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始まりの地へ

 レイと暮らし始めて8年が経った。その間にも、あの女の事を忘れたことは無かった。


 忘れようとする度に、忘れそうになる度に、俺の中の何かが『忘れるな』というように、あの頃の夢を見せた。


 昨日、レイからハイルとあの女の話を少し聞いた。正直、内容はよく分からなかった。ただ、疑問が残った。


 あの女は、何がしたかったのだろう。


 同じ弟子を殺して、俺をこんな風にして、あんなにもあの女をイカレさせたのは何だろう。イカれてもなお、あの女が執着するものは何だろう。


 あの女には二度と関わりたくない。


 でも、俺は分かっていた。いつかは、あの女と向き合わないと、俺はいつまで経っても前に進めないのだと…。過去に囚われたままなのだと…。






───カチャ

 深夜3時、簡単に朝飯の用意をして、出かける準備をした。そして、レイの部屋の扉を開ける。


 レイの寝息が、規則正しく流れている。レイの布団に座り、レイの頭を撫でる。


「ありがとう、レイ。愛しているよ…いつまでも」

 その言葉と共に、レイの額にキスをした。


 起きていない時にするのは、少し卑怯な気がしたけど、今日は許して欲しい。


───キィーー

 ゆっくりと扉を開ける。古い木造の家だからか、相変わらず音が出る。


「行ってらっしゃい。大丈夫ですよ。あなたを縛るものなんて、この世には存在しないのだから」


 背後から声がした。


 振り返ると同時に、あの忌々しい首輪が、あの女につけられたあの女の所有物だという証が、首から落ちた。


「…っ…行ってきます」

 俺はそのまま家を出ていった。




─────俺は家を出て、その勢いのまま森を駆け下りた。まだ夜中で、視界が悪いが、俺の足が止まることは無かった。


 レイに作ってもらった手形を使って、街に入る。その頃には、辺りの空はだんだんと白んできていた。


 俺が目指すのはただ一つ。


 俺があの女と出会った場所。あの女に、俺がこんな風にされた場所。…もう随分と昔から使われていない教会。元々は避難施設だったのだろう地下へと足を踏み入れた。




───カンッ、カンッ、カンッ…。

 扉を開けて、冷たい地下へと歩みを進める。


───キィー

 最後の扉を開けると、悪夢のような、あの部屋が見える。…何も変わっていない。あの頃のまま。気味の悪い、嫌な部屋。


 少し、俺も成長したからか、昔より現実味を帯びたその部屋に寒気がする。


「あらぁ、やっと来たわね?待っていたのよ、ルーク」


 どこからか、何度も呪った女が現れた。少し老けたからか、やつれて見える。だが、それよりも。


「俺が来ると分かっていたのか?」


「もちろんよ。あなたの愛しのレイラ様から、教えていただいたのよ?うふふふふ」


「は?」


「あら、まだ気づいてないの?おバカな子。あの方は誰の味方にもならないのに、愛されていると?情を持たれていると?哀れね」


 意味がわからない。


「レイラ…その二つ名は【終焉(しゅうえん)の魔女】。彼女はこの世界で、何百年と生きている魔法使い。歴史上、最強かつ最悪の魔女。…ねぇ、あの方が一体何人を殺したか知ってる?私の比じゃないのわ」


 女は地下にある、自分の今までの研究してきたものたちを見回しながら語り続ける。


「私の目的は、亡きハイルの意志を継ぎ〝終焉の魔女を殺す事〟」


 意味が分からない。何一つとして。


 レイの過去。レイが口を閉ざし続けたこと。レイは常に一線を敷いていた。決して、俺には見せない面があることは分かっている。それを、無理に見ようとは思わなかった。


 知られたくないのだろうと、見ないようにしてきた。その過去が、気にならないと言えば嘘になる。でも、それはレイの口から聞きたい。レイが俺に話してもいいと思うまで、待ちたい。…一生、口を閉ざし続けたっていい。


 だから、それはいい。


「あの男は、そんな事をするようには見えなかったぞ」


 ハイルは、レイを殺そうなんて感じには見えなかった。寧ろ、頼っているような、慕っているような、親しげな雰囲気を感じた。


「そうでしょうねぇ。だってあれは、師匠じゃないもの」


「は?」


「私たちが消えた日、残された血は大人一人分。幼かった私たちなら、2人で大人一人分と考えたんでしょうけど違うわ。あれは、魔術師ハイル一人分の血よ」


 女は冷淡に、事も無げにそう言った。…じゃぁ、あれは誰だ。俺が見たあの男は、一体?


「その様子だと、レイラはあの嘘の話しかしていないのね?いいわぁ、昔話をしてあげる」

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