幕間
わたしは空き地の中を早足で急ぐ。
伸びた雑草が膝小僧をかすめてくすぐったい。靴下がびしょびしょになるのも構わない。それほどわたしは、必死だったのだ。
空地の奥には、くたびれたダンボールが置いてあった。
恐る恐るダンボールの中を覗く。
ダンボールの中には、黒い毛色の猫がいた。
小さい。子猫だろう。寒そうに震えている。
――大変だ!
このままだと、子猫が死んでしまう。
わたしは傘をダンボールのそばに立てかける。そして、家へと駆けだした。
冷たい雨が全身を濡らす。
さっきまであんなに帰りたくなかったのに、今はこんなにも早く家に帰りたい。
家に帰ると、体も拭かずに自室から毛布を持っていく。そして家をもう一度出ようとしたところで。
「あら、もう帰ってきたの? って、ずぶ濡れじゃない! 傘はどうしたの!?」
リビングからお母さんが出てきた。
「な、何でもないよ! ちょっと出かけてくる!」
「待ちなさい! そんなにびしょびしょになって。何しているの!」
お母さんは矢継ぎ早にわたしにまくし立てる。
わたしは急いでぐっしょりとした靴を履き、家を飛び出した。
「ごめんなさい!」
「待ちなさい!」
閉めた扉の向こう側からお母さんの怒声が聞こえてくるが、しょうがない。
――帰ったら怒られるんだろうなぁ。
暫く走って、あの空き地に着いた。強い風が吹いていたが、幸い傘は吹き飛んでいなかった。
わたしは家から持ってきた毛布で子猫を包み、抱き上げる。
子猫は温かかった。胸に手を当てると、心臓が動く音が聞こえる。
――生きているんだ。
この子猫は、生きている。
何故かそのことが嬉しくて。それなのに、目から涙があふれ出してくる。
子猫はそんなわたしを丸い瞳で見つめ、にゃー、と鳴いた。
「君も、独りぼっちなんだね」
それがわたしと、一匹の猫、アオとの出会いだった。