レイラの過去2
「私の役割は文明を経つ衰退させること。書物を燃やし、偉大な王家の者たちに退いてもらった。まぁ、聞いてくれない人も居たけど、私と魔法でやり合おうなんてするから…。あの頃は、まだ、自分が使える魔法がひとつしかなくて、威力をコントロール出来ないなんて知らなかったんだもの…」
遠い目をしながら、レイはそう言った。
レイが使える魔法は、確か破壊の魔法。それも、国ひとつ簡単に滅ぼせるくらい大規模な。…セシオラが言っていたのは、この件だろう。
「…なぜ、文明を衰退させるのよ?多くの人を殺してまで、なんで」
「死んでいたんですか…?300年生きてるって、人の寿命では生き返ってないんでしょう?今の寿命っていくつなんですか?」
「結局、白い人って何者なんですの?」
レイいわくつまらない話は、みんなにとっても興味引かれる話だった。
「五月蝿い!一同に話すな!」
レイは煩わしげに、一括で全員を黙らせる。
「セシオラの質問について。これは聞いた話だが、魔法や魔術と呼ばれるものが生まれたのは、戦争のためだったそうだ。研究し極めて行けば、環境を壊し世界の理すら歪めることが出来る力だ。…そんな力があれば、必然と争い事も起きる。それを防ぐために、神様に仇なす者が現れないように、文明は一度リセットするべきなんだ」
「待ってよ、戦争を防ぐために、殺すの?」
「ゲート、それは勘違いよ。確かにハイルたちに殺しをさせた時期もあった。でもそれは、魔法や魔術を悪用する、話し合いの余地もない相手だったから。…私じゃ、国まで巻き込むから…頼むしか無かっただけ。それ以外の者たちは、記憶を消して、書物を燃やし、血を薄めていってもらったよ」
確かに、レイは色んな意味で戦闘向きじゃない。
「次にハイル。私の寿命は、私にも分からん。ただ、その昔、寿命を削って魔法を行使し続けた者が居たとかで、余分に寿命を授けられているとは聞いているから、倍の600年は生きられるはずだ」
…何の目的で、寿命なんて使うんだ?大きな魔法や魔術には、膨大な魔力や贄がいると聞くが、寿命?命懸けで、臨まなくてはいけないことが?
昔の人は、そんなにも切羽詰まった、生き辛い世界だったのだろうか?そう考えると、その時代に生きていなくてよかったと思えてくる。
「次、ディーナ。白い人については、あまり詳しくは知らない。実際2日くらいしか一緒にいなかったし、殆ど説明してもらうだけで時間が無くなったからな。私が知っているのは、人の姿と獣の姿を持つ獣人ということくらいか…」
獣人…今度はおとぎ話に出てくるような話が始まる。…レイが生まれた時代とは、どんなものなのか?
「ルークから、質問は無いのか?無いなら、次に行くが」
レイが俺にも聞いてくれた。優しい表情で、口調が違うだけでいつものレイだ。
周りの勢いが凄くて、引けてしまっていたが、俺も疑問があった。それを聞くことにした。
「じゃぁ、一つだけ。……その、約束の300年って、もうすぐってことだろ?何があるんだ?」
「約束の時は、私の見立てではあと数日あるかないか。…その時が来たら、世界から魔力が完全に消え、魔法も魔術も使えていた者たちですら使えなくなる」
「え?」
「私の役割は、せいぜい文明の衰退。急に生活に根付いていた魔法や魔術が消えたら、困るだろう?そのための300年なんだよ」
レイに役割を与えた者。その人は、随分と先のことまで見通し考える、思慮深い人なのだろう。300年もあれば、確かに魔法や魔術を使えない人々なりに、別の方法や力くらい確立できるだろう。
実際、それが今街で話題となっている動力と呼ばれる力に繋がったのだろう。
「はい、私の話はここまで!…どっちが話すの?」
レイがハイルとゲートの顔を覗き込んで、問いかける。
「私が話すわ」
ゲートは、決意に満ちた表情をしている。
「まず謝るわ。ディーナ、セシオラ…ハイル先生とレイラ様、ルークくん。本当に、ごめんなさい」
悲しげな表情で、ゲートは深々と頭を下げた。
「まず、私は魔女よ。レイラ様を除いた、恐らく人類の中で最後の、ね」
魔術師ハイルの弟子。ということは、魔術師だと思うのが当然だ。ディーナとセシオラは、驚いた表情だった。
俺はかつて、レイに聞いていたため、そこまでの驚きはなかった。
「私の家系は代々魔女の血筋でね?……祖母の代には多くの魔女や魔法使いがいたそうなのだけど、魔女狩りにあって…。段々と数を減らしていったそうよ」




