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貞操逆転世界なのに思ってたのとちがう?  作者: イコ
時は流れる
206/223

世界をこの手に

 高い高い日本で一番高いタワーの頂上。

 その場所は普通の人は立ち入り禁止ではあるが、特別に立たせてもらっている。


 本来ならば立つことが出来ない場所だからこそ、夜の闇に照らされる街並みは美しい。


「どうしてこんな場所なの?」


 黒いコートは革製品で風を通さない者を用意した。

 それでも高い場所は風が強くて寒い。


「なぁ、レイカ……」


 この場には俺とレイカしかいない。

 それはレイカがこの国のトップだから……


「何かしら?あなたがこのように私と二人きりになるなんて珍しいわね」


 モコモコで雪ダルマのような服に包まれたレイカは可愛い。


「ふふ。たまには良いじゃないか。レイカだったらこんな特別なこともできるし」


 俺は今にも落ちてしまいそうなギリギリまで近づいて下を覗き込む。

 今、風が吹けば背中を押してくれるかな?


「危ないでしょ!」


 背中を押されるのではなく、抱きしめて止められる。


「ごめん」

「本当にどうしたの?」


 ツキでも、ユウナでも、ランでも、テルミでも、タエでも、ツユちゃんでも、ヒナタでもない。


「レイカに話しておきたいことがある」

「何かしら?」

「その前に、もう一人のお客様が来たようだ」


 レイカが振り返ると、真っ赤なコートを身に纏ったマリアが現われる。


「クイーン!あなた死んだはずでは?」


 スピカたち裏社会の人間は、表でも裏でも力を持つマリア・クイーンを恐れて、俺と離れた後に襲撃を行ったことはレイカから聞いている。


 出来れば邪魔をしてほしくはなかったけど。


 彼女たちには彼女たちの矜持があるとレイカから説明を受けた。


 納得はできないけど、そういうものだと言われればそれ以上追求しても意味がないと判断した。


 貞操概念逆転世界は、俺が思っていた世界とはどこか違う方向に進んでいる。


 ただ、男がチヤホヤされて女性を選びたい放題。


 そんな男にとってのパラダイスだと思って居たけど。

 今では、女性達にも心があり、一人一人考え方が違うのだから思考も変わってしまう。


「ええ。そういうことにさせてもらったわ。あの場所に誘導したことも全て計算よ」


 川を下り、アドラと戦い、スピカに待ち伏せさせることまで全てマリアの企てた計画の通りにマリアは裏社会の人間に殺されるように仕向けた。


「ヨルは知っていたの?」

「ああ。カフェで聞いていたからね」

「ハァーそれで、私たちまで騙してクイーンと密会するのは何故?」

「それは私から説明するわ」


 クイーンを警戒するレイカが俺の側に近づいて腕を絡ませる。


「そんなに怯えなくてもあなたを害するつもりはないわ」

「本当かしら?」

「ええ。だって、あなたは私と同じで彼に選ばれたワイフだもの」

「ワイフ?どういうこと?」

「つまり、あなたは表のワイフとして彼を支える。そして、私は裏のワイフとして彼と共に世界を手にする」


 レイカを和風美女とするなら、クイーンは英国美女とでも呼べばいいのか、それぞれの美女を手に入れた俺は一つだけ決めたことがある。


 この世界は俺が思って貞操概念逆転世界とはあまりにも違いすぎる。


 俺がいた世界のように男が野蛮に女性を手に入れようとする世界ではなく。

 男を無理やり手に入れるのではなく。

 こちらを尊重して選ばれようとしてくれている。


「ヨル?」

「レイカ、俺は世界中の美女を手に入れようと思う」


 強引に奪いに来ないなら、俺から選んでやろうじゃないか。


 謙虚になんてならない。どこまでも貪欲に欲望深く。


 他の男共がひ弱に足踏みしているなら、この世の美女は全て俺が手に入れてやる。


「……ふふふうふ」


 レイカに対して宣言した俺の言葉に笑い声が上がる。


「レイカ?」

「ふぅ~あなたはバカね」

「えっ?」


 それまで俺と腕を組んでいたレイカが距離を取る。


 今までどんなときでも味方でいてくれたレイカ。


 そのレイカが俺から離れていく。


「ねぇヨル。確かにツキちゃんはあなたを盲目的に愛しているわ。だから、あなたから選ばれることを何よりも最優先にする。


 ユウナちゃん、ランさん、タエさん、テルミちゃん、ヒナタもきっとあなたに選ばれたことを誇りに思っている。

 ツユちゃんは、運命を感じているから少し違うかもしれないけど。


 でもね……私は……醜い男の本性を見たことがあるのよ?」


 これの脳裏に伊集院是清の顔が浮かぶ。


「あなたの顔は……昔の彼にそっくりよ」


 レイカはそれだけを告げるとタワーを去って行く。

 俺はレイカを追いかけようとしてマリアに止められる。


「今は何を言っても無駄だと思うわよ」


「はっ離してくれ。レイカと話をしなくちゃ!」


「もう遅いわよ。だって、あなたは自分の意志を彼女に告げたのよ。選ぶ権利を持つのはあの子よ」


 彼女の背中が見えなくなって俺は膝を折る。


 こんなはずじゃない。


 レイカは俺の味方で……俺のすることを全て受け入れてくれて……どこで間違えた?


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