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第6話 一回目の追放会議

 特別棟の二階にあるディスカッション・ルームでは、S組の生徒二十人が円を描くように座っていた。


 これから人狼ゲームで最も重要な追放会議が始まるわけだが、もうすでに一人目の追放者は決まっていた。


 カードを引く際に、お喋りの千葉くんが『人狼』であることを自白したからである。


 人狼ゲームでは一日目に『人狼』を騙るメリットはゼロなので、フェイク・カミングアウトの可能性はない。


 ただし、千葉くんを最序盤で追放していいのか、という問題がある。彼は主犯じゃないとしても、共犯者なのは確実なので、事件について知ってることを全て吐かせる必要があるからだ。


 その方向で会議を進めないといけないのだが、他の人は裏設定を知らないので、そこで僕が主犯を見つけるまで生かしておこうと主張するわけにもいかず、正体がバレないように黙っていなければならないというのが、現在の状況だ。


 電気椅子に座らされているようなものなので誰一人として正常な状態とはいえないのだが、そんな中でも議長を務める小石川くんは普段通りに話し合いを始めるのだった。


「これが白昼夢で、この場にいる全員が同じ夢を見させられているとして、いつかその夢が醒めたとしても、僕は良かったと思っている。なぜなら鎌田くんは自殺ではなく、誰かに殺されるところだったと知ることができたからだ」


 小石川くんは、同性の僕から見てもカッコイイ男だ。そんな彼が僕のことを思ってくれているのだから感動しないはずがない。それでも正体がバレるといけないので、無表情を装いながら話の続きに耳を傾けた。


「こんなことが起きなければ、鎌田くんの無念を晴らすことはできなかったと思うんだ。だからそういう意味でも、僕たちはこの状況を歓迎すべきではないだろうか?」


 そこでクラスメイトと一人ずつ目を合わせていくのだった。視線を一周させたところで、お喋りの千葉くんを見る。


「しかも僕たちは、すでに『人狼』の一人を発見している。自分たちの手を血で汚すことなく、投票するだけで制裁できるのだから、これ以上のシチュエーションはない」


 千葉くんが納得していない。


「それって俺のことを言ってるんだと思うんだけど、俺は鎌田を殺そうとしたことはないぞ? そんな俺が『人狼』ってオカシイだろう?」


 小石川くんが尋ねる。


「『人狼』であることは認めるんだな?」

「いや、認めた覚えはない」


 ゲーム自体を受け入れられないのだろう。

 小石川くんが冷静に説明する。


「千葉くんが他の人に投票したとしても、僕は君に投票する。残り十八票の内、半分の人が千葉くんに投票してしまえば、そこで追放が決まるんだ。いくら否定したって、残りの時間内で説得できなければ意味がないんだから、無関係であることを自分の口で証明したらいい」


 やはり予想した通りの展開だが、裏設定を知らなければ、こうなるのは必然か。


 でも、ここで誘導したら『人狼モドキ』に目をつけられるので、今は黙っているしかなかった。全員が千葉くんを見ているので、僕も真似をした。


 その千葉くんは床を見て考えているが、首を振って、両の手の平を広げて顔をパチパチと叩くのだった。


「証明しろといわれても、やってないものはやってないんだよな」


 そう言ったきり、申し開きしようとはしないのだった。ということは、本当に身に覚えがないのかもしれない。


 自分の行動が犯行計画の一部だと結びつかないのだ。表情を見ると、主犯が誰か本当に分かってなさそうだ。でも『人狼』なのだから、何かはしているはずである。


 主犯に脅されている?

 だから暴露できない?


 主犯を知らないなら、生かしておく意味はないが、どのように犯行に関わったのかは知っておきたい。しかし、そこは小石川くんも尋ねようとしなかった。他の人も口を固く閉ざしている。


 それも当然の話だ。目立っても、いいことは何もないからだ。このゲームは僕と主犯のサシ勝負。どちらが先に相手の正体を見破るかだ。


 だから『人狼モドキ』も目立ってまで動く必要はないのである。話し合いの場が膠着するのは予想できていた。


 そして、早くもフェイクである表の設定に疑問を持つ人が現れた。妹系の古橋さんである。


「このゲームだけど、おかしくない?」

「何が?」


 話を受けたのは、隣に座るモデル系の本庄さん。


「『人狼』は三人いるのに、一回の投票で追放できるのは一人だよね? ということは、夜のターンで必ず襲撃されちゃうってことでしょう? どうして事件に関係のない私たちが『人狼』の襲撃を黙って受けないといけないの?」


 『人狼』が殺せるのは僕だけなので、そんな心配をする必要はないのだが、教えてあげることはできなかった。


 本庄さんが立てた人差し指に顎を置く。


「ホントだね。襲撃を受けるリスクがない分だけ、『人狼』の方が得をしているように感じる」

「『人狼』が三人いるということは、ストレートで当てたとしても、その間に二回も襲撃を受けないといけないんだよ?」

「一応、騎士はいるみたいだけど」

「いても、守ってくれないと意味がないよ」


 駄々っ子のように振る舞うものだから、それが目的かと思ってしまった。でも、それが古橋さんの本能だとして、騎士に守ってもらいたいとアピールするということは『人狼モドキ』ではないということか。


 本庄さんも村人側として自然な会話をしていたので『人狼モドキ』ではなさそうだ。委員長の小石川くんも被害者である僕の味方として千葉くんを糾弾してくれたのでシロだと思う。


 その三人と千葉くんを除けば、早くも十五人に絞られた。その十五人の中に主犯がいるはずだ。一方で、その主犯である『人狼モドキ』はどのように考えているだろうか?


 村人アピールをしている小石川くんや古橋さんの方が怪しいと感じるかもしれない。ただし、委員長が『村長』というのは当たり前すぎるので、疑ってくれるかどうかは分からないところだ。


 とはいえ、そんなことを考えるまでもなく、このゲームは僕の方が圧倒的に有利だという事実がある。敵は十七人の中から無作為に選ばれた『村長』を見つけなければならないが、こちらは事件と関係ない者を選択肢から排除できるからだ。


 事件当日、アリバイが証明できる者だけでも積極的に発言してくれたらと願うが、事件に触れる者すら出てこない。


 それよりも僕の記憶が戻れば一発で解決できるのだろうが、事件当日の記憶だけが、どうしても思い出せなかった。


 どういう状況で転落させられたのかも憶えていない。事件を調べなくても、記憶が戻れば犯人が分かるのに、だから、すごく、もどかしい状態だ。


 そんな中、沈黙を破る者がいた。


 知的メガネの武藤さんだ。表設定では損しかしない状況で積極的に発言してくれるのだから、彼女の正義感は本物だ。


「この中にいるであろう、未遂犯に聞きたいんだけど、『私がやりました』って、自首する気はないの?」


 そこで視線を一周させるが、名乗り上げる者はいなかった。武藤さんには予想した通りだったのか、表情を変えずに続ける。


「自首してくれたら留置所か鑑別所に送られるわけだから、そこでゲーム続行不可で終わる可能性もあるのに、名乗り出ないということは、私たちを助ける意思はないということね」


 裏設定があるので犯人が名乗り出るはずがない。だけど武藤さんは知らないので自首を勧めるのは当然だ。まるで刑事のように説得を続ける。


「鎌田くんは死んでいないから、正直になればまだ人生はやり直せると思う。だけど自首をせずにゲームを続行して、もしも私たちの身に何か起これば、それは明確な悪意の元で意思決定がなされたということになるわけだから、もう後戻りはできないよ?」


 武藤さんが全員に呼び掛ける。


「『人狼』のカードを引いた残り二人の人に言いたい。これは私たちではなく、あなたたちが試されてるんだよ。あなたたちが投降すれば、そこでゲームを終わらせることができる。だから、お願いだから、名乗り出てほしい」


 武藤さんが必死に訴えかけるも、自首する者は現れなかった。当然の結果だが、僕としても神妙な顔をして深刻ぶるしかなかった。


 武藤さんが生贄になることはないだろうが、もしも票が集まったら助けるとしよう。流石に武藤さんが主犯ということもないだろう。札幌の高校生にそんな芝居ができるはずがない。


 これで残り十四人になった。

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