お願い
シルクのシーツは滑らかな手触りと暖かさを感じる。
外の寒さが嘘のように、部屋の中は暖かく来ている寝具はとても薄くて軽い。
そんな紫のシルク生地に包まれた麗しき美女がうつ伏せになり上体を起こせば、二つの双山が彼女を支えるように天然のクッションへと早変わりする。
「お願い?」
身体を大きな枕に預けて座った俺へ。
上目遣いにこちらを見上げれるレイカが「お願いがあるの」と口にした。
「レイカからお願いがあるなんて珍しいな」
タバコでも吸えば、この状況に似合うのかもしれないが、あいにくとタバコを吸いたいと思ったことはない。
何より、未成年である俺ではタバコを吸うことはできない。
最近は18歳で成人として認められるが、タバコは20歳になってから……まぁ、20歳を超えても吸うつもりもない。
「ええ。私も気乗りしないのだけど……」
最近、誕生日を迎え益々綺麗になったレイカが気怠そうに髪をかき上げる。
「それでも東堂麗華として、必要なことだと判断したからよ」
「レイカの判断が間違っているとは思わないよ。それでお願いって言うのは?」
「ブリニア王女を落としてほしいの」
「落とす?」
「ええ。彼女は【邪神様】を求めて日本に来たわ」
それはもう落ちているのでは?
「だけど、黒瀬夜に服従したわけじゃない」
「つまりは、黒瀬夜としてブリニア王女を妻にしてこいと?」
「妻ではなくてもいい。ただ、あなたの虜にしてきてほしいの」
何とも不思議な願いである。
自分の彼女から他の女性を落とせと言われるのはなんとも複雑に感じる。
「ごめんなさい」
俺が気乗りしない顔をしていたからか、レイカが体を起こして俺にしなだれかかってくる。
柔らかな二つの膨らみが胸で潰され、レイカの体温と甘い香りが伝わってくる。
「これはあなたのためでもあるの」
「俺の?」
「ええ。あなたは【邪神様】という偶像を作り出した。
それは全世界の女性を刺激して様々な者たちを引き寄せた。
それは善い出会いもあれば悪い出会いもある。
ブリニア王女は中立であり、悪い者達を制御する力を持つわ」
彼女たちに恥じない自分に成ろうとして築いた【邪神様】が、まさかそこまで大きなモノになるなど思いもしなかった。
「それにブリニア王女は、あなたが思っているよりも面白い人だと思うわよ」
「面白い人?」
「ええ。【邪神様】を好きなことに真面目で、全てを投げ捨てる覚悟を持っている。だけど、投げ捨てた彼女に価値はない。美しいだけでも、強いだけでも、お金持ちなだけでもあなたを守ることはできない。
あなたに愛され、あなたを守れる女性へなってもらわなくてちゃならないの」
抱き締める彼女の腕の力が強くなる。
レイカは俺を思って色々なことを考えている。
それは、ツキやラン、タエやツユちゃんも同じだと思う。
ヒナタはヒットマンであった頃の実績を活かして、裏社会の情報を集めてくれている。
テルミは生徒会長として、学園での俺を守ってくれている。
「わかったよ。俺に落とせるかはわからないけど。ブリニア王女を女性として見て見るよ」
「ありがとう。ヨルなら簡単だと思うけど。相手は異国の女性だから、どんな人なのかあなた自信で見極めて」
「ああ。俺に出来るのかわからないけど。頑張ってみるよ」
「ふふ、ねぇヨル。今晩は私がヨルに愛される日よね?」
「そうだよ」
真面目な話はそれで終わりだと言わんばかりに、レイカは俺の足の間に体を滑りこませてキスを重ねる。
「いっぱいご奉仕するわね」
日本を代表する裏社会を牛耳る者になるとは思えないほど可愛らしく愛おしい。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
扉の向こう側に待つブリニア王女のために、俺が用意したのは【邪神様】としての衣装だった。
黒髪は腰まで伸びて腹筋と腕の筋肉が見える衣装は男性の男らしさを強調しているそうだ。
背中には黒い羽根が六枚もあり【邪神様】のイメージらしい。
扉を叩けば、緊張した女性の声が聞こえる。
「ひゃい!」
「失礼」
【邪神様】のイメージが自分の中で決まらないまま、どこか偉そうで傲慢な口調になるように声を出す。
「【邪神様】!!!」
中世の女騎士のような軍服に帯剣して待っているのではないかと思っていた。
背の高い彼女はタイトな体のラインが出る衣装に身を包み。
派手になり過ぎない化粧をして恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうな表情を浮かべて立っていた。
「待たせたか?」
「いえ、いえいえ。全然待っておりません!【邪神様】を待つのにこれほど嬉しい時間はありません」
今までの女性とは誰ともタイプが違う彼女は、強く、気高く、美しかった。