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養蜂家の息子4

クロードは激しい爆発音に目を醒まし慌てて起き上がる。

寝間着のまま外に出ると隣家が半壊していた。

隣家に駆けこみ勢いよく扉を開けると毛布の塊から銀髪が見えた。クロードは毛布の塊に駆け寄り切羽詰まった声で名前を呼ぶ。


「レティ!!レティ!!」


レティは大きい声にゆっくり目を開け毛布から顔を出す。


「怪我は!?逃げないと。おじさん達は!?」


ぼんやりと目を擦っているレティをクロードが抱き上げようとすると真顔のロンドが駆けこんできた。


「クロード、レティと外に」


必死な形相のクロードとロンドを見かねたディーネがぼんやりしているレティの腕の中から抜け出した。


「二階が爆発したのよ。普通は家は爆発しないから二人は心配してるのよ。夜に大きな音をたてるのはいけないことよ」

「そうなの?おじさん、クロードごめんね。いつものことなの」

「え?」


火山が噴火した洞窟でもぐっすり眠るレティは目を擦りながらゆっくりと起き上がり毛布を置いて、階段を昇り両親の部屋に行く。

迷宮の罠の発動も魔物に襲われるのにも慣れているため頻繁な部屋の爆破が危険という認識もない。

二階の部屋では白衣を着て髪を乱したフォンとリアンが魔法で片付けをしていた。


「まだ起きてたの?」

「母さん、クロード達が大きい音に起きてきたよ」

「繊細なのね。もう遅いからおやすみなさい」

「今度は結界を作ってね。おやすみなさい。クロード、おじさんごめんね」


クロードとロンドは苦笑するリアンとブツブツと呟きながら部屋を修復しているフォンにため息を溢した。

レティはクロードとロンドを玄関まで送り、そのままペタンと座り毛布を被る。


「おやすみなさい」


うとうとしているレティの肩にクロードが手を置く。


「待って、レティ、風邪ひくよ。ベッドに行かないと」

「ベッド?」


ぼんやりと首を傾げるレティにクロードは嫌な予感に襲われる。


「もしかしていつもそこで毛布にくるまって眠ってるの?」

「父さん特製だから暖かいよ。おやすみ」

「今日はうちに泊まりなよ。母さんのベッドが空いてるから」

「クロード、その話は明日にしよう。レティはもう限界だ。遅いから眠ったほうがいい」

「おやすみなさい」


うとうとしているレティは毛布にくるまり目を閉じる。

クロードとロンドは食習慣以外もおかしいことに気付きレティを見ながら親子でそっくりな盛大なため息を溢す。


翌朝、目覚めたクロードは窓から外を見ると半壊した隣家は元通りに戻っていた。

クロードは朝早くに隣家を訪ねるとレティが干し肉を食べているのを見つけ明日からは朝食も誘おうと心に決める。


「クロードも食べる?」

「おはよう。いらないよ。おじさんは地属性の魔法が使える?」

「おはよう。うん。父さんは何でも作れるよ」

「おじさんに会える?」


レティはクロードをつれて二階に行くとフォン達は木箱の中に丸くなりぐっすりと眠っていた。


「ごめん。3日は起きないかな。研究が一段落するといつもなの」

「医者を」

「父さんと母さんの合作。構造はわからないけど、あれの中にいる間は食事も何もいらないの。睡眠貯金箱だって」

「―――そうなんだ。おじさんが起きたら会いたいって伝えてくれる?」

「うん。わかった」

「レティ、家の中を見てもいい?」

「うん。いいよ!!変わったものはないけど」


クロードは不思議な道具に溢れる隣家に突っ込んだらきりがないことは学んでいた。

家の中を案内してもらうと生活に必要な物がほとんど見当たらなかった。

クロードはロンドと一緒にベッドを作り隣家に贈った。


「これなに?」

「ベッド。この上で布団をかけて眠るんだよ。床の上で丸くなって眠るのは体に悪いよ」

「フカフカだね。ここで寝ればいいんだね。体に良くないことはいけないものね。ありがとう」


レティがベッドと布団を知ったのは6歳の時。

そして猫のように丸くならない両手を伸ばして眠ることを教わった。

5歳までのレティのお手本はずっと一緒のディーネで時々両親だった。



4歳のクロードはフォンに魔法を師事するようになる。


「魔法を覚えたいのか。いいよ。クロードは魔力の量が多いのか」


フォンは地属性の魔導士でありどんな物も魔法で作る。

クロードは戦闘以外の魔法の使い方をフォンに習い魔法の幅を広げていく。

水属性のレティは父の難しい言葉を理解するクロードに関心しながら隣で母に魔法を習う。


「レティ、水の魔法はイメージが大事よ。今日は治癒魔法を教えてあげる。体の構造はフォンに習ったわね?」

「父さんの話はわからないけど、熊を捌いて復習したよ」

「ならいいわ。獲ってきた魚を出して」


魚を使い治癒魔法を習っているレティは実は高度な魔法を習っていることを知らない。

研究に夢中な夫婦は常識は持っていないが、何があっても生き抜けるすべを子供に教えることは手を抜かない。ただ求めるレベルが高すぎることには誰も気づかない。



「クロード、村に買い出しに行くがどうする?」

「今日はおじさんが起きてるから魔法を教わりに行きたい」

「そうか。村の子供達が集まる学び舎は来年から行くか?」

「行かない。おじさん達に教わる方が勉強になるから」

「そうか。クロードはシーラに似て賢いからな。わかったよ。行ってくるよ」


ロンドは村があまり好きではないクロードの心配はしていない。

隣人が引っ越してからクロードは楽しそうなのでレティ以外に友達はいらないかと息子の頭を撫でて荷物を持つ。

庭で話す二人にレティが笑顔で手を振る。


「クロード、鹿肉狩ってきたよ。どうればいい?」

「おかえり、レティ。今日は私が作ろう」

「置いておくね。おじさん、これ母さんから」

「ありがとう。行ってくるよ。今日は私が腕を奮うから食事の用意はしなくていい」

「楽しみ!!母さんに伝えるね。おじさん、お使いがあるなら行ってくるよ」

「木の実を」

「任せて!!行ってきます!!」


リアンは材料費としてロンドに魔石を渡していた。

研究をしない日はリアンとフォンも一緒に食事をしている。

リアンもフォンは料理ができず、魔法を使わない家事が壊滅的に苦手な人種だった。

研究一家と養蜂一家が賑やかに食事をしていると扉が開きローブを着たシーラが顔を出す。


「久しぶり。賑やかね」

「シーラ、お帰り。隣人のフォンとリアンとレティだ。お腹がすいてるかい?」

「勿論!!初めまして。ロンドの妻のシーラと申します。あら?」


フォンとシーラは互いのそっくりな金色の瞳で見つめ合う。


「まぁいいわ。ロンドの食事は絶品でしょう」


シーラとフォンはお互いに頷き合い何もなかったように振る舞う。

シーラはロンドの隣の椅子に座り料理を堪能する。


「クロード、母さんいたんだね」

「うん。冒険者で世界を飛び回っているからほとんど家にいないんだ」

「大変なんだね……」

「レティ?」

「ううん。お家があるのは幸せだから」


レティはクロードに母親がいて良かったと思いながらも、過酷な旅を思い出し曖昧に笑う。

いつの間にか両親が打ち解けているのを眺めながら、スープを口に運ぶ。


「レティ、クロード、もう寝なさい」

「酒盛りね。飲みすぎないでね」


両親達が酒盛りを始めると察したクロードとレティは部屋を出ていく。

博識なシーラは研究一家と魔法の論議をかわし、仲良く遊ぶクロードとレティの様子を眺め、ロンドと二人で過ごし家族との時間を満喫し旅立つ。


「クロードも行く?」

「行かないよ。母さんのお土産の種を育てたい。気をつけてね」

「お誕生日おめでとう。逞しく育つのよ。きちんと訓練してね」

「シーラ、気をつけて」

「おばさん、行ってらっしゃい」

「ありがとう。行ってきます」


シーラが旅立つ背中をクロードとレティとロンドが見送った。


「クロード、寂しい?」

「寂しくないよ」

「そっか。クロードがいないと寂しいから行かなくて良かった。虹だ!!お散歩に行こう」

「え?」


レティはニコリと笑いクロードの手を繋いで歩き出す。

クロードが自分の言葉に驚いたのには気付かない。

クロードはレティはディーネさえいればいいと思っていた。

レティの言葉に胸がじんわりして、手を繋いで歩く横顔を見た。両親の手と違い小さくて柔らかい手をギュッと握るとレティが振り向く。


「お散歩、いや?」

「ううん。行こうか」


クロードはきょとんとしているレティに笑いながら首を振りレティが指差す虹を見る。


「虹のふもとに宝が眠っているんだって」

「クロードは物知りだね。虹のふもとはどんな魔境なんだろう」


クロードはシーラの話をレティに教えながら、一人で見上げた虹よりも綺麗に見えた虹に笑う。

レティはクロードの笑顔に嬉しそうに笑い手を引っ張って駆け出した。


楽しそうに遊んでいる二人の背中をロンドが、窓の中からフォンが眺めていたのには気付かない。


「運命ってあると思うかい?」


ディーネはフォンの声は聞こえないフリをして丸くなる。

レティが楽しそうに元気に笑っていれば十分だった。幸せの形はそれぞれである。

ディーネが願うのはレティの幸せだけ。

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