夏休みの予定
今年も去年のように合宿に行くことを男子応援団に提案すると……
「ごめん。ヨル。今年は無理なんだ」
そう言ったのはセイヤだった。
「何かあるのか?」
「うん。仕事が立て込んでてね。数日を取る時間が難しいんだ」
「そうか……今回はセイヤは不参加か……」
俺が落胆していると……
「ヨル。俺も不参加にさせてもらえないか?」
そう言ったのはハヤトだった。
「ハヤトもか?」
「ああ。今年は姉さんの仕事を手伝うことにしたんだ。応援団の活動に支障は出さないつもりだけど。泊りがけは厳しい」
ハヤトは申し訳なさそうな顔で謝罪してくれる。
「ぜっ全然大丈夫だって」
「ヨル。俺と桃田も不参加で」
今度はヨウヘーから声が上がる。
「へっ?ヨウヘーも?それに桃田?」
「ああ。こいつは光るモノがあると俺は踏んでる。今年の夏は桃田のスキルアップに費やそうと思う」
「先輩。すいません。ヨウヘー先輩の下で訓練したいです」
「おっおう。頑張れよ」
そう言って去っていく応援団の仲間たち……俺は残った二人を見る。
「お前たちも何か予定があるなら、優先していいぞ」
「おっ俺は別に……合宿言ってやってもいいぞ」
何故かツンデレ風に合宿に行くと言うユタカ。
「ボクはカオル先生がいいと言えば問題ないと思います」
最近、カオル先生が世話をしているキラは、カオル先生の判断次第ということになった。
カオル先生に聞きに行くと……
「合宿?いいね~僕も行きたい!」
「えっ?先生もいいんですか?」
キラがカオル先生も来ることに喜んでいるので、断ることも出来ない。
「全然いいと思うぞ。なんならツバキ先生も誘いますか?」
「いいのかな?聞いてみるよ」
「そうだな。どうせならユタカも妹さんを誘って今年も生徒会と合同にしてもらうか?」
「アイリもいいのか?聞いてみるよ」
俺もテルミさんに連絡を取って合同でどうか聞いてみると……カホ先輩と倉峰飛鳥を除く4人は参加すると連絡がきた。
「アイリも行けるって」
「ああ。こっちにも連絡来たよ。じゃあ場所と日程を合わせるか」
それからはスムーズに進んで夏休みの開始と同時に合宿に行くことになった。
なったのだが……
「いらっしゃい」
レイカが手配してくれたリムジンに乗ってやってきた別荘で出迎えたのは、レイカ自身だった。
「レイカ!仕事はいいのか?」
「ええ。今日のためにほとんど終わらせてきたわ」
「ヨル。私も来た」
レイカの後ろからツユちゃんとキヨエさんも現れる。
男子応援団メンバーは三人+カオル先生だけだが、女性たちのお陰で随分と賑やかな合宿になりそうな予感がする。
「ツユちゃんも来てくれたのか嬉しいよ」
俺は素直にツユちゃんを歓迎して合宿所の案内をする。
昨年来たところだけだが、案外記憶に残っているようだ。
ここに来るのが、始めたメンバーに案内をしながら部屋割りを伝えて日程を決めていく。
今回はユタカのキラの体力強化とテルミ指導のボイストレーニングがメインになる。
ユタカはアイドル志望だというので、ここでの訓練が役に立つと良い。
「兄様と旅行出来るなんて素敵ですわ」
「アイリちゃんよかったですね」
「ええ。ツキちゃんと一緒に居られるのも嬉しいですわ」
ツキの友達であり、ユタカの妹のアイリちゃんとは少しばかり因縁がある。
入学前に呼び出されて兄に謝罪をさせると言っていた。
今でもその気持ちは変わらないのだろうか?
「兄さん。大丈夫ですよ。アイリさんの頭の中は良くも悪くもお兄様のことでいっぱいです。兄さんのことは気にしていないと思います」
俺がアイリのことを見ていると、ツキがそう言ってフォローしてくれた。
「そうかな?」
「ええ。信じてください」
「わかったよ」
心配してくれたツキの頭を撫でて案内を解散する。
一人になった俺は海岸へ降りていく。
「タエか?」
ふと、人の気配がして振り返ると……そこには見知らぬ女性が立っていた。
まるで人形のような美しい容姿に目鼻立ちがハッキリとした彫りの深い造形。
異国の美女……
すらりと長い手足。女性としては高い身長。だけど、出るところは出ている主張の激しいボディーは引き締まっていて美しい。
「失礼。知り合いかと思ったので」
俺は間違えたことを謝ってその場を離れようとする。
「excuse me」
話しかけられると思っていなかったので、俺は振り返って女性を見る。
「あまりニホン語はトクイデハありません。スミマセンが道を教えてイタダケマセンカ?」
凛々しい印象を受ける女性からカタコトの日本語が発せられることに少しばかりの面白さを感じる。
「ええ。いいですよ。ですが、ここはプライベートビーチですので……本当は人はが入れないはずなんですよ」
それは少しばかりの警戒と……彼女から感じる危険な雰囲気だったのかもしれない。
「シッ」
俺の言葉に女性が雰囲気を変えて攻撃を仕掛けてくる。
眠らせて誘拐でもしようとしたのか、俺は仕掛けられた攻撃を優しく流して砂浜に女性を寝転ばせた。
「はっ?!」
女性が気づいたときには空を見上げている。
そのことに驚いたのか、急いで立ち上がる。
「みんなに危害を加えるつもりなら許さない。get out!」
俺だって誘拐された経験があるんだ。
警戒しないわけじゃない。
出て行けと告げると女性が状況を理解したのか、突然砂浜に頭を突けるぐらい屈みこんで土下座をした。
「はっ?」
「オミソレシマシタ!」
美しい女性の土下座を見てあっけに取られていると……
「ヨル。さすがね」
「えっ?レイカ?」
「ごめんなさい。彼女がどうしてもあなたの力量を試したいというもので」
「俺の力量?って、レイカの知り合いだったのか?」
「知り合い?ええ。そうね。国同士の取引かしら?」
レイカは少し冷たい目で女性を見ていた。
女性はレイカが現れたことで、立ち上がって服に着いた砂を払っている。
「この方はブリニア王国王位継承権第一位のスピカ・イゾルデ・ブリニア王女様で、今回ある人物を調査されにやってきたそうです」
「ある人物?」
「ええ。でも、機密事項だそうで教えてはもらえないの」
「そうなのか?そんな人がどうして俺の力量を?」
「ブリニア王国は男性減少頻度が他国よりもひどい状態で、生まれてきても弱い男性しか会えないそうなの。私の婚約者として紹介したヨルを見て、強そうな男性に戦いを挑みたいとお願いされたのよ」
外交的なやりとりがあるのかな?まぁレイカの役に立てたならいいか。
「投げ飛ばしたけど大丈夫なのか?」
「ええ。それは大丈夫だと思うわ」
「そうか、ならいいんだ」
砂を払い終えたブリニア王女がこちらに近づいてくる。
「先ほどは失礼しました。ミス、レイカの旦那様がこんなに強いなんて、羨ましい」
旦那様という言葉にレイカは顔をニヤニヤとしている。
「こちらこそ知らなかったとはいえ、失礼しました」
「気にしないでください。私が言い出したことです。ですが、本当にお強い。私は本国で負けないのファイターでした。ですが、あなたには手も足も出ない。あのまま無理やり押し倒されたと思えば」
何故か頬を高揚させる王女様に俺が若干引くとレイカが間に入る。
「ブリニア王女様。もうお分かりになったでしょ」
「はい。私が探している方ではないと思います」
「だから言ったではありませんか」
二人は共通認識があるようで話が進んでいく。
「そんなことよりも本日は歓迎しますので、一緒にお茶でもしましょう」
「はい。よろしくお願いいたします」
レイカがブリニア王女を連れて行ってくれる際にウインクをしていく。
なんだかよくわからないまま、試練は去ったようだ。