断る!
状況が理解できない。
夜中に突然部屋に入ってきたブリニア王女にも、そして女性が夜中に男の部屋に現れるのも理解が追いつかない。
しばらく……沈黙が流れ……思考が少し追いついてくる
ここは貞操概念逆転世界で、女性が男性の部屋に夜中にやってくる……これって夜這いか?
「夜分遅くに部屋の侵入……無礼であることは重々承知している。だが、トウドウ殿の目を盗んであなたと二人きりで話をするためにはこうするしかなかった」
どこか必死な様子で訴えかける彼女に警戒心を持ちながらも……話を聞いてみようと言う気になる。
「あなたが必死であることはわかりました。ですが、女性が男性の部屋に侵入することは夜這いになるということはご存じなのですよね?」
「もちろんです。ですが、信じてください。あなた様から望まれない限り。私は決してあなた様に危害を加えるつもりはありません」
無抵抗を表すために、彼女は自身の上着を脱いで武器を持っていないことを示す。
夏なので上着を脱ぐとブラだけになるのだが、完全に変態にしか見えない。
「わかったから、服を着てください」
「いや、あなた様へ敬意を表すためにも私はこのままで構わない」
いやいや、俺が構うんだけど……
「ハァ~それで?話とはなんですか?」
さっさと話を終えて退出してもらうことは一番手っ取り早く思える。
「はい……」
だが、彼女は何かを言い淀むように、返事をしてから俺を見つめて言葉を発することがない。
一定の距離を保ったまま見つめ合っている状況はどうにも異常な状態である。
「……ハァ~……話が無いのであれば退出して頂けませんか?」
「あっいえ。すみません。あなた様を前にすると緊張してしまって……ゴクッ。それでは……【邪神様】……あなた様が【邪神様】なのですね」
ブリニア王女から【邪神様】と断言的な発言が出てきた言葉に俺は少し考える。
何故、今この場で聞くべき質問が【邪神様】についてなのだろうか?【邪神様】は日本に属しているアーティストでしかない。
ブリニア王女からすればすぐに調べられるはずだ。
……
何故だが、この場で認めてはいけないような気がしてくる。
「お認めにならなくてもかまいません。私は確信をもって【邪神様】だと思っています。それはあなた様に認めてほしいからではありません。これは私自身が確かめたかったに過ぎません」
「それなのにどうして夜這いのようなことをなさったのですか?」
「……あなた様と二人きりで話したかったのです。私は……あなた様のファンです。この身……この命……国すらも捧げてもいい。全てをあなた様に」
そう言っていきなり膝を折って頭を下げる。
最初にあったときの土下座ほどではないが、頭を下げられるのはどうしていいのかわからない。
「ハァ~つまりあなたは【邪神様】が好きで。俺が【邪神様】だと思って夜這いをして、全てを捧げたいと?」
「そうです」
月明かりに照らされる顔は真剣そのもので……だからこそ……彼女の行動が異常であることは間違いない。
ただ、危害を加える気がないことは本当だと思える。
俺は窓際に腰を降ろして警戒を解いた。
「こんなやり方をしなくても、ちゃんとアポを取ってくれればお会いしますよ?」
「それではトウドウが邪魔をしていたことでしょう」
「レイカが?」
「はい。現在【邪神様】を求めて多くの来訪者が訪れています」
【邪神様】を求める来訪者?
「その中には【邪神様】を誘拐しようとする物騒なやからもおります」
誘拐と言われて昔の体験を思い出す。
レイカが最近ボディーガードを増やした理由はそういうところもあるのかな?
ツユちゃんが危険だと言っていたのにも繋がる。
「あなたは違うと?」
「我が国の女王に誓って!」
誇り高そうに見えるブリニア王女が自分の国のトップに誓うと言うなら信じてもいいのかもしれない。
「わかりました。レイカにはブリニア王女はファンだから大丈夫と伝えておくので、今後は大丈夫ですよ。それじゃ夜も遅いので話はここまでで」
「最後に!」
いきなり立ち上がるブリニア王女……多少警戒を強める。
「あっ握手していただけませんか?」
あっこの人ファンだ。
「いいですよ」
「ありがとうございます!!!!」
物凄く触れしそうな顔で握手をされる。
女性にしては大きく力強い握手ではあるが、手にあるタコの感触から何かしらの訓練をしている人だとすぐに理解できる。
「もう一つ……お願いをしてもいいですか?」
「俺に叶えられることならでしたら」
もうそろそろ終わりにしたいので、投げやりな言い方をしてしまう。
「それではあなた様の子を産む権利をいただけませんか?」
「あ~はっ……へっ?」
簡単に返事をしようとして、違和感に気付く。
「今、なんて?」
「あなた様の子を産む権利を頂きたいのです。我がブリニア王国は強く男性の子を求めております。私は【邪神様】のファンであり、あなた様は強い。私はあなた様の子を産みたいのです!」
握った手を離さないで詰め寄ってくるブリニア王女様。
凄い力で美人に迫られるのは悪い気はしない。
だが、ここまで図々しい展開では、少しばかり怒りが湧いてしまった。
「ふん」
彼女の手を掴んで強引に引き離す。
「それは断る!」
「なぜですか!!!!}
俺が断ると、ブリニア王女は絶叫を上げた。