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ゲートの思い出4

「やっと…。そう、そんなに近くにいらしたのですね」


 涙を浮かべながらも、レイラ様は少女のように笑っていた。


 森で見たあの人に心当たりでもあるのだろう。それが誰なのか、それを聞いても、素直に教えてくれるとは思えない。それよりも、今は。


「レイラ様。頼みがあると言ったら、どうしますか?」


「…?…まどろっこしい言い方ね。今は気分がいいの、ある程度は聞いてあげる。要件は?」


「…全てを承知で願います。あの子たちを頼めませんか?」


 俺も魔術師の端くれだ。家族を助けるため、魔術の中でも禁術と呼ばれるものにだって手を出した。それ故だろうか、言われなくたって分かっている…。


 ゲートの命は、あまり長くない…。


「あぁ、そうだったな…。ゲートはあの人の魔力に(さわ)ってしまったようだ。…よかったな、お前でなくて」


「どういう…意味…です…か…?」


「私は後天性…つまり生まれつき魔力を持っていた者では無く、後から魔力を持ったクチだ。だから、破壊の魔法しか使えない。対してあの人は、先天性…生まれつきの魔力持ちだ。私が生まれた時代でも片手で数えられるほど優秀な、な」


 魔法や魔術が消えつつある現在からすれば、一世紀前の下級魔術師でさえ、崇められるレベルだ。レイラ様の生まれた時代のトップクラスの魔法使いの魔力…強すぎるが故に近づくだけで障りになるほどとは。


「あの人の強すぎる魔力を体内に取り込んでしまったんだろう。ゲートは魔女だから、多少は耐性があったんだろうが、お前なら即死だ」


 ゲートは耐性があっても全身包帯まみれになるくらいの影響を受けた。その人はもはや、全くの別次元の存在だ。


「ハイル、座れ」


 自らの不甲斐なさに打ちしがれる俺に、レイラ様は笑顔でそう言った。珍しく、優しい雰囲気だった。






「私は、あの子の祖母に、あの子を守ることを約束した。完全に助けることは出来ないが、永らえさせことは出来る」


「つまり?」


「あの人が目覚めるまで、魔術協会からあの子を守りなさい。方法は教える。対価として、私はお前の弟子が死なないよう見守ってやる」


「…分かりました」


 その後、これからについて話し合った。


 今の状況のゲートを魔術協会の者たちは必死になって捕らえに来るだろう。色々な考えを持つものがいるが、実験体にされるか、殺されるかの二択だろう。


 障りを受けた者の末路など、しれたこと。


「…死んだことにするのはどうだろう?」

 そう言い出したのは、俺だった。


 ディーナやセシオラを巻き込みたくないがために、自身を死んだことにした。そうすれば、俺たちと違って、あの子たちは表の世界で生きていけるだろうと考えたのだ。


「契約は契約…叶えましょう。ただし、私は傍観者に過ぎません。己が何を決断したのか、ゆめゆめ忘れるなよ?人間」


「はい…ありがとうございます…」


 レイラ様は、俺の考えに協力を約束してくれたが、最後までいい顔はしなかった。俺の決断が、あの子たちの運命をねじ曲げることになると、気づいていたのだろうか。






─────魔術を駆使して、土人形でゲートを作った。魔術協会の者たちまでは(たばか)ることが出来なかっただろうが、まだ幼いあの二人なら…と。


「ただいま。ディーナ、セシオラ」


「おかえりなさい!」


「おかえり、先生、ゲート姉さま」




 それから、数日かけて俺の死を偽装する準備をした。子供たちが彼女らだけで術を使うように促し、その術に細工をした。


 思っていたよりも術が効きすぎたのか、俺の姿形をした土人形が弱すぎたのか、目の前の土人形は手足がありえない方向へ曲がっている。


 そして、異常な量の血溜まりができていた。


「はぁあ…。トラウマにならないように、精神安定用の(こう)を焚いておいて正解だった…。心を壊すようなことにはならんだろうが…」


「やり過ぎましたね…」






─────家を出てから、数日後。


 ゲートがやっと目覚めた。だが、しばらくはまともに魔法も魔術も使えないとの事だった。


 それでもすぐに、魔術協会の目を欺くため、レイラ様の家を離れることになった。そして、白い人が目覚めるまで、俺とゲートはあの山の麓に隠れ住むことにした。


「一度、体内に入り込んだ魔力は、そうそう取り出せない。そこでだ。…あの人の魔力が森中に漂って、森自体に影響が出ている。あの森のものを食らい、あの森で生きれば、魔力に適応する身体が出来るはずだ」


 レイラ様のその言葉に従ったのだ。


 と言っても、俺やゲート自身への影響は計り知れないため、適度に距離のある麓に居を構えた。


「白い人が目覚めるその日に…」

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