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傍観者

「調子に乗るなよ?」

 笑顔を浮かべたまま、私は悪意を込めて目の前の女に言いました。


 目の前にいるこの女は、ただの魔術によって作られた傀儡(かいらい)。どうせ操っているのは、魔術協会のジジイかババアでしょう。ま、正しく言うなら、私より年下なので、私的からすればガキですが…。


「…今回はここで帰らせていただきますが、あまり勝手をなさらぬように」

 それだけ言うと、ハイルに引き続き、その者たちも帰って行ってくれました。




 彼らが帰ったことに安堵すると同時に、私は気づいてしまいました。…隣にはルークがいるということに。


 あぁ…ルークの前では常に笑顔でいようと、優しい魔女であろうと心がけていたのに…失敗です。あいつらにイライラして、思わず素を出してしまいました。


「えーっとですね、今のは…何と言いますか…えっと…」


 あぁ、こんな時どう言えばいいのか、分かりません。こんなんだから…私は…誰にも愛されないんです…。


「ルーク…怖かったですか?」


「レイがいるから平気だよ?それより今のヤツら何だったの?」


 ルークは私の事は全く気にしていない様子です。…それが嬉しいような、悲しいような感じがしたのは何故でしょう。


「レイ?」

「あっ…すみません」


 ルークに顔を覗き込まれ、私は現実に戻されました。


「そうですね、話しておくべきでしょう…。魔術士ハイル、彼はあなたにその首輪をはめ、呪いをかけた魔術師の女の、師匠だった男です」


 隣で、驚きか、恐怖か、怒りか…複雑な顔をしたルークがいます。


 今日が、話すべき時なのでしょう。私は…ルークに構わず続けました。






─────今から約15年前、ハイルが23歳だった頃。彼は既に父親の爵位を譲り受け、表向きは伯爵として、裏では魔術師として活動していました。


 彼は魔術師としての才があり、成人と同時に魔術師として最高クラスの一人として数えられていました。


 そんな彼が23歳の時、自らの師である女に、3人の弟子を押し付けられました。


 親が魔術師だから子供も魔術師とは限りません。基本的に魔術は訓練で身につきますが、素質を一切持たない子供が産まれることもざらにあるのです。


 逆に、一般の家庭で魔術師としての素質を持つ子供が産まれることもあります。そういった子は、ほとんどが自分の力を知ることなく一生を終えますが、たまにその力を悪用しようとする魔術師がいます。


 それらの元に渡れば、国に波乱を招くのは間違いありません。


 なので、そういった子供は見つけ次第保護し、魔術を教えるか、そうでなくとも悪に走らぬように教育をするのが魔術協会の決まりです。


 ハイルの弟子も、普通の人間の元で産まれ、悪い魔術師に悪用されぬようにと、魔術協会に保護された者たちでした。


 真面目な少女、ゲート。

 勝気な少女、ディーナ。

 根暗な少女、セシオラ。


 3人はハイルにすぐに懐いて、魔術師としても素晴らしい腕前でした。


 ですが、3人が3人とも仲が良かった訳ではありませんでした。ただ、ハイルへの思いだけは、同じでした。


 親が居ない分、ハイルへの愛情が大きかったのでしょう。


 その思いゆえに、彼女らは日々努力し、ハイルの弟子として誇れる振る舞いを心掛ける、真摯な子たちでした。


 ですが、そんな平穏がいつまでも続くことはありません。前兆など何もなく、それは起こりました。


 曰く、ある日、家に帰ると血まみれの少女が暗闇の中に1人で立っていたと言います。そして、その子は口の周りと服を真っ赤にして、笑いかけてきたとか。


 そして、そのまま少女は闇に消えたそうです。

 この日、ハイルの屋敷から3人の弟子が消えました。


 残っていたのは大量の血と、何かの術を使った痕跡だけでした。大量の血は、人間の大人にして一人分。子供のものと考えれば、約二人分に満ちるか否かの量だったそうです。


 それが何を意味するのか、誰も口にはしませんでしたが、誰もが同じことを考えました。


 その日以来、奴は少女を探しています。小さな噂話を聞く度に、どこかへ出かけていきました。まさか、15年たった今でも、探していたとは思いませんでしたが…。






「ルーク、少し一気に話しすぎましたね。部屋で休んで、ちゃんと考えてみて下さい」

 私はルークを残して、自分の部屋へ帰りました。


 この契約も、もうすぐ終わる…。私は()()()()()です。()()()です。


 後は、あなたたちが決断するだけ。…私はそれに従います。

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