ゲートの思い出2
私はハイルさんに引き取られることになった。
時を同じくして、ハイルさんは魔術協会を通して2人の子供を育てることになった。 私と、その子たち、ディーナとセシオラは姉妹弟子としてハイルさんの元で魔術を学ぶことになった。
最初こそ、慣れないことも多く、喧嘩することもあった。だが、共に魔術を学んでいくうちに、気づけば本当の姉妹のように仲良くなっていた。
そんなある日のことだった。
───コンコンコン
「ゲート、少しいいか?」
扉を開けると、そこにはハイル先生が立っていた。
「先生…?こんな夜更けに、どうかしましたか?」
先生は何を言うでもなく、ただただ一通の手紙を差し出した。読めということなのだろうと察して、その手紙を受け取り、封を破って中身に目を通す。
それはレイラ様からのもので、短く、たった一行、『頼みたいことがある』と書かれていた。
「頼み事…?」
レイラ様は、か弱い少女のような見た目に反して、一匹狼のような性格だ。
誰かに頼み事なんてしないし、しようとも思わないような人。そんな人からの手紙に、戸惑いを隠せない。一体何が起こっているのだろうか。
だが、そんなあの人の願いだ。叶えたいと思った。
「俺とゲート、2人をお呼びのようだ。来てくれるな?」
そう言った先生の手には、私のと同じ模様の封蝋のついた手紙があった。
私と先生は適当に理由をつけて、少しの間、家を留守にすることにした。そして、レイラ様のいるであろう森へと丸一日かけて、向かったのだった。
─────季節は秋だが標高の高い位置に家があるため、レイラ様の家に着く頃には風が肌寒く感じた。
「来たか。無理を言って、すまんな」
家の前で待ってくれていたのか、レイラ様が出迎えてくれた。
「レイラ様、お久しぶりです!」
「あぁ。…まぁ、入れ」
レイラ様に促され、私と先生は家に入り席に着いた。レイラ様は、いつものようにお茶を出してくれる。
「それで?頼みたいこととは?」
ハイル先生は、あまりこの家には居たくないようだった。
私が初めて先生に会った日も、玄関で話していた。先生は最後まで、決して中には入らなかったことを思い出す。家を出れば、すぐに荷物を持ち、コートを貸してくれたのに。
「森の様子がおかしくてな。調査を頼みたい」
レイラ様は先生の事など気にもとめず、いつもの調子でそう切り出した。
レイラ様の話を要約すると、ここ数日、レイラ様の住む森には居ないはずの動物がを、よく見るようになったとか。
実際、ここに来るまでに見たことの無い鳥が空を飛んでいるのを見た。
本当に、何かが起こっているのかもしれない。
その動物たちは、元々隣国との境近くの山に住んでいたことが分かったが、レイラ様は魔術協会との制約でこの国を…いや、こ正しくはこの森を出られない。なので、私と先生に見てきて欲しいのだそう。
「というわけで、2人で行ってきてもらえないか?危険と判断したなら、即刻帰ってきてくれて構わないから」
「拒否権など与える気ないくせに…。行きますよ。どこら辺ですか?」
先生は嫌そうな顔をしながらも了解し、私たちはその山に赴くことになった。と言っても、今日はもう遅いということで、レイラ様の家に泊まって、明日の朝に出発することにした。
「レイラ様の杞憂で済めばいいのだけど……」
そんな不安を胸に、その日は眠りについた…。
─────鬱蒼と生い茂った草を掻き分け、私と先生は山へと足を踏み入れた。山の奥からは、生暖かい風とともに、強い魔力が感じられた。
知らない魔力だが、少しレイラ様と似た毛色の威圧感があった。それでも、レイラ様の魔力と違って、トゲトゲしく、こちらを拒んでいる感覚が強い。
私と先生はその魔力の原因を探るべく、その魔力をたどって、奥へ奥へと進んでいた。
辺りは異様とも取れるほどの静けさで、それがただただ気味悪く感じられる。
「この奥から魔力が流れているな…。足元、気をつけて」
先生の先導の元、私たちは生い茂る草原を歩いていた。
だから気づかなかったんだ。
先生の足元で眠っていた、その人の存在に。私がその人に気づいた時には、もう、全てが遅かった…。
「せ、ん…せい…?」
目の前から先生は居なくなっていた。
目の前にあるものと言ったら、ただただ眠り続ける存在と、赤に染った草が風に揺られているくらい。
「いやぁぁぁっ!!先生、先生っ!?」




