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研究者の娘5

研究家の両親を持つレティの役目は研究に夢中な両親に1日2回必ず食事をさせることである。

7歳になったレティは栄養のある食事も用意できるほどに成長した。


「レティ、危険な実験をするから留守にしてほしい」

「わかった。いつ帰ってきていいの?」

「一月か二月後かな」

「そんなに!?」


両親が危険な実験をするときは外にいるように言われても最高は三日。初めての長期の不在を求められレティは両親をじっと見つめる。


「頼むよ」

「1日3回、ご飯を食べる?」

「や、約束するよ」

「時々ディーネに見張ってもらうからね。ご飯を残したら帰ってきて水浸しにするよ」

「わかったよ。実験が終わったら知らせるよ」

「用意するから、明日からでいい?」

「そうだね。父さんも狩りに行くよ」


レティはコクンと頷き二月分の両親の食事を用意する。

父特製の倉庫の中身を確認しながら森に出かけ足りない物を補充していく。


「父さん、母さん、1日3食。約束ね!!ディーネ、行くよ。行ってきます」


1日かけて用意をすませたレティは父特製のお泊まりセットと弓を持ち元気に家を出ていく。


「レティ、クロード達に伝えないと。きっと食事を用意して待ってるわよ」

「忘れてた。ありがとう」


レティは森を目指す足を止め、隣家を目指した。

庭で楽しそうに野菜の世話をしているクロードに手を振る。


「クロード、しばらく出かけるからご飯いらない。父さん達も」

「しばらくってどこか行くの?」

「うん。森に行ってくるよ」

「夕飯には帰って来るんだろう?」

「ううん。父さんの実験が終わったら帰るよ」


クロードは道具を置いてレティに近づき、見慣れないリュックを背負っているのに気付き嫌な予感に襲われる。


「待って、まさか森に一人で泊まるの?」

「ディーネと一緒だよ。じゃあね」


クロードは手を振るレティが駆け出す前に手を掴む。


「うちに泊まりなよ」

「クロードの家の庭にはテントを張れないよ」

「家の中だよ。女の子が外なんて」

「おばさんは」

「母さんはおかしいから真似しないで」


冒険者のシーラは星空を眺めながら外で眠ることもある。ただしレティと母親が似ていても違うことはわかっている。

クロードは爆発音がしても目覚めないレティの寝起きの悪さを知っている。

疲れると木の上で丸くなり眠る癖も遊びに夢中になると食事を忘れてしまうことも。

森には危険な獣や魔物も多く、自分よりも力も体力もないレティの外での生活を想像しただけで不安に襲われ必死に説得する。


「大丈夫だよ。それに森は安全だよ。魔法が使えるもの」

「安全じゃないから。ディーネ、父さんを呼んできてくれないか」


ディーネはクロードの味方につき、ロンドを呼びに行きすぐに戻って来た。

レティはクロードとロンドに真剣な顔で説得され、ディーネも二人の意見に賛成したので隣家にお世話になることにした。









レティは森の澄んだ泉がお気に入りである。

泉に足を浸しながら近づいてくる水鳥に小さい魔石を作って食べさせる。


「鳥さん、こんにちは。子供が生まれたの?本当だ。きっと母さんに似て美人さんに育つね」


小さい水鳥を抱き上げギュっと抱きしめる。


「毛並みも素敵。うん?魔力が欲しいの。いいよ。魔力は大事な栄養だものね」


レティは魔力が好きな水鳥に魔力を送る。水鳥が青く光り、青い瞳から涙を流す。水鳥の涙は貴重な素材であり装飾品としても人気がある。


「ありがとう。お礼なんていいのに」


レティは腕から飛び立つ水鳥に手を振る。水鳥が飛び立つと肩の上に乗っていたディーネが膝の上に降り丸くなるので、優しく頭を撫でる。


「レティ、ここにいたのか。そろそろ暗くなるから帰ろう」

「本当だ。ありがとう」


レティは泉から足を出し、ディーネを抱き上げて立ち上がる。

蝶に導かれて迎えに来たクロードはきょろきょろと周囲を見渡す。


「レティ、靴はどうしたの?」

「あれ?落としたのかな?潜ってくる」

「駄目。おばさんか母さんと一緒の時しか泳いだらいけないって言われれるだろう?」

「大丈夫なのに・・。でも約束は守らないとだものね。帰ろうか」


水の中で遊ぶレティは時間を忘れてしまい呼んでも出てこないため呼びに行けるリアンとシーラが一緒の時以外は泳いでいけないと約束していた。

裸足で歩こうとするレティの前にクロードが屈む。


「おんぶしてあげるよ」

「いいよ。クロードが潰れるもの。あれ?お魚さんだ。ありがとう。うん。あげるよ」


レティは座り込み、靴を届けてくれた魚に魔力を送り、しばらくして離れていく魚に手を振る。


「見つかってよかったよ。帰ろうか」


立ち上がったクロードの差し出す手を握りレティは歩き出す。


「おんぶしても潰れないよ」

「おんぶしてあげようか?」

「逆だよ。レティが潰れるよ。ディーネを抱っこしてるから無理だよ」

「手は二本しかないものね。もう一本あればいいのに」


クロードはレティよりも身長は小さくても体力と力はある。

遊び疲れて外でぐっすり眠るレティをベッドまで運んでいるのがクロードとはレティは知らない。細かい事を気にしないレティは眠った場所と起きた場所が違っていても気にしない。

クロードはレティとの生活は楽しいが一人で森で生活できるように見えなかった。

クロードにとって危機感皆無のレティは母親以上に心配だった。


***


レティが居候を始めて一月経つ頃、家から今までで一番大きな爆発音が響き渡たる。

レティが家の様子を見に外に出ると瓦礫の山。

瓦礫の中から疲労の色が濃いフォンが赤子を抱いて笑顔で手招きするのでレティは走って近づいた。


「レティ、お帰り。ほら弟だよ」

「え?」

「父さん達は疲れたからよろしく頼むよ。もう実験は終わりだ。名前はレオ」


レティは戸惑いながらも穏やかに笑うフォンから赤子を受け取る。

睡眠貯金箱に足を進める父の背中を茫然と見つめる。

爆発音を聞き、駆けつけてきたクロードとロンドはほぼ全壊している隣家と眠っているフォンとリアンに言葉を失う。


「い、医者を呼ぶか」

「医者?治癒魔法ならかけられるよ」


レティはリアンから治癒魔法と医術を学んでいた。

レオを抱きながら睡眠貯金箱である魔道具のベッドで眠っている両親に治癒魔法をかけるために体を調べると疲労で眠っていると気付き治癒魔法の発動を止める。リアンから治癒魔法は命に関わる時だけで使いすぎはいけないと教わっていた。レティはいつもと変わらない両親は放って腕の中で眠るレオを真剣な顔でじっと見つめる。


「父さんと母さんは弟を作ったのかな?命の」


自然の理を破り命を生み出してはいけない。

決して手を出してはいけない領域があり、禁忌を犯すと代償を求められることを知っているレティが青い顔で呟くとディーネが肩の上に飛び乗る。


「レティ、理をおかしてないわ」


ディーネの言葉にほっとしたレティは安堵の笑みを浮かべる。


「そっか。なら良かった。睡眠貯金箱に入っているから父さん達はもう大丈夫だね。起きたら片付けてくれるから家はこのままでいいや。弟ってどーすればいいの?」

「赤子には母親の母乳が必要だが、リアンは・・」

「母さんはきっと起きないよ」

「村長を頼るか」

「おじさん、ごめん」

「いや、妊娠していたのを知らなかったよ。リアン達だから仕方ないか」


ロンドはレティの頭を撫でて、当分は目覚めない隣人夫婦にため息を溢し村長を頼ることを決めた。

隣人夫婦がロンドの常識を超えるのはいつものことだった。


「レティ、泊まりの用意をしてきなさい。レオは私が見てるから」


レティはお泊まり用の父特製バッグを背負い、ぐっすり眠っているレオをロンドから受け取る。

レティはロンドに連れられて村長の家を目指した。

村に引っ越して2年経ち初めて村に行き村長に挨拶をする。

長いひげを持つ村長はローブを着て赤子を抱くレティとロンドを快く迎え入れた。


「そなた子供が」

「はじめまして。レティです。レオのご飯を分けてもらいたいんですが」

「隣人です。母親の体調が優れず」

「赤子の世話は大変だろう。母親が回復するまでうちにいなさい」

「おじさん、レオを一人ぼっちにするの?」


レオをギュっと抱くレティに村長が笑う。


「レティも泊まりなさい」

「フォン達は任されるよ。眠っているだけだろう?」

「父さん達は放っておいて大丈夫だよ。ご飯もあと一月分は用意してあるから」


子沢山の村長はローブを着ているレティとタオルに包まれているレオを見て大人の手が必要なのがわかり快く受け入れた。そして孫の乳母を呼びレティ達を預ける手配を命じた。


「父さん、あのローブの子は?」

「母親が産後で休んでいるから母乳を欲しいと」

「どうしてローブ?」

「訳ありだろう。ロンドの隣人らしい」

「ふぅん」


村長の五女は面倒見のよい父に呆れた顔で頷く。

変わり者夫婦のロンドを気にしているのは村では村長夫妻だけだった。


「レオ!?どうしたの?どこか痛いの!?」


部屋に案内され荷物を置いたレティはずっとレオを抱いていた。

突然泣き出したレオに慌て、泣きそうになるレティにふくよかな女性が近づく。


「落ち着いて。お腹がすいたか」


村長の孫の乳母の一人のカラはレティの手からレオを抱き上げ、慣れた手つきで授乳を始める。


「上手だね。赤子は泣くのが元気な証拠だ」

「ありがとう。レティです。弟のレオ。どうしたらいいかわからなくて」

「教えてあげるよ。誰でも初めはわからないから。カラだ」

「ありがとう。カラさんよろしくお願いします」


ニッコリ笑うレティをカラが食い入るように見つめる。


「レティ、フードを脱いでくれよ」


フードを脱ぐと輝かしい銀髪と整った顔立ちのレティにカラが動揺し悲鳴を堪えるために手を口で押さえる。


「え?なんで、フード!?これは・・」


母親は白衣、シーラもローブでありレティは女の子らしい服装を知らない。

レティは生まれてからずっとローブを着て育っている。


「着替えを用意する。待ってて」


授乳が終わったカラはレオをレティに抱かせて部屋を飛び出していく。レティは眠っているレオを抱いてほっと息をついた。


「レオ、頑張ろうね。大きくなるんだよ」


勢い良く扉が開き、服を抱えたカラが飛び込んできた。


「レティ、着替えて。レオはここに寝かせればいい」


レティは鼻息の荒いカラに負けて、レオを布団の上に寝かせて生まれて初めてローブ以外の服に身に付ける。ワンピースを着たレティはしょんぼりした顔をする。


「寒い」

「これを」


肩掛けを渡されてもローブほど暖かくない。

レティのローブは母親お手製の温度調節と防御魔法が仕込んである。

肌着の上に着る体がすっぽり収まるローブは肌触りも最高である。すぐに着替えたかったが眠っているレオの顔を見て、レティは嫌がるのをやめて大人しくする。

村長の家ではローブを脱いだ美少女と赤子なのに顔立ちの整っている姉弟に盛り上がっていた。


「レティ、レオは見ててあげるから眠りなさい」

「いえ、きちんと」

「貴方が倒れるわよ。まだ子供なんだから夜は大人に任せなさい」

「わかりました」


レティは大人達に囲まれ、戸惑いながらも笑顔で従う。

寝間着と活動着が違うことを覚え、カラ達に教わるままに生活をする。

常に笑顔でいればなんとかなるはシーラの教えである。


寝間着として渡された白くて薄い服に袖を通し眠りにつく。

洗浄魔法が使えるためローブと肌着を1着しか持っていないレティは5着も服を渡され、驚きながらも笑顔でお礼を言う。


「レティ、今日はこれを着て!!」


居候を始めて三日目にレティは村長の長男である若長の妻のトメに気に入られた。

トメはレオの世話を手伝うと言い、レティの部屋に泊まり二人の世話をやいていた。

レティはトメに教わり、シャツとスカートとエプロンを着る。トメの膝の上に座らせられ、櫛で長い髪を丁寧に梳き編み上げられる。


「可愛い。うちの妹達と大違い。ローブだけなんてありえない。レティ、うちの子にならない?」

「母さんが起きたら帰るよ。心配だから」

「子供は遊ぶものよ」

「いっぱい遊んでいるよ。ディーネとクロードと一緒に」

「女の子には女の子の遊びがあるのよ。野蛮な男の子とはできない」

「野蛮?」

「野蛮って言うのは」


レティはレオを抱きながら上機嫌なトメの話を笑顔で聞く。

たとえレティにとっては理解できない話が多くても。長いトメの話を聞き終え、わかったことは自分の家族やロンド達が変わっていることだった。


レティはレオの世話を覚えるためにずっと部屋にいたかった。

子供が赤子の世話で部屋に引きこもるのは不健康と言われ、トメに手を繋がれ村を案内されている。


「この村は地の精霊ノーム様を信仰しているの。ノーム様のおかげで豊作よ。良い匂いがするでしょ?あそこのパン屋さんは村で一番よ」


レティは初めて店に入り、見たことのないパンがたくさんあり夢中できょろきょろと見渡す。


「パンがいっぱいある。凄い!!」


トメは目を輝かせるレティに笑い、焼き立てのパンを買う。


「レティ、食べていいわ」

「温かい。ふわふわで美味しい」


ニコニコと笑顔でパンを頬張るレティを見ている子供達にトメが手招きするとわいわいと駆け寄ってくる。


「新しい村の子?」

「そうよ。仲良くしてあげて。レティ、遊んでらっしゃい」

「レオが待ってるから帰る」

「レオはカラに任せてあるわ。お友達を作るのも大切よ。人は助け合って生きていくのよ。それにレオにも教えてあげないとでしょ?」

「うん。わかった」


レティはトメに背中を押されて、同世代の女の子達のおしゃべりに混ざる。


「レティはどこから来たの?」

「どこ?秘境?森?」

「遠くから来たんだね」


日が暮れるころに少女達と別れ、トメに手を引かれて村長の家に帰ると腰を押さえて歩いている村長に会う。


「トメ、レティ、帰ったのか」

「ただいま」

「村長、腰、痛いでしょう?」

「レティ?」

「みせて。荷物持ってくるから部屋に戻って布団の上で横になってて」


レティは部屋に荷物を取りに戻り、村長の部屋に急ぐ。

村長はレティの気遣いに部屋に戻りうつ伏せになる。

レティは村長の上着と肌着をたくし上げて、腰に手をあてて目を閉じる。しばらくしてゆっくりと腰を揉む。固くなった筋肉が柔らかくなったので手を放し、四次元バックの中から薬草を取り出して貼る。


「痛みがひどくなったら教えて。そしたら薬草を変えるから」


レティは村長の服を直して部屋を出て行く。村長は子供の遊びに付き合うつもりだ本格的に治療をしたレティを見て驚く。


「腰が楽になった」

「レティは知識に偏りがあるのよ。パンの作り方は知っているのにお金の価値を知らない。魔石がお金の代わりと思っていたみたいでパンを買ってあげたらお代に高価な魔石を渡されて驚いたわ」

「子供だからこれから学べばいい」

「もしもレティを養女にするならうちよ。叔母さんや妹達には渡さないわ」


村長はレティとレオを預かってから一部の女性陣の機嫌が良く助かっていた。そしてレティが話し相手になるおかげで村長は愚痴聞き役からも解放されていた。


「トメさん、レオのご飯とお世話になってるお礼に何かできる?」

「子供は気にしなくていいのよ」

「父さんも母さんもお付き合いが苦手なの。だからお礼は私が。魔石でいい?」

「気にしなくていいのに。そうね。いつか必要な時がくるから、お勉強しよう」

「え?わかった。うん。頑張る」


レティは勉強は嫌いでもトメの誘いを断れず礼儀作法の勉強を始める。興味はなくてもお世話になっているため断ってはいけないことは理解していた。

顔立ちの綺麗なレティが将来お金持ちに見初められるだろうとトメが思っているとは気づかない。レティはレオの世話を教わりながら空いた時間は礼儀作法のお勉強とトメや女性陣の話し相手。そして外に連れていかれ同世代の村人と交流を持つ。レティにとって生まれて初めてたくさんの人に囲まれる生活を送っていた。



居候し2週間後に、ロンドがレティ達を迎えに来た。

レティは帰る前に村長の部屋に寄り腰を揉む。


「レティ、部屋は余っている。二人で越してきてもいい」

「父さんと母さんが心配だから帰るよ。村長終わったよ」

「腰が軽くなった。ロンドは無骨で子育てには」

「おじさんは良くしてくれるよ。お世話になりました。村長の腰が治るまでは会いにくるよ。またね!!」


レティはトメを筆頭にたくさんの人に止められながらも丁重に断りお気に入りのローブに着替えてレオを抱いてロンドと一緒に元気に帰路につく。


「ただいま」

「レティ、お帰り!!とうとう完成したのよ。栄養満点レオ用の回復薬よ」

「凄い!!これから眠るの?」

「今回はね」

「おやすみなさい。ゆっくり休んで。調合はあとで教えて」


レティは久しぶりに自信満々に笑う両親の発明に拍手した。そして長い説明が始まる前に隣家に逃げた。


「お帰り」

「ただいま。クロード、父さん達をありがとう」

「フォン達が起きるまでうちに泊まるといい。赤子の世話は大変だろう?」

「お世話になります」


レティはトメとカラから子供の世話は皆で協力すると教わった。

そして時が経ち動けるようになればなるほど目を放していけないと言われ、すでに精一杯のレティは一人で頑張るのは無理だとわかっていた。

トメに何度も大変ならいつでも戻っておいでとも言われていたが、ロンド達が助けてくれるなら甘えることにした。

レティを引き留めたかったトメ達の思惑には気付かない。

いつも遠慮するのに素直に頭を下げたレティにクロードとロンドが驚いたのは気付かない。村長の家での2週間はレティを成長させた。


****


朝食の片づけを終えたクロードは椅子に座ってレオを抱いているレティの肩に手を置く。


「レオは見てるから寝なよ。顔色が悪いよ」

「うん。ありがとう。おやすみ」


クロードがレティの手からレオを抱き上げるとレティは毛布を取り出しころんと寝転がり目を閉じる。

クロードはぐっすり眠るレティを眺め、ぐずりだしたレオのための魔法薬を取りにいく。レティのいない静かな時間に寂しさを覚えた自分に苦笑し、賑やかな事は苦手でもレティのいる賑やかさは別物と気付いた日だった。



「クロード、お散歩行きたい。レオをお日様にあてないと」


起きてきたレティの誘いにクロードは頷く。

レオが襲われないように森に連れて行くときはレティは武術が得意なクロードと一緒だった。


「おばさんに剣を教えてもらったほうがいいのかな。魔法が使えないこともあるし」

「結界の中で待っててくれればいいよ。レオが逃げないように。その間に私が倒すから」

「クロードは凄いね。お願いします」

「うん。任せてよ。母さんに鍛えられてるから」


ニコッと笑うレティにクロードは笑い返す。

素直に頼ってくれるようになったレティが嬉しかった。レティの腕の中で眠るレオのおかげで物知りなお隣さんから頼りになる大事なお友達に昇格していた。

村での生活でレティはクロードの隣が居心地がいいことに気付いていた。




レオが生まれてからレティには村長の腰の治療に通い、お土産に美味しいパンをもらうという日課ができた。時々村のお手伝いに呼ばれれば快く引き受けた。


「クロード、レオをありがとう。これもらったよ」

「まだ温かいなら少し早いけど食事にしようか」

「もしかして!?」


目を輝かせるレティにクロードは笑う。ぐっすり眠るレオをベッドに寝かせて、二人で食事の用意を始める。

温かいパンに蜂蜜がたっぷり塗られていく様子をレティがうっとりと見つめる。


「やっぱりクロードのご飯が一番好き!!村長のお家は賑やかで疲れる」

「お疲れ様。おばさん達には後で届けようか」

「ありがとう。村も賑やかで楽しかったけど、時々でいいや。同じ話ばっかりで疲れるし女の子の話はよくわからない。お友達はディーネとクロードが一番好き」


ニコッと笑いディーネを抱きしめるレティにクロードがはにかんだ笑みを浮かべる。


「今日はデザートを作ったんだ」

「凄い!!クロードはいつでもお嫁さんに行けるね」

「お嫁さんになれるのは女の子だけだよ」

「そうなんだ。残念だね。今日の蜂蜜も美味しい。幸せ!!」


レティは幸せそうに笑いながら蜂蜜のたっぷりかかったパンとゼリーを頬張る。クロードは幸せそうに笑うレティを眺めながらゼリーにを食べ、次に挑戦するものを考える。


クロードはレオの世話を手伝いながら庭で野菜を育てている。

村に行くときは汚れた顔のまま帽子を被る。

母親がクロードに過剰なほど自衛の魔法を教え込むのは身を守るため。クロードも自分の顔が騒がれるのを嫌っているため、村にはあまり近づかない。買い物はロンドとレティに任せてレオの面倒を見ながら家で待っている。


「レオ、お散歩に行こう」

「いや」

「駄目。部屋にばっかりいては体に良くないわ」

「とうさんたちは」

「二人は子供の頃はきちんと育ったのよ。やりたいことをするのは大人になってから」


レティは放っておくと常にじっと座っているようになったレオを抱き上げて森に散歩に行く。

時々弟が難しい言葉で両親と話す意味はわからないが楽しそうだからいいかと思いながら健全に育ってくれるように願いながら世話をする。

村に行くときはレオはクロードに預けられる。

研究に夢中の両親に危なっかしい弟を預ける選択肢はない。放任主義のフォン達は過保護なレティに笑うがレティは決して譲らない。レティは両親が好きでも変わっていることはよくわかっていた。


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