来訪者
「いってきます」
「いってらっしゃい…早く、帰ってきてよ?」
私を不貞腐れた子供のように、大きくなってもまだ幼さを感じさせる表情で、ルークが見送ってくれています。
不機嫌なのに、こういうのはしっかりしてくれて…本当に…年々分からなくなりますね。
「はい、分かっていますよ」
そう言って、慣れた調子で返事をします。
そして、私は街へと降りていきます。そして、向かったのは、知り合いのハイルという貴族の家です。定期的に私に手紙をよこし、会いに来いと再三催促され……本当に…嫌いです…。
ハイルの家の者たちが私の顔を覚えてしまうほど、頻繁に呼ばれるほどです。昔と違い、今では主の元まで直で案内してくれます。
───ガチャっ
執務室に案内され、中に入ります。慣れましたが…少し前までは、ちゃんと客室に案内されたのに…私の扱い、雑になってません?
そのうち、書類整理手伝えとか言われそうで怖いです。
「もう来たのか…ちょっと待って…この書類だけ終わらさせて…」
目の前の男は顔も上げずに、書類へのサインに忙しそうです。
じゃぁ、帰っていいですか?と聞いてやりたい心を抑えて、執務室の椅子に座って待ってあげます。
10分ほどして仕事が終わったようで、私と向かい合って椅子に座りました。…あとこれだけって言って、何枚の書類を片づけているんですか!?人を呼び出しておいて…本当に私の扱い雑ですよ!?
はぁ…これだから、こいつとは一緒に居たくないんです。一緒に居るだけで、ストレスで胃に穴が開きますよ…。
「はぁ…今日はなんですか?」
不機嫌すぎて、声に感情が籠っていますが、気にする私ではありません。
「…いつも同じだろ?ルーク、あの子に一回会わせろ。老人共より、俺に会わせる方がいいだろ?」
「そうですね、じじい共よりいいですが、あなたはあなたで嫌です。と、毎度言っています」
この8年でこういった話を何度交わしたことか。魔術協会…そろそろ諦めてください…。
「はぁ…いっそ潰そうか?」
「レイ!他の魔術協会の者に聞かれたら、戦争もんだぞ!」
小声でボソッと言った私の言葉を聞き取る地獄耳をお持ちのようで、焦った口調で忠告してきやがりました。
が、戦争した場合、私はブラックリストに載るかもですが、死ぬのはそちらのじじい共ですよ。という言葉は、今日は呑み込んであげることにします。感謝してください。
いつも同じような事を言って、睨めっこして、この会話は終わっているが、さすがに鬱陶しい。
「はぁあぁぁぁ…」
私は大きなため息をつきました。それはそれは大きなため息を…。
「分かりました。明日にでも、家に来ていただいて構いません。ただし!ルークに手を出したら、本気で私を敵に回すこととなると、老人共にお伝え下さい。…破れば、本当に私と戦争…いや…虐殺だと」
「はっ…ちょ、まっ」
そう言い残した私は、歩いて帰るのも億劫になって、久々に魔道具の瞬間移動で帰りました。
何か言いたそうでしたが、見なかったことにします。
「わっ…早かったな。おかえり」
転移すると、目の前には驚いた顔のルークがいました。
「ルークぅ!ただいま」
「ちょっ…今斧持ってるから!抱きつくな!」
私は別に気にしないのに、ルークに止められてしまいました。薪を割っててくれてありがとうっ!愛してるっ!
「…っ…離せっ!」
───カンっ
「…ん」
優しく微笑みながら、ルークは暖かい飲み物を出してくれました。
本当に…ルークといると心が穏やかになります。
「何かあった?」
世間話でもするように、ルークが尋ねてきます。
一時でもあいつの事など考えたくないですが、仕方がありません。ルークにも関係することです。伝えておくべきでしょう。
「明日…ハイルという魔術師が来ます…。それ以上は聞かないでください」
私がそう言うと、ルークは本当に、それ以上は何も言わずにいてくれました。どうせ明日には、嫌というほど話すんです…。今日は…もう考えたくない…。
───トントン
次の日の昼、我が家の扉を叩く者がいました。
───ガチャっ
扉を開けると、やはり奴です。
ああ、夢だったらいいのに…いや、そんな悪夢見たくないですね…。先程までルークと一緒で、ほのぼのしていたのに。気分が一気に沈んでいます…。
「どうぞ」
中に入るよう促します。って…そういえば、一人で来るとは言ってませんでしたね。二人の魔術師を引連れていたようです。視界に入ってませんでした…すみません…。
はぁ…監視のつもりでしょうか…あのじじいども。歳をとっても、中身がガキの頃のままで、本当に小賢しい。




