溢れる涙はとめどなく
前回のあらすじ
冒険家組合長にたっぷりと絞られたウェンたち。
奮起して、ギルドの依頼をこなすため、冒険家組合をあとにする。
一方そのころ、冒険家組合では...。
ウェン達は、冒険家としての依頼を済ませ、冒険家組合へ帰還した。
「今回も皆よく頑張ったね。お疲れ様。」
「へっ、このくらい屁でも無ぇ...。
ん?...なんだこの視線。」
ウェン達が冒険家組合の中へ入ると、周りが一瞬静まり、その後ざわついた。
チラチラとこちらをうかがい、ひそひそと何かを噂しているようだ。
「なんだか、嫌な空気ね。」
それは、初めて冒険家組合を訪れた時のような、珍しいものを見るような好奇の視線。
また、嫌なものでも見たかのような嫌悪の視線。
あるいは、哀れみや蔑みを含んだ、侮蔑の視線。
「てめぇら、リュナたちにな...ふごご」
「はいはい、リュナはすぐに突っかからない。
あんなのは無視よ。無視が一番。」
暴走しかけたリュナを、すかさずロゼが止める。
「うんうん。そうだね。
それにしても、今までこんなことはなかったのに、不思議だね。」
とウェンが言うと、
「ああ、誰かの陰謀を感じるな。」
と、ソルクが同意する。
実は、ソルクの予想は当たっていた。
時は一刻ほど前に遡る。
先程、ウェンのパーティともめた冒険家組合職員ケルヴィンは、
冒険家組合長である、ブロワと、ウェン達が出かけたのを確認したのち、
冒険家組合のロビーにいる、冒険家たちに向けて声を張り上げたのだ。
「皆さん、先程は、ご迷惑をおかけし、申し訳ございませんでした。
実は、先程の騒動は、わたくしの一言が原因なのです。
ですが、これも彼らを思うが故の行動でございました。
実は、彼らのパーティメンバーは、冒険家ランクがすでにBランクの者もおり、
パーティとしても優秀なのです。
しかし、ずっとEランクのままパーティに寄生している者がおり、パーティランクも上がらないのです。
考えてください。
皆さんと同じ冒険家を名乗りながら、優秀なメンバーのいるパーティに寄生し、
同じだけの稼ぎを得て、のうのうと過ごしているのです。
同じ冒険家として許せなくはないですか。
そこで、皆さんにお願いがあるのです。
私は、彼らを救おうと、できる限りのことを致しましたが、
結果はご覧の通りです。
力のない冒険家に引導を渡してあげるのも我々の務めではありませんか?
皆さんのお力で、あのパーティを救ってはいただけないでしょうか?
何卒、よろしくお願い致します!!」
と、彼に似合わない熱弁を披露したのであった。
もちろん、彼にそんな熱い思いはなく、Eランクのハドさえ追い出せればそれでよいのだが、
彼のそんな思惑など誰も知ろうはずはない。
ケルヴィンの熱弁を聞いた冒険者たちは、
(なんてやつだ、冒険家の風上にもおけねえ。)
(しかし、Bランク冒険家か。絡むには少し躊躇するな。)
などと、ささやかれた。
それが、今の状況である。
結局、その日は、誰もウェン達に絡んでいくことはなかった。
Bランクの冒険家ともなると、この辺境の町では数人しかおらず、
さすがに、けんかを売りに行くのは腰が引けるのだ。
「腰抜けどもめっ!!」
ケルヴィンがそうひとりごちたのは、言うまでもない。
★☆★☆
しかし、数日経って、事態はウェンたちにとって悪い方向へ進んでいった。
ケルヴィンの熱弁の内容は、噂となって街中に広まり、
冒険家組合の中ではもちろん、酒場や街中でも、絡まれるようになった。
絡まれている様子は、町中で見かけられ、その内容である、噂は瞬く間に広がった。
そう、『Eランクの冒険家がパーティに寄生している』という噂だ。
相手が冒険家ならばまだ良い。
一般人となると、危害を加えようものなら、パーティの評価は地に落ちる。
石を投げつけられ、罵詈雑言を浴びせられても、反抗できず、逃げ出すことしかできなかった。
噂は、冒険家組合に依頼を出している依頼人や、資金の援助をしている権力者のもとにも届き、
やがて、パーティへの嫌がらせへと発展した。
名指しで、嫌な依頼を頼まれたり、報酬をケチられたりはまだ序の口、
依頼そのものが受けられないようなことさえあった。
★☆★☆
それから数日後の夜。
宿泊していた宿すら追い出され、満足に休みも取れなくなったメンバーたちに、
ハドが呼びかける。
まるで、今にも泣きだしそうな、か細い声だった。
「まずはごめんね。
こんなことを言ってもみんなは受け入れてくれないだろうけど、
迷惑かけて本当にごめんね。」
そう、みんなに伝える。
「わかっているんなら、いうんじゃねェよ。
俺たちはちっともお前を迷惑だなんておもっちゃいねェ。」
とソルク。
「そうよ。ハーくん。
あなたは悪くないわ。」
とロゼ。
「ハーちゃんをいじめたことあの世まで後悔させてやるぅ。」
とぎりぎり歯ぎしりしながら、リュナが言う。
「ハド。気にすることはないよ。
もうこの街を出ようって決めてるんだ。大丈夫。みんながいるから。」
とウェンが慰める。
「そうね。まったくひどい街でした。
はやく、次の拠点へ移りたいわ。」
とヴィーデが言う。
その優しい言葉の数々にハドの目から大粒の涙が零れ落ちる。
ひっくひっくとしゃくりあげながら、必死に言葉を紡ぎだす。
「あり...っく、がとう...っく。
っく、でも...っく、だめなんだ...っく。
きっと、他の街に...っく、移っても...っく、おなじことが...っく、おきるよ...っく。」
リュナ以外はそれもわかっていたようで、
無言でうつむく。
「でもよォ。どのみち、この街にはいられねェ。」
とソルクが言うと、
「ああ。」「ええ。」「そうね。」
とそれぞれ同意する。
「それじゃあ...っく、だめ...っく、なんだよ...っくぅ。
ぼくは...っく、ぼくは...っく、うっく...。」
ハドは、しゃっくりを必死でのみこみ、顔をあげて、
「このパーティを...、抜けるよ。」
と強いまなざしで言い切る。
「だめよ。ハーくん。
このパーティにはあなたが必要なの。」
「ハーちゃん!!ダメッ!!
それはダメなのっ!! リュナは絶対に認めないのっ!!」
リュナがたまらず、ハドに抱き着く。
ハドもこんなにも慕ってくれるリュナに、抑えていた涙をまた溢れさせながら、
「リュナ、っく、ありがとう...っく。
でもね...っく。ぼくは...っく、もうこれ以上...っく
みんなの...っく、辛そうな顔は...っく、見たくないんだ...っく。
それに...。」
ハドはそこでいったん、呼吸を整えると、
「みんなは、本当にぼくなしじゃ、やっていけないの?
そんなにだめなの?」
と煽るように尋ねる。
「...おい。どういう意味だ?」
ソルクがその鋭い目を細める。
「そのままの意味だよ。
ぼくなしじゃなにもできないようなパーティなの?
って聞いてるんだ。」
ソルクは立ち上がり、ハドたちに背を向けると、肩を震わせ、
「なわけねェだろバカやろォ!!」
と叫んだ。
「ああ。その通りだよ。ハド。
私たちは、やっていける。君がいなくても。」
とウェンも言うと、
「ちょっとぉ。私は無理よ。
このパーティにハドなしなんて考えられない。」
と言うのはロゼである。
「ロゼ、察しが悪いですよ。
ここまでハドに啖呵を切らせておいて、私たちも応えてあげないと。」
すると背を向けて肩を震わせていたソルクがこちらを振り向くと、
「おい、それ言っちまうかフツー!!」
とすこし、赤くなった目で怒鳴る。
「あはは。ソルクは演技がヘタだね。」
とウェンが笑う。
「おい、笑うなっ!! 必死だったんだ、こっちはっ!!」
わはは、とみんなの笑い声が響く。
そして、ハドに抱き着いていたリュナは、
「リュナもムリだよぉ~。
ロゼ姉とヴィーちゃんはかわいいけど、
ソルクは陰険だし、ウェンは優男だし。
ハーちゃんがいないと、リュナはムリだよぉ~。」
すると、
「誰が陰険だコラァ!!」
ソルクが食って掛かる。
ウェンは、
「優男は悪口ではなくないか...」
と独り言。
そうして、みんなで笑いあった後、
「ハド。
君の覚悟は確かに受け取ったよ。
君にそこまで言わせておいて、私たちもそれを止めることはできない。
本当は、まだまだ一緒にやっていきたいけどね。
パーティを抜けるといっても、今生の別れじゃない。
困ったことがあったらいつでも頼ってくれ。」
とウェンが言う。
「うん。ありがとう。
本当にありがとう。
ウェン達も、パーティランクも上げて、もっともっと強くなってね。」
と泣きはらした目でハドが応える。
「ハド。
俺たちは先に行くぜ。
お前の言う通り、ランクも上がる。
お前も、強くなって、いつかまた俺たちと一緒に冒険しようぜ。
それまでお前の席は空けといてやるからよ。」
とソルク。
「うん。待ってて。
きっと、追いついて見せるから。
ソルクも腕を上げておいてね。」
「へっ、誰に向かって言ってやがる。任せろ。」
ハドとソルクはがっしり手を交わす。
「ハーちゃん!!」
リュナがハドの胸に突進する。
「リュナね、強くなる!
今よりもずっとずっとずっと、強くなるからね…
ハーちゃん、ハーちゃん、ハーちゃん…
やだよ…やだけど…
…ハーちゃんのジャマはしないの。
だからね、約束。
また、いっしょに冒険しようね。」
その瞳からは、涙が溢れそうになっていて、
また、ハドは涙が出そうになったが、ぐっとこらえ、
「うん。約束だ。
きっと、また一緒に冒険しよう。」
それ以上の言葉は出てこなかった。
けれども、それ以上の言葉はいらなかった。
ふたりは、お互いの目を見て、
お互いを感じあって、また一緒に冒険出来ることを確信していた。
「はいはい、もういいでしょ。」
そう言って、リュナを引き剥がしたのは、ロゼだった。
「ハーくん、言いたいことがあったんだけど、
忘れちゃった。」
てへ、と可愛らしい仕草で笑うと、
「次戻って来たら思い出してる気がするから、
きっと戻ってきてね。絶対だよ〜。」
クスッと笑いながら、手を振る。
「うん。
ロゼ、ぼくも言いたいことがあった気がするけど、
次戻った時に言うよ。」
とハドが言うと、
「え〜!?
なになに、気になるぅ〜。教えて〜。お願い!!」
そう言ってハドに近づくロゼをヴィーデが抑え、
「ハド、元気で。
私達のことなら心配無用です。
あと、ロゼが伝えたいことは、
ハド、君のことが、すんむむ…」
後ろから、ロゼが物凄い勢いでヴィーデをつかみ、口を抑えたのであった。
そうしてハドは、この日、パーティを抜けた。
織華といいます。
執筆経験はありません。
拙い文章、拙い構成をお許しください。
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よろしくお願い致します。