side男性至上主義者 ー 思惑
《伊集院是人》
物心付いた時には自分は特別な存在やと気付いとった。
そりゃそうやろ。
男っちゅうだけで周りの女共は私に従うんやで。
オモロって思うんが普通やろ。
しかも、家は金持ちで、女は好き放題やりたい放題や。
もっとほしい。もっと私を崇めろ。もっともっともっとや!!!!
小学校、中学校と私の周りには私に従う女しかおらんかった。
そうやな。ちょっと飽きてたと思うんや。
そんなときや……母親から面白い話をされたんは……
「日本一のお嬢様?」
「そうです。是人さんは由緒正しい血筋のお人や。
相手さんは名家やけどまだまだ血筋が名家というには足りません。
そこで是人さんと結婚することで、箔を付けたいということです」
「お母様。それは向こうさんからの申し出ですか?」
「そうです」
「そうですか」
私は思た。相手は私のことなんて見てはいいひん。
私の血だけがほしいんや。
ちょっと面白くないな。
まぁどんな子が来るのか見てから判断してもええやろ。
高校入学前に顔合わせがあるということで、お見合いのような形で顔合わせを迎えた。
やってきたのは茶色の髪がユルクウェーブがかかる、いかにもお嬢様と言う感じの女の子やった。
まぁ顔は今まであった中で一番綺麗やと思う。
あの顔を歪ませるのが楽しみで楽しみで仕方ないなぁ。
「初めまして、伊集院是人です」
「初めまして、東堂麗華です」
少しのんびりとした口調は気になるけど。
まぁええやろ。
これまでも由緒正しいお嬢様でも、私の言うことに逆らうことはあらへんかった。
じっくりと調教していけばええのや。
私は東堂麗華との結婚までの日々を指折り数えた。
京都と東京、距離こそ離れておるけど毎日のようにメッセージのやりとりはやりあった。
そんな折や高校三年生になってから、レイカの態度がおかしくなってきた。
一年生に顔の綺麗な男が二人も入ってきたと連絡がきた。
男のくせに顔の綺麗さがなんやいうんや。
鏡に映る顔は、まぁ普通やな。
悪くもないけど。特別カッコええとも思わへん。
それでも、女共は優しくしたらコロっと落ちる。
レイカも私を最初に見た時は頬を染めてはった。
しかし、私の杞憂はだんだんと大きくなっていく。
男と合宿に行く?
何考えとんのや?お前は私の婚約者やろ。
女は男の付属品や。
男である私が女を遊ぶことは法律でも認められとる。
やけど、女が男と遊ぶことは認められてないんや。
尻軽な女やったんか?信じられへんわ。
私は腹が立って、5人ほどの女を好き勝手にしてやった。
そして、ついにメッセージも届くことが少なくなってきた年末。
「すいません。少し遅れました」
「いえいえ、全然かまいはしません」
偉そうにも男の付属品である女が遅れてくるんは、正直イラっとするな。
しかし、それを出すほど私は子供やあらへん。
三年間待ったんや。
あと数年もすれば私の物になるんやから、そのときにまとめて言えばええ。
「久しぶりやけど。レイカさんはいつ会うても綺麗どすなぁ」
「ありがとうございます。是人さんも相変わらず口がお上手ですね」
「お上手なんて、そんなそんな。僕はホンマのことを言うとるだけです」
他の女なら、私が綺麗言うたら喜びおるのに、この女は嬉しそうな顔一つしおらん。
つまらんお人や。
「一年に一回しか会えんというのは、恋しなりますな」
「……そのことなんですが」
「何や……なんか深刻そうな顔どすな」
私は動揺を顔に出さんように、演技を続ける。
「まずは謝罪を」
「謝罪?」
「はい。私は……是人さんと結婚できません」
「結婚できへん?それは何でです?私に何か問題でも?」
私に問題あるはずあらへん。
男である私は何においても優遇される立場なんやからな。
「いえ。むしろ、問題があるのは私の方です。私に好きな人ができました」
「これは家同士の繋がりを強めるための結婚です。
お互いの気持ちは関係あらへん。それをわかって口にしとるんか?」
私はこれまで我慢してきた感情を少し漏らしてしまう。
あかんあかん。
彼女は子供やまで大人の事情が分かってないんや。
「わかっています」
「……意思は強い……いうことですな……」
東堂家から正式に婚約破棄言われてわけやない。
慌てる時間にはまだ早い。
「はい」
「……どうしたもんなんやろな……レイカさん。
僕の家は血筋こそ古いだけの家や。
正直、家や土地は持っとるがそこまで金持ちやない。
今回の話も東堂家からの申し出によって実現した話や」
これは大人の対応を取る場やと判断して君の意思などあらへんことを伝える。
「それを……当事者とは言え、結婚を申し込んだ側から断る言うんわ……ちょっと、違うんとちゃうか?」
「申し訳」
「レイカさん。あんたは私が嫌いか?」
家同士の話をしても態度を変えへんレイカに、私は感情に訴える。
女は男のこういう言い方に弱いところがあるんや。
「えっ?」
「確かにこれは家同士の問題や……そやけど、男女のことでもある。
互いの気持ちが私は大事や思います。
私はレイカさんを好きや思てます。
レイカさんも、少なからず私のことを嫌いやないと思てました」
女なんて好き言うとけば言うこと聞く生き物や。
「是人さんは本当に私を好きなのでしょうか?」
「なっ何言うとるん?さっき好きやって言うたやないか」
思ってた態度と違う反応するレイカに若干の違和感を感じて慌ててしまう。
「……ハァー私も人を好きになったからこそ分かることもあるのです。
先ほど是人さんから受けた告白でよろしいでしょうか?
それには感情が込められているようには感じませんでした。
ただ、その言葉を発していればいい。そんな風に感じるのです」
「感情?なっ何言うとるん?そんなもんわかるはずないやろ!」
何言うてるんやこの女。
「是人さん……あなたは本当に女性を好きになったことがないのではないでしょうか?」
「ぼっ僕をバカにしとるん?」
「いいえ。
人を好きになると言うことは素晴らしいことだとお伝えしたかっただけです。
確かに私達の婚約は家同士が決めたことではあります。
ですので、今回はこちらの落ち度として、それなりの賠償はさせて頂きます。
ですが、あなたを好きだと思ったことは一度もありません。
男性が少なくなった世で、婚約者がいるのは幸せだと思っては来ました」
これまでしおらしくしていたレイカが、背筋を伸ばして私を睨む。
「そやったら」
「ですが、好きな人が出来て理解しました。
私はあなたを好きではありませんでした。
家のために妥協しただけであり、世を憂いただけでした。
私は好きな殿方の子を産みたい。
その人と一生添い遂げたいと思っております」
あきまへん。
あんたは私の妻やこれからも私の物として生きていくんや。
「ちょっと待ちいな……もう少し考えてモノを話しなはれ。
ええのんか?伊集院家の血を求めてるんやないか?
別に私はお飾りの夫でもかまへん。
子供さえ生んでくれたら私は子の父や。
それで今のご当主様も満足なさるんやないか?」
私という特別な存在には、レイカという日本一の女が相応しいや。
お前は手放さへん。
「私はあなたの子を産む気はありません」
立ち去るレイカ。
「レイカさん!」
許さんへん。
絶対に別れたらへん。
レイカのことはもうええ。
それよりも私のレイカに色目を使った男や……見つけ出してレイカから手を引かしたる。
私を敵に回したこと悔い改めてもらうで……。