小論文『各種煙草の灰の鑑別について』について
まず、一つだけ先に言いたい。ホームズの論文名の『について』が被っている。あまり気にしないでほしい。
小論文『各種煙草の灰の鑑別について』は『四つの署名』で触れられている。百四十種の葉巻と紙巻と刻み煙草の外観を列記し、その灰の区別をカラー図入りで説明しているというものだ。
──『四つの署名』より
「君の著作だって?」
「うん、まだ知らなかったのかい?」ホームズは笑って、「じつは僕の畑のものを若干いたずらしてみたんだがね。たとえばこの『各種煙草の灰の鑑別について』なんかその一つだよ。このなかには百四十種の葉巻と紙巻と刻みとの外観を列記して、その灰の区別がカラー図入りで説明してある。こいつは犯人捜査中にしばしばぶつかる問題だし、重大な手掛りになることも時々はあるからね。たとえば、ある殺人事件で犯人がインドのルンカ煙草をのむ男だと確認できたとすれば、それだけ捜査の範囲がせばめられたことは明らかだからね。慣れたものから見れば、トリチノポリ煙草の黒っぽい灰と、バーズ・アイ印の白くてふわふわした灰とを判別するのは、キャベツとポテトとの区別よりも容易なことなんだ」
また、『シャーロック・ホームズの冒険』の一編『ボスコム谷の惨劇』でもホームズ自身が『各種煙草の灰の鑑別について』を推理に利用している。
──『ボスコム谷の惨劇』より
「(前略)あの木のうしろに隠れて、タバコさえ吸っている。現に葉巻の灰を見つけたが、タバコの灰に関する特別の知識から、インド産の葉巻と鑑定したわけさ。このタバコの灰の問題に関しては、君も知っているとおり少々研究もしたし、刻みタバコ、葉巻、紙巻など百四十種の灰を調べて、小論文を書いたこともある。あたりをよく見ると、苔のなかに吸いのこりがすててあったが、これはインド産でロッテルダムでまいている種類のものだとわかった」
上のホームズの言葉からわかるように、ホームズは自分の小論文を推理によく利用する。
ちなみに、ホームズが見つけた『インド産でロッテルダムでまいている種類』の吸い残りの煙草の端には口に入れた様子がないことからパイプを使っていたとも推理した。
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※正しい参考文献の書き方とは多少の違いがあります。ご了承ください。
〔参考文献〕
コナン・ドイル『四つの署名』延原謙訳 新潮文庫
コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの冒険』延原謙訳 新潮文庫