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ようやく会えた

「井戸から水も運べないなんて!この役立たず!お前みたいな呪われた子がいるから家族が不幸になるんだ!」


井戸から水を運んでいる途中によろけて転んでしまった私を見て、母は、怒鳴りながら何度も私を殴りつけた。


ーごめんなさい。...お母さん。また、怒らせてごめんなさい...。役立たずでごめんなさい...。いい子にするから...


泣いたり口答えすると暴力がひどくなるので私はギュッと唇を噛み、目を強く閉じ涙をこらえまるで物にでもなったようにひたすら耐えてやり過ごす。


「お前が生まれてこなければみんな幸せだったのに!」


ゴンっという鈍い音と共に、頭にとんでもない衝撃を受け、私の視界は真っ暗になった。


ーお母さん、今日、私誕生日だったんだよ...




次に目を覚ますと私は真っ暗な物置小屋で1人冷たい床にうずくまっていた。


寒さの厳しいこの時期に、肌着一枚で小屋に放置された私は、寒さと熱から来る悪寒でガタガタと震えが止まらなかった。


今日、私は誕生日だった。

もしかしたら誕生日ぐらいは優しくしてくれるかもと本当に少しだけの期待をしていたが母親からの暴力はいつもより酷いものだった。今日もご飯を食べられなかったのでまるで2日何も食べていない。


私は、体が痛いのも、お腹が空いているのも、真っ暗な物置小屋にも1人でいるのも慣れているから大丈夫だと自分に言い聞かせるが少しでも期待してしまった分悲しい気持ちは抑えられず涙が溢れてくる。


「私が、いい子にできないから…ごめんなさい...お母さん...」


私サーシャ・バーレンには、母と弟が1人いる。

一年前までは、父もいてどこにでもいる仲のいい普通の家族で、弟とも仲が良く父も母も私を可愛がってくれていた。


そんな普通の幸せが壊れたのは本当にある日突然だった。

家族はなぜか私を「呪われた子」だと言い、父は「お前といると不幸になる。お前は呪われた子だ」と私を冷たく睨みつけ家を出ていった。母は「お前のせいだ!お前が呪われているせいで私が、家族が不幸になる!」と狂ったように私を詰り暴力を振るうようになった。


突然の家族の変化に私は戸惑い、きっとこれは夢なんだ、夢から醒めたら優しい父と母が戻っているはずだから。と涙をこらえ自分に言い聞かせたが何度目を覚ましても優しい父と母は戻ってこなかった。


ー神様は意地悪だ。こんなふうに突然、愛情を取り上げるなら初めから愛情なんて知らない方が良かった。知らなければ期待して泣くことなんてなかったはずなのに・・・


涙を流す私の頬にふとキラキラと銀色の淡い光が近づいてきた。風の精霊だ。

私の暮らすインベルディア王国には精霊が存在している。全ての国民が精霊と契約し、精霊の力を借り国を豊かにし近隣諸国や魔族から国を守っている。


精霊は、私の涙を拭い慰める様に頬の周りをふわふわと飛んでいる。普通の人には契約前の実態のない光だけの精霊は見えないのだが、私には小さい頃から精霊の光を見ることができた。


初めて両親に話した時、信じてもらえずに困った顔をされたのでそれ以来、この事は誰にも言っていない。昔はなぜ自分だけに見えるのか、精霊が見えるせいで両親は変になってしまったのかと考え嫌な気持ちになったが、今となっては私の話し相手も慰めてくれるのも実態のない精霊しかいない。

私は、痛みで力の入らない身体でボソボソと精霊に話しかける。


「...慰めて...くれるの?...でも...大丈夫。...きっと今日も...楽しくて...幸せな...夢が見れる...はずだから」


私は、よく夢を見る。

私の見る夢は色々な時代や国で生きていく私が主人公の私だけの物語。私のお気に入りの夢は"ニホン"という国でピアノという楽器を弾いて暮らす夢だ。ピアノや他の楽器を弾く夢は他の夢でもよく見るが"ニホン"という国はご飯が美味しくて娯楽がたくさんあり、すごく楽しい。どの時代の夢も私を楽しませてくれるが最後は必ず悲しい死が待っている。夢の中なのにどの時代の私も長生きは出来ず若くして死んでしまうのだ。


その中でも1番悲しい死だと感じるのが今、私が暮らしているインベルディア王国が舞台の夢で、今よりずっと古い時代の話だ。


聖女と呼ばれている私が苦難の中、精霊王と出会い助け合いながら共に戦い恋をするが、幸せを手に入れたと思った矢先、信じていた側近に裏切られ殺されてしまう。聖女が殺されたときの精霊王の顔を見るのはとても悲しく、心臓がギューっと締め付けられる様に苦しくなる。それと同時に私は大切に思われている聖女を少し羨ましく思うのだ。


「ねえ...風の...精霊さん。...私にも精霊王...イクルド様の...ような方が...いつか...現れるの...かな…」


今の生活では出会うより先に死んでしまいそうねと1人考え、なぜか笑いがこみ上げてきた。


「...私ね、次に...生まれ変わったら...ピアノを弾いてみたいの...すごく楽しそうだから...。それでね、平穏で...幸せで...長生き出来る様に...生きたいの...」


私にとって死というものは怖いものではなく希望ではないのかと感じる。


なんだか、とても眠たくなり目を閉じる。


そういえば"ニホン"の夢では雪山なんかに遭難した時「寝たら死ぬ」という言葉を聞いた。


ー私も寝てしまったら、死んでしまうのかな?

目が覚めたら、次の人生が始まってるかな?


そんな事を考えながら眠気に身を任せる。


その時、真っ暗なはずの小屋がいきなり眩い光に包まれる。


びっくりして目を開けると小屋が七色の光に包まれており、その光の中に男の人が立っていた。


突然のことで、何が起こったかわからない私に男が近づいてくる。とっさに逃げようとしたが痛む身体はいう事を聞いてくれず、小さな呻きを発しただけに終わった。


男は慌てたように「動こうとするでない!」と言い、私に駆け寄り、私の身体を優しく抱き起こした。


その男は透けるような綺麗な銀髪をしており夢で出てる精霊王・イクルドにそっくりな青年であった。そして青年は夢の中のイクルドと同じように顔を悲しそうに歪めて私を見下ろしていた。


ー綺麗な人...。イクルド様にそっくり。きっともう夢の中なのね


そう考えて、もう一度目を閉じるとユサユサと身体を小さく揺さぶられた。


「め、目を閉じるでない。しっかりしろ!死んではならぬ!」


夢の世界ではありえない身体の痛みを感じゆっくりと目を開けるとやはりそこにはイクルドと似た青年がおり、私を抱き起こしていた。


「...夢...?...現実...?」


「現実だ。私はそなたを守るためここにきた」


「私を...守るため...?」


「そうだ、そなたを守るため、生まれた時よりそなたを探していた。そなたが私の名を呼ぶことでようやく見つけ出せたのだ」


「...名前?」


「そなたは、イクルドとそう言葉にしたであろう?」


「...イクルド様...?」


私は驚きで目を見開きイクルドと名乗った青年を見た。


ーだって、あれは夢で...。えっ...?でも、現実で...?


混乱で言葉が出てこず、ただただイクルドを見つめていると、イクルドは「遅くなってすまない」と優しい手つきで私の顔にかかった髪の毛を払い頭を撫でてくれた。


久々の人の温もりと優しさに心が暖かくなり目からはポロポロと大粒の涙がこぼれた。


イクルドは、焦ったようにワタワタしながら私の涙を優しく拭ってくれた。


「な、なぜ泣くのか?何が嫌なことでもしてしまったか?」


「っ...ふっ....ごめ...んっ...なさい。...ちが...っ...ちがうんです...」


私は泣きすぎて呼吸が苦しくなる中、「家族が突然豹変してどうしたらいいかわからない」、「毎日寂しくて悲しい」と今まで口に出せず心に溜めていたものを涙と共に吐き出した。


イクルドは私を七色の光で包みながら何も言わず私の言葉を聞き、ときおりよく頑張ったと言わんばかりにわたしの頭を優しく撫でた。

光に包まれていると、痛みがスーッと引いていき、その優しさにまた涙が溢れた。


「他に身体が痛むところはないか?」


私は喋ることが出来ずコクコクと頷く。


あまりに、私の涙が止まらないことにイクルドは「このままでは身体の水分がなくなってしまう」と真剣な顔で心配し始めた。


「そうだ、今日はそなたの誕生日であろう?プレゼントを持ってきたのだった」


喜んでくれるといいのだが、とイクルドが後ろに目線をやると、男が1人でてきてイクルドにそっと何かを手渡した。


黒髪短髪でキリッとしているが少年のような幼さの残るその男を私がじっと見つめていることにイクルドは気づき


「この男は、私の部下であり友人の火の精霊・カレメルアの名を持つものだ」


「ゆ、友人など、一家臣の私には勿体なきお言葉です」


「お前は、真面目すぎるのだ。私が友人と思っているのだから良いではないか」


まだ、恐れ多いとワタワタしているカレメルアを横目にイクルドは、有無も言わせぬ笑顔でもう一度「友人だ」と私に紹介した。


カレメルアもこれ以上言っても意味がないと悟ったのか言葉をグッと飲み込み後ろに下がった。


「4歳のお誕生日おめでとうサーシャ」


イクルドは、そう言うと私の前に小さなウサギのぬいぐるみを差し出した。


「今年もそなたを見つけられるか分からなかったのだが渡せてよかった。精霊の森のみんなで作ったものだ」


「精霊さん達と...?」


「喜んでくれたか?」


「っ...ふっ...ぅ...うれしい...っ...です...」


本当に嬉しい気持ちから止まっていたはずの涙がまた、ポロポロこぼれ落ちる。


イクルドはプレゼントのウサギのぬいぐるみを抱きしめている私ごと優しく抱きしめ涙が出て止まるのを待ってくれた。


ーグゥゥ


赤ちゃんのように泣きじゃくり、ようやく落ち着いてきたところで空腹を思い出させるように腹の虫が鳴った。


私は恥ずかしくなりイクルドの服をギューっと掴み胸に顔を埋めた。イクルドはそんな私の頭を優しく撫でて「少し待っていてくれ」と後ろにいるであろうカレメルア呼んだ。


カレメルアは、「御意」と言うとカレメルアの近くで赤い光がホワッと舞った後、赤い毛並みのキツネのような動物が包紙のようなものを持って現れた。


キツネのような動物は、私のイクルドのそばまでやってくると加えた包紙を床に置き「クゥン」と小さく鳴いた。


イクルドは、ありがとうとキツネの頭を撫でると気持ち良さそうな声でもう一度鳴くと今度は私の方へやってきて頭を身体にグリグリと押し付けてきた。


「クスッ。この子の名前はベティ。メルアベディシアと言う火の眷属の霊獣で、カレメルアの契約霊獣だよ。」


私は、恐る恐るキツネのような霊獣・メルアベディシアのベティの身体に触れた。

ベティは、私が触れたことを喜ぶようにもっともっとと身体を寄せてきた。

私は、初めて感じるもふもふの毛並みに感動しながら抱きしめるように身体を撫でた。


イクルドはもふもふに感動する私と私のことをペロペロ舐めて嬉しそうに身体を撫でられているベティを見つめ微笑んだ。


「フッ。精霊はみんなそなたのことが大好きだからね」


「私の事を...ですか...?」


「そうだよ。でも、詳しい話が聞きたいならまた、今度ね。...さぁ、ちゃんとした食事は用意できなかったけど食べて!」


イクルドは、ベティが持ってきた包みを開け中に入っていたきのみや果物を私に食べるように促す。


「あの、この果物って?」


「珍しいかい?これはね精霊の森にのみ育つイーベリーと言う果物だよ。甘酸っぱくて美味しいよ」


この果物は夢の中で見たことがあるイチゴという果物に似ている。夢の中なので実際の味は分からないが夢の中の私はこのイチゴが大好きだった。


よく見ると包の中は、夢の中で見たことのある果物やきのみがいくつかある。その中からイーベリーと言う果物に手を伸ばすし口に運ぶ。


「おいしい...」


甘酸っぱくてみずみずしくて、なんで美味しんだろうと感動した。その他の果物もきのみも今まで食べたどの食べ物よりも美味しく感じ、久々にきちんとした食事をしたように感じた。


久々にお腹が満たされ、ウトウトとしていると私を呼ぶイクルドの優しい声がして慌てて起きる。


「ソフィア。今日は疲れただろうもうお休み」


この夢のような時間が終わってしまう。私は、イクルドの服を離したくなくてギューっと握りしめる。

イクルドは、私をギューっと抱きしめ優しい声で問うてきた。


「ソフィア。もしそなたが今のこの生活を嫌で家族と離れて暮らす選択をするなら、私は今すぐにでも精霊の森で君を保護する準備は出来ている。ソフィアはどうしたい?」


一緒にくるかい?とイクルドに問われ瞬間的に頷きそうになった。


「...なんでそこまでしてくれるんですか?」


イクルドは、少し困ったような寂しそうな目を私に向けた。


「私は、イクルド様を夢で見たことがあります。それに関係してますか?」


「...夢...そうか...」


イクルドは、懐かしがるように目を細め噛み締めるように何かを呟いた。


「...そなたを守るために来たと言ったことは本当だ。それに精霊はそなたのことが大好だからな」


夢については、何故かそれ以上触れることが出来なかった。

そしてやっぱり何故私を守りたいのか分からなかったがそれ以上聞くことが出来ずうつむいてしまった。

本当はイクルドと行きたいと思う。今日初めて会ったのに切ないぐらいに離れ難く感じた。


ーイクルド様と離れたくない...。でも、もし家族のように突然嫌われたら?...私が本当に呪いの子で人を不幸にしてしまうなら?


考えれば考えるほどイクルドについていくことが怖くなった。私は傷つくのが怖くてイクルドの手を取ることが出来なかった。


「ソフィア、私は明日もそなたに会いに来よう」


「絶対?」


「あぁ、絶対だ。約束しよう」


「約束?...約束ね!絶対ね!」


約束と言う言葉が嬉しくなり私は自然に顔が笑顔になる。私の顔を見たイクルドが目をみはりまじまじと私を見つめている。

少し子供っぽい反応をしたかと恥ずかしくなったが、イクルドは、夢の中にも無いような満面の笑みで必ずと約束してくれた。


イクルド達が帰った後、"ムー"名付けた誕生日プレゼントのウサギのぬいぐるみをギュッと抱きしめた。

寒くて暗い小屋の中なのに何故かポカポカと暖かくて心が満たされている。


私はウトウトしながら帰り際にイクルドとした約束事を思い返す。


ーえっと...イクルド達と会ったことは誰にも言わない。...ムーは、誰にも見えない魔法が掛かっているから肌身離さず持ち歩くこと。えーと...あとは...いちばん大切な......






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