第30話 村長
金曜日の夜、いつもなら最後の晩餐として思い残すことがないように好きな物を食べるのだが、この日は最後にならない確信があったので、ストックしてあった冷凍食品で食事を済ませてしまった。
二匹の狼男は既に巣に帰った後であった。ストーカーの岸くんは転落事件の犯人ではないので予め追放しないことを決めていたからだ。
明日に備えて早めに寝る。
今週の襲撃は予想通り、出席番号三番の近江谷くんだった。これで来週の襲撃が四番の僕になることが確定したわけだ。
つまり明日、七回目の投票で真犯人を名指しして、証拠を突きつけて、確実に票固めしなければ、死ぬということだ。
その場合、『村人』全員死亡エンドである。美山さんを救うためにも、明日は必ず絶対に勝つ!
翌朝、洗面所で歯を磨きながら戦略を練った。悩むのが、僕が鎌田真澄の転生者であることをバラすかどうかの問題だ。
昨夜からずっと考えていたが、もしも誰かに本人である証拠を求められた時、それを証明するのが難しいことに気づいて、それで迷っているわけである。
僕が二年S組にいたのは一か月もないし、昔の思い出を語っても幼馴染が憶えているかも分からないし、元カノがいても印象的なエピソードがないので、信じてもらえなければ話を聞いてもらえなくなる可能性があるのだ。
電車の中でも迷っていた。
風野我路が嘘をついていると思われたら、絶対に有り得ないのに転落事件の犯人として扱われてしまう危険もある。
現実社会に冤罪事件が存在する以上、僕たちのリアル人狼ゲームでも起こってしまうというわけだ。
そこで突然、閃いた。
転生者ではなく、『村長』であることをカミングアウトするというのはどうだろう? そうすれば従ってくれるのではないだろうか。
『人狼』がローラー作戦をやっていて、次に僕が襲撃されると訴えれば理解してもらえるだろう。
「僕は『村長』を殺そうと思う」
テロリストになってしまった瀬能くんの言葉だ。
朝自習が始まる前に、ストーカーの岸くんが追放されなかったことを受け、全員の出席を確認したところで、教壇に立って言い放ったのだった。
「僕たちが生き残る方法は、物理的に『村長』を殺して、他の者が『村長』になって容疑者を追放してもらうしかないんだ」
目立ちたいだけの勅使河原くんが賛同する。
「殺すかどうかは別にして、『村長』が無能なのは間違いない」
嘘つきの日比谷くんが手を上げる。
「言っとくけど、俺は『村長』じゃないから」
自己チューの古橋さんが罵る。
「サイテー」
ここで浮気男の小石川くんが苦言を呈す。
「流石に『殺す』というのは聞き捨てならない」
いつも批判的な本庄さんが批判する。
「じゃあ、どうするの?」
それに答えたのは友達の近江谷くんだ。
「ここまで上手くいってるんだから、これからも『村長』を信じるしかないと思う」
それに疑問を投げ掛けたのが、会話をしたことがない宇崎さんだ。
「上手くいってるの?」
関係が終わっている愛川さんが同調する。
「何も上手くいってないよね?」
本当に地味な剣崎さんも同意する。
「上手くいってないと思う」
『人狼』に狙われた蓮見さんが取り乱す。
「どう見ても上手くいってないよ」
同じく『人狼』に狙われた西村さんが問い掛ける。
「このままだと三ヶ月以内にみんな死んじゃうんだよ?」
そこで正義感の強い諸星くんが落ち着かせる。
「でも『村長』の正体を暴くというのは良くないと思うんだ。ましてや『殺す』なんて言語道断だ。『村長』の交替はリコールの失敗で絶たれたんだからさ」
やっぱりエロい多田さんが手を上げる。
「私は『村長』様を断固支持します!」
ストーカーの岸くんも賛同する。
「俺は『村人』だから『村長』の判断が正しかったことを知っている」
無実の美山さんが尋ねる。
「『生贄」に選ばれた他の人はどうだったの? 判断が間違ってたら狼男に処刑されてたかもしれないんだよ?」
委員長よりも委員長のような武藤さんがまとめる。
「残りの『人狼』は一人だけなんだから、蓮見さんか愛川さんが『人狼』だったとしても、順番によっては冤罪で処刑されていたかもしれないわけだ。その冤罪を防いだのは『村長』だよね」
結局、喋らない宍戸さんは最後まで喋らないのだった。