side王女 ー 3
【スピカ・イゾルデ・ブリニア】
目の前に居並ぶツワモノたちに私は大きく息を吐く。
傭兵、軍人、テロリスト、マフィア、殺し屋、盗賊、海賊……etc.
我が、ブリニアの名を出すとともに集まった者たちは一つの目的のために動いている。
「皆、よくぞ集まってくれた」
集まった者達に向かって私が声をかければけん制し合っていた者達が、一斉におしゃべりをやめて私を見る。
血筋……軍事力……資金……すべてにおいてここに集まる者達よりも自分が格上であることは分かっているが、それでも彼女らが牙を向ければ誰が死んでもおかしくない。
「へっ、一国の王女があたしらみたいな者達を集めてどうしようってんだ?」
一番近くに座る傭兵は、テーブルにブーツを乗せて椅子を倒しながら質問を投げかけてくる。
末端に座る者達は「そうだそうだ」と囃し立てる。
「うむ。私の目的は貴様らと同じ。いや、貴様らを雇ったそれぞれの国の要人たちと同じと言った方がいいか?」
「「「「!!!!」」」
私の言葉に驚きを隠そうともしない未熟な者達。
別に戦場に生きる者達であろうと、自分たちの目的がバレてしまえば、驚くだけの話だ。
「目的が分かるからどうだと言うんだ……」
目を閉じ動揺を表さない軍人が、目を開いて私を睨みつける。
「あなたたちは日本に警戒されてしまっている」
私の言葉によって、全員が黙って静寂に包まれる。
「我がブリニア王国が君たちを捕捉出来ているということは、日本も君たちを把握しているということだ。
交渉
誘拐
観察
拉致
テロ
君たちが行おうとしていることは、全て把握されて警戒されている」
事実を彼女らに告げる。
「それがどうしたと言うのだ?」
殺し屋が立ち上がる。
「私はただ仕事を全うするだけだ」
「我々もその程度の話では動じない」
殺し屋に続いてテロリストたちも立ち上がって会議室を後にする。
……しばらく様子を見るが、他に退室する者はいないようだ。
「ここに居る者達は、話が分かる者達だと思ってよいのか?」
「勘違いするなよ王女様!あたしたちはビジネスの話をするためにここに残ったんだ。利にならん話ならすぐにでも退出させてもらう」
マフィアのボスは葉巻に火をつけてゆっくりと煙を吐き出す。
「それで?私らの目的は同じということだが、王女様はどうやって私達をまとめると言うんだ?ここに集まった者達はそれぞれの想いが合ってここにいる。
金で雇われた者。
自国の任務に来た者。
男を誘拐して売ろうと考えている者。
メンツのために来た者。
あんたはあたしらアンチェインをどうまとめるつもりだ?」
裏の社会でボスとして、これまで生きてきた女は度胸だけでなく迫力も併せ持つ。
「……ふぅ~……何……特別なことはない」
「特別なことはない?話にならないねぇ~」
マフィアのボスが立ち上がろうとする。
「ただ……一人の男を紹介するだけだ」
私の発言にマフィアのボスが振り返る。
「ナニ?」
「お前たちはどうして今になってこの日本に来た?
神秘の国、日本。
そう言われているこの国は数年前から男性が他の国よりも多く生き残るため注目を浴びていた。
だが、今になって世界がこの国に注目した。
その理由は一つであり、私の目的……そしてお前たちの目的だろ?」
今この時、この場所に集まる者達は……魅せられてここに集まった。
確かに自分たちの国の要人から依頼はされたのだろう。
確かにお金で雇われてこの国にやってきたのだろう。
確かに男を誘拐して金に換えようと思ったのだろう。
「君たちの目的の全ては、一人の男が現れたから始まったはずだ」
世界を動かした男の存在が、裏社会に生きる者達すら動かした。
これが女性ならば、多くの男性が取り合ったのかもしれない。
だが、求められるのは男性であり、男性は女性に分け与えられる。
彼はその実績を見せつけている。
多くの彼女を抱えて分け与えているのだから。
「……【邪神様】への忠誠を誓い。子を成す権利を与えてもらえるとしたら貴殿らはどうする?」
私の発言によって空気が一瞬で変わったことが伺える。
立ち上がっていたマフィアのボスが腰を降ろす。
「くくく、スゲー爆弾を落としてくれんじゃねぇか」
「それは国の要人へと言うことか?」
マフィアに続いて口を開いたのは厳格な雰囲気を出す軍人だった。
「もちろん、個人へ対してとだけ言っておこう。
確かにあなたがは体を鍛え戦場に出ていたこともあるだろう。
数々の修羅場を潜ってきた者達だ。
しかし、女性としての美しさは損なわっていない。
【邪神様】も貴殿らの美しさならば喜んでくださる」
ザワザワと仲間内で話を始める者達を見て、私の口角は上がる。
「本当に【邪神様】の正体を知っているのか?」
最初に口を開いたのは海賊をしている女だ。
「それは間違いない」
「私らが誘拐するとは考えないのかい?」
盗賊の女が怪しい笑みを浮かべる。
「それは必ず成功しないと言っておこう」
「なぜだい?」
「日本だけでなく。正規のルートで【邪神様】に会いに来た者達に邪魔されるからだ」
私を含め正規のルートで来た者達からすれば、裏から手を回そうとする者など邪魔でしかない。
その筆頭たる私が、邪魔をする者を排除すると口にしているのだ。
この場に残った者であれば理解できるだろう。
「いいだろう。あんたとの交渉の席に着かせてもらう」
そう言って最初に合意を示したのはマフィアのボスだった。
「私も!」
「いいだろう」
続いて、傭兵や軍人も承諾したことで全ての者が続いた。
「いいでしょう。それでは【邪神様】への忠誠を誓いなさい」
………
ふふ、私はこの功績をもって……子を成す権利を得る!!!




