序幕
雨が降っている。
わたしは、傘をくるくると回しながら歩いていた。
三年間使っている黄色い傘は、小学四年生のものにしては子供っぽい。
傘からはみ出したランドセルに水滴がしたたるのを感じながら、わたしは家へとゆっくり歩く。
「帰りたくないなあ」
雨に濡れるのも構わず、ランドセルから一枚の紙を取り出した。
今日返ってきた算数のテストだ。点数は85点。
悪い点数ではないだろう。だけど、わたしは塾に通っている。お母さんからすると、塾に通っているのに100点を取れないのは悪いことらしい。きっとまた怒られるだろう。
それに、クラスの人気者の愛ちゃんは、塾に通っていないのに100点を取っていた。
勉強もできないし、運動もできないし、友だちもできない。何でわたしはこんなに何も「できない」のだろうか。
わたしは、わたしのことが嫌いだ。
雨は、テスト用紙を容赦なく濡らしていく。
わたしはそれをぼんやりと見つめながら歩いた。
ーー今日は遠回りして帰ろう。
と、空き地の前を横切ったとき。
わたしは、気になるものを見つけた。
その場に立ち止まる。
そして、テスト用紙をポケットにねじ込むと、空き地に足を踏み入れた。