円卓
テロ事件からレイカが過保護になったような気がするが、色々と俺のために手を回してくれているのは理解できる。
そんなレイカから呼び出しのを受けたのは年末残り一か月になった最後の月にはいってからのことだ。
「ふぅ~ごめんなさい。あなたの手を煩わせずに終わらせたかったのだけど。厄介な相手に疲れてしまったわ」
疲労が見える顔色をしているレイカを労いながら、俺はレイカに任された仕事へと赴く。
【邪神様】としての仕事であるのだが、今日は黒瀬夜にスーツ姿で来てほしいということでレイカがコーディネートしてくれたスーツを着てきている。
オーダーメイドのスーツはパリッとしていて着せられて感じが否めない。
「失礼する」
会議室のような大広間の扉が開かれて中へ入ると暗い部屋の中に円卓のテーブルが置かれていた。
円卓のテーブルに座る他の者の顔は暗くてハッキリと把握できない。
「我らが主が参られた。それでは会議を始める」
聞き覚えのある声が聞こえてきて、スピカの存在を感じる。
声のした方向に視線を向ければ、軍服を纏ったスピカが敬礼をしてこちらに敬意を払ってくれている。
「今回、日本に対して大変迷惑な事態を招いたことは私の失態である。だが、次なる問題が浮上したことは皆もわかっていると思う」
ここに集まる者達は日本以外の国の人なのかもしれない。
「我々はあくまで【邪神様】を愛する者として、日本と言う国に迷惑をかけたいわけじゃない。だが、我々の配慮に対して無遠慮に土足で好き勝手する最低な者がいる。敵に対して我々は一致団結しなければならないのだ!」
スピカの演説に俺以外の参加者が「「「そうだ!そうだ!」」」と掛け声を上げている。
煽動するようなスピカの言動は危険に思えるが、ここにいる者達はそれを受けいれているようだ。
「我らの敵はマリア・クイーン」
スピカがマリアの名を出すと、空気が一気に重くなる。
「貴様は勝てると思っているのか?」
スピカに話を振ったのはピンクの頭をした小柄な美少女だった。
口調と目つきが美少女と言うには物凄くキツク見える。
名に来ている服が真っ黒なスーツで裏家業の人に見える。
「……勝てる勝てないではない。負けてはいけない戦いなのだ」
スピカの力説に先ほどまで盛り上がっていた参加者たちが静かになる。
「どうした貴様ら!裏社会では名の知れた貴様らがマリア・クイーンに怖気づいたというのか?」
発破をかけようとするが、打っても響いている感じがしない。
「【邪神様】どうか我々をお導きください」
行き詰ったスピカが俺へと話を振る。
レイカがどうして俺をこの場に居れたのかなんとなく納得できた気がする。
この場にいるのは裏社会の者達で、【邪神様】を求めてこの国に来た人たちだ。
スピカが集めたと聞いていたけど。
統率が完全には出来ていないように見える。
集まった人数はスピカを入れて五人。
順番に視線を向けていく。
暗い部屋の中ではあるが、暗闇に慣れてくるとうっすらと見えてくるのだ。
俺の右隣りに座る女性は大柄の体格に褐色の肌。
黒い髪にはウェーブがかかっていて、強く気高き戦士という印象を受ける。
その隣に座るのは小柄な茶髪の美少女だ。
この場でも落ち着きなくナイフを触って気分を紛らわせている。
左隣りにいるのはスピカとは別の軍服を着た金髪女性で、顔は優しそうに見えるのだが、軍服の上からでもそのボリュームハッキリと分かってしまう大きな胸元がどうしても気になる。
最後に先ほど発言していたピンクの髪をした迫力雰囲気を持つ美少女だ。
五人が裏社会の人たちで、俺のために集まってくれたことは嬉しいが俺の考えとは異なることはここまで話を聞いていて理解出来た。
俺が立ちあがるとライトに照らされる。
「まずは、初めてだな。我が【邪神様】だ」
俺が声を発するとスピカは祈りを捧げるように胸の前で両手を組む。
他の四人は俺を見て頬を染める。
「そして、今日ここに集まってくれたこと嬉しく思う。貴様らは我の下僕だ。間違いないな?」
俺が一人一人の瞳を見て確認を取れば、全員が顔を縦に振って肯定してくれる。
いやいや、下僕を肯定するなよ!
いいのかよ?
「ならば……黙って見ていろ」
俺が言葉を発すると全員が息を飲み……しばらくしてピンク頭の美少女が挙手する。
「なんだ?」
「発言をお許し頂きありがとうございます」
迫力とは別に、立ち上がった美少女は礼儀正しく胸に手を当てて頭を下げる。
「黙って見ていろとはどういう意味でしょうか?」
先ほど、俺が発した言葉をそのまま聞き返した彼女に対してスピカが即座に立ち上がる。
「貴様!【邪神様】の言葉が理解できないのか?!」
「王女よ。貴様は理解できたのか?」
「もちろんだ。【邪神様】は私達に黙って見ていろと言われているのだ」
「「「…………」」」
スピカの言葉に全員が言葉を失う。
「あなたは?」
俺は空気に耐えかねてピンクの美少女に声をかける。
「私はある国で裏家業を仕切っている者です。名をアフィー・シチアリと申します」
「アフィーと呼んでも?」
「もちろんです!」
名を呼ぶと嬉しそうな顔を見せてくれるので可愛い。
「アフィー。マリア・クイーンとは我が決着をつける。だから、お前たちは下僕として控えていろ」
アフィーだけでなく、スピカ以外の四人にも確認を取るように視線を向ける。
全身が意味を理解したようで頷いた。
「私達は不要ですか?」
「いや、君たちが我を支えてくれるのは心強い。ただ、今回は世界の覇者を相手にする。覇者と対峙すべきは神である我である必要があるだろ?」
ツキに落とせと言われていなければここまでハッキリと言えなかった。
だけど、覚悟は決まっているのだ。
世界の覇者と俺は対峙する。
俺の言葉を理解した四人は膝を付いて頭を下げた。
「「「「【邪神様】が思うがままに我らが主」」」」
スピカ以外の女性たちは頭の良い子たちだった。




