集合2
沢山の者たちを見送った。沢山の者たちと出会っても、みんないつかは…居なくなってしまった…。それが辛くて『関わらない』ことにした。それでも、自分に関わらそうとする者は少なからずいた。
でも、そんな奴ほど、私は深く傷つけた。ハイルもその一人だった。あいつと初めて会った時、あれは私に願った。〝病の家族を救って欲しい〟と。
親、恋人、子供…一人も救わなかった。方法はいくらでもあった。でも、救わなかった。
そんな私は、同情からルークを救った。
ハイルの怒りは相当だったろう。それでも、あれは何も言わなかった。
─────「そろそろ、潮時ですね」
今日は嫌になるくらい、雲ひとつない晴天です。心地の良い風に任せて、とある魔術道具を使い、ふたつの手紙を送りました。
セシオラとハイルに向けた手紙。届くといいのですが。
「どうか、間に合って…」
そして山を下り、ディーナと落ち合うと、セシオラがいる場所へ向かいました。
─────さてさて、姉妹でそんなに喧嘩しなくてもいいでしょうに。というか、何ですか?その話題…。
「是が非でも、レイラ様を殺そうと言うんですの?罪のない子供たちを犠牲にして?…セシィ、あなたは勘違いしていますわ。レイラ様を殺したって」
「黙って!ねぇさまを守るためでもあるのよ。お願いよ、邪魔しないで」
ルークの喉に剣を突き立て、セシオラが怒っています。どんな状況でも、ディーナは妹を捨てられないようですね。相変わらずの、姉妹想いの、強い家族愛ですね。
本当に、羨ましい。
「…いつか、〝白い人〟は来てしまうわ。そうなれば、レイラ様を殺したって、意味無いでしょう?」
目の前で、セシオラとディーナが言い合っています。おやおや、あの方についても知っていたとは思いませんでした。だとしても、何ですか?その話に内容は…。
「ちょっと、黙ってはいただけませんか?」
2人の言い合いに割り込むと、2人は言い合いをやめて、私の方を見ました。表情が険しすぎて、怖いんですが…。
「お二人とも落ち着いてください。とりあえず、きちんと話し合いをしましょう。やっと、全員揃ったようですから。…遅かったですね、お二人さん」
そう言うと、ディーナ、セシオラ、ルークが不思議そうな顔でこちらを見つめています。私の視線は、私の背後に向かっています。
「お久しぶりです。魔女様」
そこには、皆にとって見覚えがあるであろう顔があります。
「ゲート!?」「ゲートねぇさま!?」
ディーナもセシオラも随分と驚いた様子です。ですが、それは彼女たちだけではなく、ルークもです。
「は!?…さっきの話に出てた?…あの人が!?」
「?…私たちの姉を知っていますの?」
「知ってるも何も…」
ディーナの質問に、ルークはまともに答えられないほど動揺しているようです。無理もないでしょうが。ルークにとっては、意外な状況でしょうからね。
そう、ルークは彼女に会った事があります。8年も前に。
「…お久しぶりです…魔女様。あれからもう、8年ですか」
ゲートの後ろに立つ男も、挨拶してきました。
「え?…」
「ハイル…先生…?」
「お久しぶりです、ハイル」
ディーナとセシオラの口から漏れた声だけが、教会に響いていました。死んだと思っていた男が、尊敬する師が、目の前にいるのですから当然と言えば当然でしょう。
セシオラの話で、唯一の間違いがあるとすれば、この件だけです。…ハイルは死んでいなかった…という一点だけ。
弟子が悪に走ったことを知りながらも、ずっと沈黙を続けていた男が、やっと表に出てくる気になったとは。随分と、時間がかかりましたね。
「聞きたいこともあるでしょう?言いたいこともあるでしょう。それは、皆同じことです。…話し合いの場を設けたいのです。来ていただけますね?ハイルの弟子たちよ」
これから、私は語らなくてはいけません。
ハイル、ゲート、あなたがたも同様に。
そして決断を求められるでしょう。未来を担う子供たち、あなた方は何を思い、どんな選択をするのか、私は楽しみで仕方がありません。私には、選択することすら出来ないのですから。
…もうすぐ、もうすぐです。…あと少しで、傍観者としての私の役目も終わります。そしたら、私は…。
「それでは、ここではなんです。…私の家に行きましょう」
返事をする者は居ませんでしたが、全員了承したのか、黙って集まりました。後はそのまま、魔道具を使って、私の家まで飛びます。
「さぁ、話し合いを始めましょう」




