side《邪神様》の信者 金 ー 4
《東堂麗華》
三年間の素行調査について、私が語り出すと伊集院是人の顔色がどんどん蒼褪めていく。
対して、つまらなさそうに聞いていた母の顔は微笑みへと変わっていくのが私には恐ろしく思えた。
「ほう、ようもこれだけ集めたもんですね……万引き、無銭飲食、器物破損、恐喝、脅迫、婦女暴行、無免許による自動車運転過失致死……随分と好き勝手やってきましたね」
これらは集められ事件の証拠が存在するものだけの話だ。
他にも隠された事件があるかもしれないが、突き止めるには至らなかった。
幼い頃から、何不自由なく育った伊集院是人は我儘放題の最悪なクソガキだった。
男性と言うだけでチヤホヤしてくれる女性たち、それに胡坐をかいて好き放題生きてきた男。
それが伊集院是人という人物だった。
物語があれば悪役と面白おかしく書かれたのではないだろうか?
「ウソや!そんな証拠あるはずあらへん!私はやってない!何かの間違いや!」
必死に訴えるが、これは私が三年かけて調べた事実であり、すでに被害にあった方々へのフォローと証言は受け取っている。
事前に防げなかったことは、悔やまれることだ。
ただ、大きな事件は今年に入ってからのことであり、自分にも関係しているかもしれないと考えた。
「最初は子供の遊び程度と言われる程度のイタズラでした。
万引きや無銭飲食は、店の方々も男性だから仕方ないと諦めている節がありました。
ですが、物の壊され、あなたによって脅された人々は恐怖していましたよ。
いくら男性であっても許されることと許されないことがあるのですよ」
私は持ってきていた鞄の中から、是人の悪事が撮られた写真をばら撒く。
「あっあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!!!」
言い逃れできないと気付いたのか、雄たけびを上げて狂ったように頭をかかえる。
「ふざけるな!!!!ふざけるな!ふざけるな!ふざけるな!!!!」
とうとうおかしくなったのか、持っていた扇子を突き付けてくる。
「私は特別な存在なんや!男やぞ!!!生きてるだけで尊ばれる存在なんや!
女は男の付属品やろ。男を引き立てるための道具やろが!!!
私の言うことを聞いていればいいや。それをなんやねん。
逆らってばかりで言うことも聞かへん。
挙句の果てには浮気して、我慢しとった私をポイや、ふざけるとるやろ」
息を切らせて叫び続けた是人が私を睨む。
「お前が最初から私に従っていればこんなことにはならんかったんや!
はは、あはははははっははっはははあはははははははははっはは!!!!
お前の男も今頃ボロボロにされとるやろな。
脅した女どもにメチャクチャにしろって命令したからな。ええ気味や」
言いたいことを言って座り込む是人。
「言いたいことはそれで終わりですか?」
「なんや?男の居場所でも問いただされる思たけど。面白くないな~」
「あなた程度が考えることなどその程度です。あの人は決して穢れない」
「はぁあ?」
「どれだけの女に抱かれようと、どれだけの辱めを受けようと、ヨルは屈しない。
むしろ、色気が増していくだけでしょうね」
私は穢されて服を乱れさせるヨルを想像して頬を染めてしまう。
「なっなんなんやその態度は!最後は殺せっていうたんや。お前の男は死ぬんやぞ」
「それはない」
意外にも、是人の言葉を否定したのは母だった。
「どっどういうことや?」
「ここまでお膳立てされとって、そんなことにも気づかんのか?
顔だけやなくて、中身も平凡で空っぽか……血筋だけ……つまらんな」
しんそこ呆れた声で母が深々と息を吐く。
「レイカ……今回はあんたが正しい。この男との婚約の破棄……認めます」
「ありがとうございます」
「ふざけるな!!!もうええ。私は帰らせてもらいます!退け!!!」
立ちふさがる私に向かって是人が扇子を振る。
私は身を固くして痛みを体に力を入れるが、衝撃がやってくることはなかった。
「俺の女に何してんだよ。あんた?」
私は大きく暖かな手に肩を抱かれ、頬は厚い胸板へと寄せられる。
ああ、この匂い。
この力強い腕。
そして、他の男性とは違う低く頼りがいのある声。
「ひっ!なっなんやお前」
「俺か?俺はレイカの彼氏の黒瀬夜だ。お前こそ誰だよ。
人の女に暴力を振おうとしてたよな!」
いつ現れたなどどうでもいい。
ヨルが私の側にいる。
側にいて私を抱きしめてくれている。
「彼氏!!!彼氏やと。なんで、お前がおるんや。
お前は今頃海辺のホテルで、殺されて取るはずやろ。
散々女共からメチャクチャにされて、惨めに殺されとるはずや!」
等々殺人の予告まで発する是人。
「キーキーうるせぇ奴だな。助けられたからここにいるに決まってんだろ。バカかお前は?少しは考えろ」
キヨエさん、みんなが間に合ったんだ。
「あっ、ヨル?」
「おう。レイカ。ちょっと服はボロボロだけど無事に帰ってきたぞ。
助けてくれてありがとな。みんなにはもう言ったけど。
レイカが色々してくれたんだろ」
裏表なく素直に告げられる礼はなんと心地よい。
ウソばかりで上辺だけの言葉は発する是人とは大違いで……胸が熱くなる。
「いえ、私は彼女として当たり前のことしたまでです」
「そっか、それでもありがとう」
「なっなんや!なんやねん。私がやったことは全部失敗かいな。おもんな。ホンマ、おもんないわ~あ~終わりかいな。ゲームオーバー」
扇子を手放して、座り込む是人。
「まっ、ええわ。どうせ男やから男性保護法のお陰で逮捕されても至れり尽くせりでおもてなしされるだけやしな。別にかまへんよ。貴重な男なんや刑務所でハーレムでも作るわ」
是人の言葉に答えるように……パンパンと母が手を打つ。
「連れて行き」
「はっ」
小母の後ろから屈強な女性たちが、是人を連れていく。
「なっなんやお前ら?!警察か?警察に連れて行くなら行けばええよ。
私の人生はバラ色や!一生が約束されとるんや」
警察?ではないことが伺える。
「お母様?」
「あれのことは気にしなくてもいいです。それよりも、うちのレイカの彼氏といいましたね?」
私の問いかけに答えた母の視線はヨルへ向けられる。
ヨルを庇うために前に出ようとするが、ヨルに制される。
「はい。レイカさんとお付き合いさせていただいています。青葉高校一年、黒瀬夜です」
「はい。ちょっと二人きりで話がしたいんですが。いいですか?」
「はい。もちろんです」
「なら、レイカ、ちょっと外に出といて」
「お母様!」
「これは東堂家当主といての判断です」
当主と言う言葉に、逆らうことは得策とは言えない。
私は奥歯を噛みしめて部屋を後にした。