新しい家族
「ふぅ、疲れました。……これだけあればいいでしょう」
朝起きて、私は薪がほとんどなくなっていることに気付きました。
補充するのをすっかり忘れていたのです。なのに、久々のお客様だからと張り切りすぎて、昨夜、残りの薪をほとんど使ってしまうなんて、…恥ずかしい話です。
切った薪を積み上げた後、いくつかを手に、私は家に戻ります。昨日の残りでも温めましょう。
そろそろ、少年も起きていい頃なんですが、まだ寝ているのでしょうか。
─────ギッギー
扉を開けると、目の前のは例の少年がいました。扉を開けた瞬間、少年はものすごい顔でこちらへ怯えた表情を向けてきます。ですが、次の瞬間には安堵した顔を浮かべます。
こんな顔を向けられるなんて…。はっ、いけませんいけません。
この少年を見ていると、調子が狂います。ずっと何かに怯えているようですし、私に対して警戒心がないのも事実ですが、私の側を安全区域だとでも言うようで…勘違いしそうです…。
「おはようございます。やっと起きたのですね。もう、お昼ですよ。ご飯の準備をしますから、今度は寝ないでちゃんと食べてくださいね」
私はできる限り優しい声で、その少年に笑いかけます。
少年は何も言いませんでしたが、コクッコクッと頷いてくれました。私は早速、昼食の準備に入ります。
そこまではいいのですが、なぜですか、少年よ。なぜ、私の後をずっと追ってくるのですか。
「…どうしたのですか」
私はその状況に耐えきれず、背後にいる少年の方を向いて、問いかけます。
少年は一瞬ぽかんとした顔をしたのち、真っ赤になって近くの椅子に一目散に走っていき、座りました。俯いていて、表情は分かりませんが耳が真っ赤です。
…まさか、無意識だったのですか。
どうしましょうか。この感情は、愛おしい、微笑ましいとでも言うのでしょうか。口元が緩んでしまっているのを少年に悟られまいと、私は少年に背を向け、昨日の料理を温めなおします。
───コンッ
「さぁ、出来ましたよ」
私は机に料理を並べ、席に着きました。
少年は、一口食べると、その後、勢い良く料理を頬張っています。
「いい食べっぷりですね。口に合ったようでなによりです」
そう言ったのち、私も少年と一緒に食べ始めました。
……こうして、誰かと食卓を囲むのはいつぶりでしょう。こんなにも、心温まる日を過ごしたのは、いつぶりでしょう。
私は、幸せをかみしめながら、食事をしました。
─────少年は、私の作りすぎた料理を、すべて平らげてくれました。
その後、少年の無造作に伸びた髪も、切ってしまいました。前髪を一気に切って、目にかからないようにしたときには、嫌そうな顔をされましたが、見なかったふりをします。
十分すぎるほど寝て、食べて、服や髪を整えると、少年は別人のようになりました。
「いい出来です。見違えましたね。…そういえば、少年の名前は何ですか?」
私は鏡越しに、少年に話しかけます。
自分の変貌に驚いているのか、終始無言だった少年は、私の質問で現実に戻ってきたようです。肩をピクッとさせた少年は、恐る恐る私の方を向きます。
「……聞いてどうするの?」
その瞳には、恐怖が漂っているのを私は感じ取りました。
「私は魔術師ではなく魔法使いです。少年、あなたが出会ったのは魔術師の女です。私は生贄を必要としませんから、恐れなくて大丈夫ですよ。…それに、名前は知っていた方がいいでしょう?行き場がないのなら、ここに住んでいいんです。出て行きたければ、行きたいときに出て行ってもいいんです。少年、あなたは自由なんですから。ですから、私は名前で縛ったりなんてしませんよ。…ま、そんな魔法も魔術も、私は使えませんが…」
私は、少年が危惧しているであろうことを否定します。
「…少年、私の家族になるのは嫌ですか?」
私は、少年に向かって、ずっと考えていたことを告げました。
少年は目を見開いて驚いたかと思うと、その目からは涙があふれてきました。
「…ルーク…です。…よろしくお願いします」
少年は涙ながらに自己紹介しました。
「ルーク…光ですか、いい名前ですね。私はレイラです。レイと呼んでください」
私は、かがんで少年と、ルークと目線が合うようにして、笑顔で答えました。
「レイさん?」
「レイでいいですよ」
「レイ…」
そう呼んでくれたかとと、少年は泣きながらではありますが、満面の笑みを浮かべてくれました。
「はい、これからよろしくお願いしますね。ルーク」