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過去~セシオラsaid

 私たちは、産まれも育ちも全く違った。性格も違うし、得意なこと苦手なことも、何もかも違った。


 そんな私たちを、先生は〝姉妹(きょうだい)〟と言った。


「セシィ、()()()()、やるわよ!」

 貴族出身のオリビアは、ハイル先生の娘だった。


 血は繋がっていないが、妻子のいない先生の唯一の後継者だ。所作は綺麗で、いつも怒ってばかりだったけど、自分にも他人にも厳しい子だった。


「遅れないでよね」

 クールなゲートは、私たちの中で一番魔術が出来る子だった。あまり感情を表に出さないけど、先生に恋をしているのを私たちは知っている。


「……うん」

 対する私、セシオラは、何も無かった。平民出身で根暗。魔術も、二人に比べたら遥かに見劣りする。


 ゲートのようにしっかりした身体はなく、病弱。オリビアのような、綺麗な髪や肌でもなく、女の子らしくない。私は私が大っ嫌いだった。


「お前たち、何してるんだ?」

「「先生!」」「お父様!」


 私たちは先生が好きだった。厳しいところもあったけど、私たちのことをいつも見てくれている優しいその人が、たまらなく大好きだった。




─────私はそんな日々が、いつまでも続くと思っていた。でも、そうはいかなかった。


 私たち3人は、よく先生に内緒で魔術の練習をしていた。先生には、先生が居ない時はしちゃダメだと言わせていたのに、私たちは簡単なものならと、よく集まって練習をしていた。


 それはひとえに、先生に褒めて欲しかったからだと思う。だが、回数を重ねるうちに、私たちは欲が出たのだ。


 その日、私たちは魔術を使った。一昔前の魔術師なら難なくこなせたという魔術だが、今では少しレベルの高い魔術だった。


 正直、何を失敗したのか、未だに分からない。ただ、私たちは失敗したのだ。


 地面に描いた魔法陣からは、絶対に起こるはずのない電気が放電されている。…私たちは、どうしたらいいのか分からず、その場に立ち尽くしてしまっていた。


「っ!?お前ら、何してるっ!?」

 その魔力を感知したのか、何か音を聞きつけたのか、先生はやってきた。


 それと同時に、魔法陣は弾け飛んだ。


 でも、私たちは無事だった。何か暖かいものに包まれて、それが守ってくれたようだった。


「いやぁーーーっ!!」

「……せん…せ…い?」


 その暖かいものは、先生だった。


 …動かない先生。

 血だらけの先生。

 手足がねじ曲がり、全身の血が全て出てしまったのではというほどの、無惨な姿の…先生。


 その奥には、闇が広がっていた。


「………人とはどうしてこう、愚かなのか」


 先生、闇の穴と続いて、その奥の扉のところに女の人が立っている。真っ黒なローブに身を包んだ女の人。


 いや、暗いから黒く見えているだけで、本当は紫に近い色だ。その女の人は、冷静にこちらを見ていた。


「……さようなら」

 女の人はそう言って、先生の体をその闇の中に落とした。すると、闇の穴は消え、そこはただの床しか見えない。


 …私たちはそれを傍観するしか無かった。


「じゃ、帰りますね」

 女の人はそれだけ言って帰って行った。


 先生の知り合いらしく、何度か会っている所を見た事もあった。彼女は【終焉の魔女】だと先生が言っていた。


 先生の死に全く興味を持たないその人に、私は怒りよりも恐怖を覚えた。




─────しばらくの間、私たちはそこに座り込んで呆然としていた。


「…これから、どうします?」

 沈黙を破ったのは、オリビアだった。真っ赤な床を見ながら、冷静な口調でそう言った。


「…わたくしは、わたくしのすべき事を致します。…貴女方は、貴女方のすべき事を、したい事をなさってください」


「分かった…。私は、もう行くよ。また会いましょう、妹たち…」

 ゲートは少ししたら、何かを決意したように、最低限の物を持って家を出て行った。


 …私は…どうしたらいい?…私はずっとここで生きていく気だったのに…今更、どうしろと?


 私は今日の、その数時間の出来事に、頭が追いついていなかった。私はまだ、幼かった。


 それでも、世界は私に決断を求めた。


 私はフラフラと、先生の執務室に立ち寄った。…いつもなら、笑顔で先生が迎えてくれる、暖かい部屋だったのに、今は酷く寒い。


 私は、見つけた。その部屋で、生きる意味を見つけた。


「オリビア姉様、私はやってやるわ。先生の望みを叶えるの…。それが、私の(つぐな)いであり、私の生きる理由よ」


 私は、この日、生まれ変わったの。

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