男の別れに見送りなんて野暮だろう?
前回のあらすじ
Bランク冒険家アレクに絡まれたことがきっかけで、ウェン達とハドは冒険家組合の中で窮地に立たされる。
そこに現れたのは、ある一人の男。
その名をウォルク。 この世界に10といないSランク冒険家だった。
彼のおかげで、騒ぎは鎮まり、
そして、彼の存在はある一人の冒険家の心に火をつけた。
その後、ウェン達は・・・。
※今回、設定の説明が多めです。
流し読みで結構ですので、お読みいただけると幸いです。
よろしくお願いします。
ほんっとに、ほんっとにお願いします。(懇願)
無事にパーティ脱退の手続きを終えたウェン達は、
このパーティで最後の冒険をするために高い壁で囲われた辺境の街の、外まで来ていた。
ハドはパーティを抜けてしまったので、一時的に行動を共にしているという体ではあるが、
これがつぎにパーティに再加入するときまでの、最後の冒険になることに違いなかった。
「やっぱ、壁の外は開放感がたまらねぇな!」
そう言って、ソルクは街を囲う高い壁を見やる。
この辺境の街では、危険な魔物が侵入しないように、
周囲を高い壁で囲ってはいるのだが、
少しでも街に魔物を近づけないために
また、周囲に一般的な冒険家では太刀打ちできないほどの危険な魔物がいないか調査することも兼ねて、
日頃から冒険家たちは多くの魔物を撃退していた。
冒険家の多くが日課として受けるような常設の依頼である。
賃金は、この街の税金で賄われており、
パーティランクや、冒険家ランクにより差はあれど、決して高い額とは言えない。
しかし、撃退した魔物の数や種類によって、追加報酬がもらえるので、
その報酬で冒険家としての生計を立てている者も多い。
「ハーちゃん!! いっくよぉ~!!」
リュナが黒狼と呼ばれる魔物を蹴飛ばし、高く宙に飛ばす。
先程まではすぐ隣にいたのに、
いつの間にか遠く離れた場所から助走をつけたその勢いで
魔物をハドのいる方へ蹴飛ばしたのだ。
相変わらず、でたらめなスピードだ。
リュナは、冒険家の中でもスピードがものすごく速い。
スピードだけなら、リュナにかなう人をハドを含め、ウェン達はこれまでに一度も見たことがない。
赤い髪が残像となって見えることから『紅い閃光』と呼ばれるリュナの攻撃は、
先程の冒険家組合での出来事において、アレクを壁に吹き飛ばした攻撃でもある。
ハドは、リュナが宙に蹴り飛ばした魔物に向かって走り出し、
刀を構え、魔物が落ちてくるタイミングに合わせ振りぬいた。
「やあぁぁぁー!!」
ハドの刀は、その魔物に触れると一瞬輝き、
魔物を真っ二つに引き裂いて絶命させた。
ウェンはその様子に、ひゅう、と口を鳴らし、
「相変わらずキレッキレだね。」
と言った。
「これも、みんなのサポートあってこそだよ。
ありがとう、みんな。」
ハドはこう答える。
「にしても、ほんとに強くなったよね、ハーくんは。」
ロゼは、過去を思い返しながら言う。
「ええ。最初はネズミ一匹倒せませんでしたから。」
ヴィーデがそれに同意する。
「今や、瞬間火力はこのパーティでも一番だからね、ハドは。」
ウェンが、まるで自分のことのように誇らしげにする。
「こんな風になれたのもみんなのおかげだよ。
このステータスの低さを、みんなが補ってくれたから...」
ハドのステータスは、おそらく全冒険家の中でも最も低いだろう。
それは、今も変わっていない。
そもそもステータスというのは、冒険家にとって非常に大切なもので、
強さの指標となるものだ。
冒険家組合には、ステータスを測ることのできる装置があり、
冒険家は皆、その装置を使って自分の強さを知る。
その装置は、水晶玉のような丸い球体で、
それに触れて、しばらく待つとその球体が光りだすのだ。
ステータスが高い方から、
高 > 赤→橙→黄→緑→青→藍→紫 > 低
となっていて、ハドは、この中でも最も低い、紫色に光るのだ。
この装置は、とても正確だといわれており、
実際ハドのステータスは、冒険家でない一般人にも劣る。
これほど低ければ、ネズミ一匹倒せないのも納得なのだ。
「みんなが補ってくれたから、ぼくの恩恵も強くなったんだと思う。」
ハドが、ネズミ一匹倒せないステータスで、あの黒狼を一撃で倒せたのは、
ひとえに彼の恩恵のおかげであった。
恩恵と言うのは、この世界の人間が物心つく頃に発現させるものである。
それは、感覚的なもので証明できるようなものではないが、
人の性格や個性が、ひとりひとり異なっているように、
恩恵も人それぞれ異なっているといわれている。
人が恩恵を発現させるのは、決まって幼い頃だが、
発現すれば何となく、自分の恩恵はこういうものだ、と感覚でわかるのだ。
それは、人間が自分という存在を認識したからだ、という説もある。
故に、恩恵はその人そのものであり、誰もが自分の恩恵を大切にするのだ。
「俺もハドに負けてられねぇぜ。」
ソルクが、腰に差した剣を抜き、黒狼を斬り伏せる。
「そういや、ハドは明日この街を発つんだったか?」
剣を腰に収めながら、ソルクはハドに問う。
「うん。ちょうど明日出発の護衛依頼があるんだ。
臨時護衛も受け付けていたからちょうど良いと思ってね。」
ハドは、冒険家組合にて、募集していた護衛依頼を思い浮かべる。
「臨時ってことは、既に正規の護衛は雇っているってことね。
それなら、あんまり給金出ないんじゃないの?」
ロゼが心配そうに言う。
「まあ、この際贅沢は言ってられないよ。」
ハドは苦笑しながらそう答える。
「で、でも...」
ロゼがそれでも心配そうな顔をしていると、
「まあ、その話はあとだね。
日が傾いてきた。そろそろ帰ろうか、皆。」
と、ウェンがそう提案する。
「そうね。
それに、今日はあれ、するんでしょう。」
ヴィーデがウェンに目配せをする。
「あれって何?」
ハドが訊ねるが、誰も何も答えず、にこっと笑うのみであった。
★☆★☆
「ハドの栄えある門出と、これからの飛躍を願ってぇ~」
「「「「「「かんぱ~い!!」」」」」」
日も暮れかかった街のはずれ、
古びた家の中で、ウェン達は夕食をしていた。
彼らは、あまり裕福ではなかったが、その食卓には、
非常に豪勢な料理が並んでいる。
「すごい...!! こんな豪華な夕食初めてだよ!」
ハドは、喜びの声をあげる。
ウェン達は、ハドとの最後の食事のために、色々と準備していたのだった。
「ありがとう、みんな。
ぼくのためにこんな...こんな豪華な料理をありがとう...。」
ハドがそう言うと、
「へっ、感極まるのはまだはやいぜ、ハド!!
さあ、いっぱい食えよ!! 今日はお前が主役だぜぇ!!」
とソルクがハドの肩に手を回す。
「うん。こんなにおいしい料理いくらだって食べられるよっ!!」
「はい、ハーくん。 あぁ~ん。」
「あっ! ロゼ姉ずるーい!! リュナも!!」
「あはは」
わいわい、がやがや、そうやって楽しい食事の時間は過ぎていった。
★☆★☆
その夜。
「ハド。
私達にはこれくらいのことしかできないが、喜んでくれると嬉しいよ。
君もそうかもしれないけど、私達も君には感謝しているんだ。
私達はいつでも君の味方だ。
これから、辛いことがあってもこれだけは忘れないでくれ。」
ウェンが皆を代表して言う。
というのも、他の皆は余程はしゃぎ疲れたのか、眠ってしまっているからだった。
そして、ウェンは懐から何かを取り出す。
「これは、燐光石でつくられた首飾りだ。」
ウェンはそう言って、包んでいる厚い布をほどいていく。
中から淡い幻想的な光を放つ翠の石のついた首飾りが姿を現す。
「これは旅のはなむけだ。 もちろん、私とおそろいだ。」
ウェンは首から下げた首飾りを見せる。
その首飾りにも同じような光を放つ燐光石がついていた。
同じ場所から採れた燐光石を二人が持つことには特別ない意味がある。
燐光石は、特殊な条件下で形成される。
その出来方が独特で、まるで鍾乳石のように
一方は天井から氷柱のように、
またもう一方は、地面から生えるようにできるのだ。
永い時を経て、その二つがつながることから、
いつかまた巡り合う約束を誓うものでもある。
「!
ウェン!! こんな高価なものを...。」
ハドは、びっくりしてウェンの顔を見る。
燐光石は、めったに採れず、また危険な場所にあることが多いため、
非常に高価なものであった。
「ハド。
君との約束は、こんなものじゃない。
これくらい、安いものさ。」
ウェンは微笑みながら言う。
「受け取ってくれるかな?」
ハドは、ひとつ大きく息を吸って、
「改めてここに誓うよ。
ぼくは、必ず戻る。 今よりずっと強くなって。
これは、その証として受け取るよ。」
強いまなざしでウェンに応える。
「ありがとう。
きっとそう言ってくれると信じていたよ。
そうだ、明日は早いんだったね。
男の別れに見送りは野暮だ。 明日は、遠慮なく立つといい。」
ウェンは少し寂し気な顔をしたが、いつもの笑みを浮かべると、
おやすみと言って部屋から出て行った。
★☆★☆
明くる朝早く、ハドはまとめていた荷物を持つと、泊まっていた古い家を出た。
このパーティで過ごした思い出が脳裏をよぎり、
溢れそうになる涙をこらえ、家に向かって深く頭を下げた。
「...ありがとうございました。」
しばらくそのまま頭を下げていたが、やがてくるっと踵を返し、前を向いて歩きだした。
その目には、一滴の涙もなく、希望と決意に満ち溢れていた。
★☆★☆
「いったか。」
家の陰からソルクが顔を出し、それに続いて次々とパーティメンバーが姿を現す。
「うわあぁぁん。 ハーちゃん...。」
そう言って泣いているのはリュナである。
「リュナ、みんな。
ハドのことは名残惜しいけど、大変なのは私達も一緒だよ。」
ウェンが皆にそう言うと、
「ええ、そうですね。
ハドの抜けた穴を埋めるのは並大抵のことではありません。」
ヴィーデも同意する。
「だな。
ハドに負けないように俺たちもがんばらねぇと。」
ソルクも自分に発破をかける。
「ハドがいない間に、弱くなったなんて思わせたりしないんだから!!」
「リュナもーーー!!」
ロゼもリュナも気合は十分のようだ。
「よし、私達はここから始まる!!
さあ、いくぞっ!!」
「「「「おぉーーー!!!」」」」
織華といいます。
執筆経験はありません。
拙い文章、拙い構成をお許しください。
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