小論文『タイプライターと犯罪の関係』について
『タイプライターと犯罪の関係』は『シャーロック・ホームズの冒険』の一編『花婿失踪事件』で登場する。
──『花婿失踪事件』より
「タイプライターは妙なものでしてね。打った文字には、人の書いた肉筆文字とおなじに、それぞれ個性のあるものですよ。器械がまったく新しければ別ですが、さもなければ、どの二つをとってみても、打った文字がまったくおなじというのは一つもありません。ある文字がほかのよりも磨滅がひどいとか、片寄って磨滅しているとかするものです。そこであなたのこのお手紙ですが、どれを見てもeの字がすこしぼやけていますし、rは耳のところがすこし欠けています。特徴は全部で十六ありますが、この二つはとくにわかりやすいのです」
「事務所の通信はみんなこの器械で打つのですから、むろんすこしは損じてもいましょう」
ウィンディバンクはその鋭い小さな眼で、じろりとホームズを見た。
「そこで、たいへんおもしろい問題があるのですがね、ウィンディバンクさん。いったい私は、タイプライターと犯罪の関係について、小論文をもう一つ書こうと思っているのですが、これはかねてからすこしばかり研究している題目なのです。で、ここに失踪したホズマー・エンゼルさんから来たという手紙が四通だけありますが、みんなタイプで打ったものです。ところが、どの一つを見ても、eがぼけ、rの耳が欠けているばかりでなく、その拡大鏡で見ていただけばわかりますが、さっき申した十六の特徴が、そっくり現れているのですよ」
ホームズはウィンディバンクのタイプで打たれた手紙とエンゼルのタイプで打たれた手紙の十六の特徴が一致していることから、二人は同一人物だと推理したのだ。
このように、小論文『タイプライターと犯罪の関係』は登場してすぐに役に立っている。
また、タイプライターは媒介法によって暗号に使用することも出来る。タイプライターは記号と数字が同じキーに記されている。つまり、記号で数字や文字を表すことが出来るのである。しかし、媒介しているものがタイプライターだとわかればすぐに解読されてしまう。
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※正しい参考文献の書き方とは多少の違いがあります。ご了承ください。
〔参考文献〕
江戸川乱歩『探偵小説の「謎」』社会思想社
コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』延原謙訳 新潮文庫