないヨルだったわ」
母が兄さんに会った?
いつだろうか?
そういえば、兄さんが書き置きをして遅くなった日があった。
あの時か……だけど、母は何を言っているのだろう?
兄が男らしく完璧なのは昔からなのに?知らなかった?
「母さんは何を言ってるんですか?兄さんが完璧なのは昔からです。
ですが、他の女性に取られないために中学時代はユウナ姉さんと兄さんを守っていたんです。
それなのに知らなかった?もしかして、本気で兄さんにキモイと発言したんですか?ありえません!」
私は家族ではあるが、そんな発言を本心からしたのなら、母の思考が理解できなくて信じられなかった。
昔からそうだ。
母は自分のことばかり……兄さんや私のことなど考えてもいない。
「ツキ?!」
驚いた顔をする母さん。
「失礼。YUI母さん。食事をしてもいませんが、この場に居たくありませんので先に失礼します」
「……ツキちゃん。わかったわ。またゆっくり話しましょう」
YUI母さんは困ったような顔をして承諾してくれた。
私はユウナ姉さんを見る。
「兄さんに何を言われたのか知りません。
ですが、ユウナ姉さんは私とは違ったようですね。
兄さんに恋人になってほしいとでも求めましたか?
それを断られた?」
ユウナ姉さんの体がガタガタと震え始める。
「私は兄さんを守る存在です。
兄さんの側で兄さんをずっと知っているのは私だけ。
他の女など兄さんが望まなければ意味がありません。
兄さんに選んでもらう女性になれないなら、そのまま堕ちていってください」
私は伝えたいことだけを伝えてその場を離れた。
帰って兄さんのシャツの匂いをかがなければ、この怒りはおさまりません。