第33話 村長
目を覚ますと病院のベッドにいて、隣には僕の手を握ってくれている好きな人の姿があった。
「助かったんだ」
「わかるの?」
元の身体だ。
「ただいま」
「おかえりなさい」
そこで美山さんが涙ぐむものだから、僕までもらい泣きしそうになった。
「……よかった」
「うん、よかった」
と言って抱き合うところだったけど、目が合った瞬間、固まって、急に照れ臭くなったので、二人とも俯いて、何も喋れなくなってしまった。
その代わり手を強く握ることができたので、キスや抱き合うことよりも、何よりも嬉しく感じられた。
それが今の僕たちの心の距離だった。
車椅子を押してもらって屋上に上がると、そこには遮るもののない、空だけの空が広がっていた。
「──人狼ゲームか」
「うん」
知ってるけど、簡単に説明を受けた。
「西村さんが犯人だったんだ」
「風野くんが自首を勧めてくれた」
処刑されずに済んだわけだ。
「その風野くんは?」
「転校しちゃった」
「確か転校生だったよね?」
「そう、そして、みんなを救った『村長』さん」
千葉くんも既に意識を取り戻したらしい。
「ありがとう」
「何が?」
「私たちを救ってくれて」
え?
「どういうこと?」
そこで美山さんが僕の顔を覗き込む。
「『村長』さんは鎌田くんだったんでしょう?」
「なんで知ってるの?」
そこで少し歩み出て、僕が話を聞きやすいように、車椅子の前に移動してくれるのだった。
「風野くんのスマホを操作する仕草が鎌田くんに似てると思った」
歩き方や座り方など気をつけていたが、そんなところまで細かく見られていたとは思わなかった。
「でも似てるだけで、中身が鎌田くんだとは思わなかった。だけどバス停で話をした時、謝ったら『なんも』って返されて、風野くんが北海道弁を使うはずがないと思って、それで『村長』さんが鎌田くんだって確信した」
こんな簡単に見破られるということは、勝負はギリギリだったのかもしれない。
「西村さんが『村長』の正体を見破ることができなかったのは、鎌田くんのスマホの機種に関心を持っても、操作する指先の動きとか、そういう仕草に興味を抱かなかったからだと思う」
確かにスマホのロックやカバンへの収納など、僕自身への興味ではなかった。
「西村さんは鎌田くんのことを好きではなかった。幼稚園の頃は好きだったかもしれないけど、その好きな気持ちを持ち続けることはなかった。もしも本当に好きだったら、絶対に見つけることができたから」
そこで、はにかんで、眩しい笑顔を見せる。
「私は鎌田くんのことが好きだよ!」
僕はもう二度と好きな人を『人狼』にさせないと心に誓った。