8年後...日常
ルークを拾ってから、8年が経ちました。
…さて、私は何処でこの子の育て方を間違えたのでしょう。
私は諸事情で、不死ではありませんが、長寿です。私の姿形は昔と何ら変わらず、16の時で止まっています。平均よりは少し背は低いですが…16歳です。
そんな私より小さくて可愛らしかったルークは…消えました…。死んだという意味ではありませんよ?
「レイ!…飯できたぞ、いつまで寝てんだ」
いつからか、朝食を作り起こしてくれる、長身イケメンが家にいます。
可愛らしかった顔は今や面影もなく、整った顔立ちに…。背は私より大分大きくなって、たまに低めの電球に頭をぶつけています。
私、知ってるんですからね。
街の市場に買い出しに行った時には、若い女の子達にキャーキャー言われていたことを。店のおばちゃんには、その顔でオマケしてもらってることを。
「はやく…ごめん…」
ルークは一瞬部屋に入ってきたかと思うと、なぜか謝って部屋を出ていきました。
最近、この子のことが分かりません。
───ガチャ
食卓には、色とりどりのメニューが並んでいます。
「美味しそうですね」
「・・・」
「年々、腕を上げますね」
「・・・」
「昼食は私がつくります!何が食べたいですか?」
「・・・」
私は、これが分からないのです。
反抗期とやらでは無いんでしょうが、たまにルークは不機嫌になります。話しかけてもそっぽを向いて、全然こっちを見てくれないのです。
一体、なんなのでしょう?
「いただきます」
「…いただきます」
それでも、ルークがどんなに不機嫌でも食事は一緒に取ります。それが、我が家の暗黙のルールです。
✧ルークsaid✧
レイは朝が弱いらしく、ちょっとでも手助けになればと、早起きをするようになった。今では自然と、朝が近づくと目が覚めるようになってしまった。ふと窓の外を覗くと、うっすらと空がしらみ始めている。
顔を洗って、着替える。そして、朝食の準備を始めた。昔にレイから教えてもらったものや、飽きないようにと市場のオバさん達に教えてもらったものを作る。
朝食の準備をしたら、レイを起こしに行く。レイはちょっとやそっとじゃ起きないから、布団をひっぺがして、耳元で大声で起きるように促す。
これが俺の一日の始まりだ。
「…ん~…ん?…ルーク?」
寝ぼけた声で、レイが俺の名を呼ぶ。…かわいい。
「起きろ!…飯できたぞ!いつまで寝てんだ」
大声で言っていると、だんだん目が覚めて来るのか、起き上がった。そして布団に座って、目をこすっている。
ここまで来れば大丈夫だろうと、一旦部屋から出て、スープ類を器に入れて食卓に運んだ。これで、準備は完璧だ。
少し待っていたがレイが一向に部屋から出てこないので、また二度寝でもしたのかと部屋に入る。
「はやく…し…ごめん…」
扉を閉じる。
顔が赤くなるのを感じる。とっとと冷まそうと、手で顔に風を送った。
レイは週3ペースでスッキリとした顔で起きてくる。週4ペースで二度寝する。そして……月1ペースで、ゆっくりと頭が覚醒するのか、いつもの感じで部屋に行くとちょうど着替え中だったりする。
俺を男と思っていないのか、頭が覚醒していないのか、何でもないように扱われるが、俺にとってはそうはいかない。
レイを好きだと自覚したのは、だいぶ前だが、確実にそれ以上前から恋心を抱いていた。
…好きだって言ったら、レイはどうするんだろう。それこそ追い出されるかな。それとも、冗談だろうと信じてもらえないのかな。好きな人…いるとか…な…。それが、一番嫌だな…。
こういう事を考え始めると、いつもネガティブな方へ、ネガティブな方へと行ってしまう。
そういえば、レイはよく文通をしていた。傾いた三日月と蛇の家紋の主との文通。その相手の名前から、相手は男であること。そして、何度か会いにも行っていたのも知っている。
レイの様子から察するに、恋仲ではないと思うが、向こうがどう思っているかは分からない。付き合いの長さ、恐らくの年齢的にも、俺は劣っている気がしてならない。…俺は、レイについて、知らないことが多すぎる…。
「はぁ…俺も、もう二十歳…か…。そろそろ、覚悟を決めないとだな…」
レイの知らぬうちに、俺はとある決心を固め始めていた。
今は無理だけど…。
あんなことがあったからか、朝食では一度もレイを見れなかったし、話せなかった。「いただきます」は言わないと怒られるからと、それだけ声に出した。
そんな自分が嫌になる。




