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ゲートの思い出3

「・・トっ!ゲートっ!!起きろ!ゲート!」

「いやぁぁぁっ!!」


 飛び起きると、目の前には心配そうな顔で私を見つめる先生と、無表情で立っているレイラ様がいた。


「せんせ…い…?……あれは…夢?」

「何か、嫌な夢を見たのか?大丈夫かい?」


 優しい先生の声に、胸を撫で下ろす。良かった。良かった。あれは、ただの悪夢だったんだ。安堵からか、緊張が解け自然と涙が頬を伝う。


「よかった…。もう大丈夫です」


 現実感はもう無く、目が覚めてしまえば、なんてことの無い夢だった。


 ただ、あの光景は…あまりに恐ろしく感じた。


 目の前で人が死んだからじゃない。先生だったからだ。先生を失いたくない…。




「悪夢か…」


「どうかしたのか?」


「いや、気のせいだろう…」


 レイラ様は先生の質問に、歯切れの悪い返しをした。いつものレイラ様らしくない答え方だが、レイラ様が気のせいと言うのだから、そうなのだろうと思う事にした。


 この時既に、きっと私が思っている以上に、予兆はあった。


 それに、私は気づかなかった。いや、気付かないふりをしたのかもしれない。






─────レイラ様の家から、約1週間をかけて向かったその地は、夢に見た景色と全く同じだった。


 ただでさえ、森の異様な静けさが気味悪いのに、あの夢の光景が私の足を重くする。


「先生…帰りませんか?…嫌な予感がして…」


「…そうだな、あの人の言う通り、この地の様子は異様だ。…ゲート、気になるならお前は先に帰っていなさい。俺はもう少し、調べておきたい。…後からじゃ、遅いかもしれん」


「っ、…分かりました。先生がそう言うなら、私も一緒に行きます」


 先生は、手遅れになる前にと、先に進み、元凶だけでも突き止めたいと言った。


 先生のその意思を変えられるほどの言葉が思いつかなかったが、先生を一人で行かせる気にもなれなかった。だから、勇気を振り絞って山に奥に進んで行った。


 でも、進んでいくにつれて既視感は強くなっていった。


 陽の光を遮断するほど生い茂った木々、その奥に広がる草原。揺れる草原のその奥に、特に強い魔力を感じる。嫌に、生暖かい魔力…。


「この奥からだ…。足元、気をつけろよ」


 先生は草原を進んで行く。


「先生、待って…」


 心臓が嫌に早くなり、既視感は強まる。恐怖から声が震え、上手く言葉にならない。


 そんな中でも先生は進んで行ってしまう。先生が掻き分けた草むらの奥から、眠っているあの人の姿が見えた…。


「先生!逃げてっ!!」


 その後のことは覚えていない。ただ、遠くで何度も私の名前を呼ぶ先生の声がしていた。


 よかった。先生が生きてる。よかった。






✧ハイルsaid

─────ドンドンドンっ


「魔女様っ!魔女様ぁっ!!」

 なんでこんなことになったのか。


┈┈┈『先生…帰りませんか?』┈┈┈┈

 そう言ったゲートの言葉を聞いて、すぐにでも帰っていれば…。


 山を駆け下り、魔女レイラの家へ向かう中、何度も何度も後悔した。今までに救えなかった命がどれだけあったか。この子まで…そんなの嫌だった…。


「頼む、死なないでくれ…」


 魔道具を使えば一瞬だが、こんな状態では、移動に身体が持たないかもしれない。荷物など捨て置いて、走り続けた。




───ドンドンドンっ

「魔女様っ!魔女様っ!!」


「毎度毎度…一度叩けば十分だ!」


 まだ辺りは暗く、さっきまで寝ていたのだろう。レイラ様は眠りを妨げられたからか、イラついた様子で扉を開けた。


「頼む、助けてくれ…」


「っ、…中に!」


 それから、レイラ様はゲートの手当をしてくれた。


 ゲートの傷を一瞬で治す方法などないようで、何種類もの薬草を調合し続けて、ゲートを助けんとしていた。レイラ様だけじゃ、手が足りないと、俺も微力ながらに協力した。


 ゲートの容態が安定する頃には、日が傾き始めていた。






「何があった」

 レイラ様はゲートの包帯を変えながら、静かに尋ねた。


「分からない…。突然、血を吐いて倒れたんだ」


 そう、特に何か変なものを食ったわけでもないし、獣と遭遇したわけでもない。俺はゲートに突き飛ばされて、目を開けた時には、ゲートは今の状態だった。…他にあったことと言えば…。


「あぁ、そう言えば、人がいた」


「人?」


「白髪に白い着物を着てて…仮面をつけてたから、顔は分からなかったが、若い人じゃないかな…。山の異様な魔力の原因はその人だと…思う…。…魔女様…?…」


 誰にも心を開かず、常に傍観者で居続けた孤高の魔女。この日、そんな彼女の、本当の顔を見た気がする。


 レイラ様は…泣いていた。その口元には優しい笑みがこぼれていた。

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