表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/28

少年の運命の出会い

 俺は、捨て子だった。物心着く前からスラム街に住んでいる孤児だった。


 生きていくには、食べ物が必要だ。お金が必要だ。

 盗みや詐欺、ゴミ箱漁りに、運び屋。なんでもやった。


 その日は、割のいい仕事があると聞き、仲間たちとその女(・・・)について行った。それから、その事を後悔するのに、時間はそうかからなかった。




 その女は魔女だった。何かの実験をしているようで、俺たちは奴の道具に過ぎなかった。


「さぁ、実験を始めましょうねぇ」


 あの女の甘ったるい声は、いつまでも耳に残っている。そして、聞く(たび)に、思い返す度に、虫唾が走る。


 女は俺達を縛り、魔法陣の中に入れた。そんな実験が、毎日毎日続いた。


「っ…あ"ぁっっっーーー!!」

 女が何か呪文を言うと、魔法陣が急に光り出し、その途端、全身に激痛が走る。


 痛い、痛い、苦しい……助けて……。


 酷い実験だった。俺と俺の仲間以外にも何人かいたが、いつしか俺一人になっていた。仲間たちはその痛みに、苦しみに耐えきれず、精神を崩壊させられ、死んでいった。


「うふふっ…かわいい、かわいい、私のお人形。この実験は成功ね」

 女は、ずっと笑っていた。


 女の言動すべてが、気持ちが悪い。


 女は定期的に買い物に行っていた。その隙をついて逃げ出せたのは、本当に奇跡だと思う。


 そして、真っ先に出会った、あの女じゃない人に、俺は助けを求めた。生まれて初めて、願った。『たすけてくれ』と。


「……たす…け…て。お願い…何でもするから…殺さ…ない…で…」


 長いローブを着たその人は、俺を助けてくれると言った。その人は、この国には珍しい服を着ていた。


 外から来たのだろうか、なら外に出れるだろうか。逃げられるだろうか。そんな淡い期待が、俺の中に浮かんだ。案の定、その女の人は街を出ようとしていた。


 本来なら、通行書がないと街を出ることは出来ないが、奴隷とでも思われたのか、あっさりと街を出ることが出来た。


 そこから少し歩いていると、突然その人は立ち止まった。


「…手を出してください」


 その手には、あの女も持っていた〝魔法の道具〟があった。俺が助けを求めたのも、魔女だったのだと悟った。


 誤ったものに、助けを求めてしまったかとも思ったが、なぜかその人はあの女とは違う気がした。それでも体は強ばり、この人が魔女だというだけで震えてくる。恐る恐る手を出すと、その人は急に手を握ってきた。


 身体がビクッと跳ねる。その魔女は、何かをボソッと言うと、魔法の道具が光り、次の瞬間には俺たちを包み込む。




 気が付くと、知らない森の中にいた。


「ここが我が家です。…まずはお風呂場に入りましょうか」


 自分で入るか否かを、その魔女は尋ねてきた。だが、俺はそれどころではなく…恐怖で足がすくむ。


 何か言わないととは思うが、頭が全然働こうとしない。どうするべきか、俺には分からなかった。その魔女は、痺れを切らしたのか、俺の襟元を掴んで持ち上げる。


「…離してっ…やめろっ!」

 全身が恐怖で強ばっているのが自分でも分かる。昔の俺なら、こんなことはしないだろうが、恐怖がまとわりついて、今の俺は惨めったらしく(わめ)くしかなかった。


 恐怖で、涙が(こぼ)れてくる。あの女のせいで、枯れてしまったと思っていたのに…。




 魔女は、俺の服を引っペがして、風呂に入れた。その時、初めてその人と目が合った。


「…私は魔女、レイラです。私は魔女ですが、私はあなたが思うような非道を好みません。私はあなたの味方ですから、そう怯えないで下さい」


 あの女は、ただただ怖かった。気持ち悪かった。


 だが、その魔女は優しかった。言葉のひとつひとつには優しさが篭っていた。優しい手だった。


 あの女とは、全く違う…。


 だからだろうか、風呂に入れられたあと、俺は安心してしまって直ぐに眠ってしまった。


 その日俺は、久々に深く眠ることが出来た。






─────その次の日、目が覚めると知らない部屋にいた。その部屋は、ベッドと本しかない部屋だった。


 …夢じゃないんだ。あの女から逃げられたんだと実感する。あの女の部屋でないことに、安堵したのも束の間だった。


 あの魔女の部屋だろうかと思いつつ、部屋から出た。他人の家で不躾な気はしたが、あの人を探した。昨日見た食卓…風呂場…。見覚えのある場所だが、あの魔女だけが居ない。色々な部屋を見て回ったが、魔女はどこにもいなかった…。


 そのことに、恐怖を感じたのはなぜだろう…。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ