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第27話 村長

 日曜日の午後、自宅マンションの五階ベランダから地上を見下ろしたが、転落時の記憶が戻ることはなかった。


 スマホに美山さんから着信があったのは確かだし、彼女と会話した時の記憶は戻ったけど、今はその記憶もおぼろげで、術後に起こる、せん妄だったのではないかと疑う必要が出てきた。


 美山さんが犯人じゃないとしたら?


 一旦リビングに戻って、キッチンテーブルの上に置きっぱなしにしているノートパソコンを開いて、情報をまとめることにした。


 分かりやすく図で表す。


挿絵(By みてみん)


 アリバイが確実な者だけ『村人』として認定した。美山さんを除けば九人だが、証拠はないけど、もう少し容疑者を絞れそうだ。


 元カノの愛川さんだけど、正直、美山さんが犯人じゃなければ一番怪しい人物である。


 当事者である僕が言うのも心苦しいけど、痴情のもつれから事件に発展したと考えるのが最も自然だからだ。


 ムードメーカーの岸くんはないと思う。彼が美山さんのストーカーならば話は別だが、美山さんに関心があるように見えないからだ。


 彼に限らず、傷心の美山さんに付け入るチャンスであるはずが、ウチのクラスの男子にはそういうことをする者は一人もいなかった。


 喋らない宍戸さんもないだろう。僕の為にノートをコピーしてくれる人が背中を押すはずがない。


 元イジメられっ子の瀬能くんが真犯人だとしたら狂気の沙汰である。とはいえ、犯人よりも『村長』を炙り出そうとしているのが気になるけど。


 目立ちたがりの勅使河原くんは犯人ではない。共犯者を脅迫して服従させ、背中を押すという犯行の性格が、彼の実像とマッチしないからである。やるなら劇場型の犯罪になりそうだ。


 幼馴染の西村さんとは昔から家族ぐるみの付き合いだから、動機なら探せばいくらでもあるだろうけど、殺意が湧く前に口喧嘩となり、勢いに任せて包丁で刺すタイプだと思うので、やはり犯人ではないと思う。


 出回った怪文書に犯人と名指しされた点も忘れてはいけない。昼のターンでの追放は僕に決定権があるのだから、真犯人ならば自作自演するリスクは絶対に取らないはずだ。


 あれはゲームの裏設定を聞かされていない『人狼』の多田さんの仕業ではないかと思っている。千葉くんが早々に消えたということで、誰か違う人に目が向くように仕向けたわけだ。


 お調子者の日比谷くんは犯人じゃないだろう。おっちょこちょいの彼ならば、必ず犯行の証拠を残すと思うからだ。犯人の性格はもっと陰湿で、冷徹な観察眼を持った、忍者のような人だ。


 妹系の古橋さんは絶対に違う。彼女は教室で日比谷くんを追及したように、公の場で被害者アピールして、大衆を味方につけてから、言葉で追い込むタイプの人だからである。


 知的メガネの武藤さんはない。彼女が殺人を行うとしたら、綿密に計画を練り上げて、自分の手は汚さず、事件後は疑われることすらないようにするだろう。


 ?


 それこそが正に今回の転落事件のように思えるが、なんといっても鎌田真澄を殺す理由がないので論外だ。


 そして、アイドル系の美山さんも僕を殺す理由がないので、彼女は犯人じゃない。その根拠は、やはり信じているからだ。


 美山さんの無実を証明するために、もう一度最初から転落事件を洗い流した方がいいのかもしれない。



 といっても表立って捜査するわけにもいかないので、友達の近江谷くんに協力を仰ぐ形で事件現場に案内してもらうことにした。


 月曜日の放課後、僕たちが向かったのは特別棟の三階にある音楽室だ。そこが事件現場なのだが、それは記憶と一致していた。


「僕も詳しくは知らないんだ」


 近江谷くんが申し訳なさそうにするが、一人でうろつくところを誰かに見られてはいけないので、一緒にいてくれるだけで有り難かった。


「家の三階と違って、学校の三階は怖いね」


 現場を見て得られた情報はそれだけだった。

 近江谷くんも窓の下を覗きながら推理する。


「三階に呼び出したということは明確な殺意があった証拠だよ」

「鎌田くんは誰かに呼び出されたの?」

「あっ、ごめん、適当に言っちゃった」

「分かってないんだ?」

「うん、でも、呼び出されないと来ないよね」


 美山さんからの電話は音楽室にいた時に掛かってきた。それから窓に誘導されたわけだが、何かが引っ掛かっている。


 事件を解決する上で、とても大事な違和感だ。それさえ分かれば犯行計画の全容が解明されるような、そんな引っ掛かり。


「窓の外に見えてるのは講堂なんだけど、目撃者探しは不可能だと思う」


 そこで近江谷くんがハッとする。


「あっ、そっか、そもそも人気ひとけがない場所として、ここを犯行現場として選んだんだ」


 あれ? 今の言葉にも引っ掛かりを覚えた。しかし、その違和感の正体を掴むことができずに週末を迎えてしまった。



 今週の最後の晩餐はチェーン店のチーズバーガーにした。理由は日常的すぎて、これまで最期の食事だと思って食べたことがなかったからだ。


 じっくりと味わってみたが、食べているうちに、そんなことはどうでもいいと思って、たっぷりとした満足感に浸った。


 今夜も白狼男に食べさせようと思って多めに購入して、「うめぇ」を連発して食べていたが、食後は気持ち悪そうな様子でリビングの床に横になるのだった。おそらく今回も玉ネギがダメだったのだろう。


 そんなことはどうでもよくて、キッチンテーブルの上に開いたノートパソコンで情報を確認しながら、聞きたかったことを尋ねてみることにした。


「質問があるんだけど、昼のターンと夜のターンが前後することってないよね? 必ず昼の追放が先に執行される。つまり僕が先に『人狼モドキ』を追放すれば、その夜に襲撃されても僕の勝ちとなる」


「これまでずっとそうやってきただろう」


 不機嫌そうに答えたが、大事な確認だ。


「『人狼モドキ』の襲撃だけど、まさか自分を襲撃できたりしないよね?」

「どうして『まさか』なんだ?」

「だって卑怯じゃないか」

「卑怯なヤツなんだよ」


 自分を襲撃した場合、夜のターンを一回分ムダにするわけだが、そこまでして裏をかいてくるだろうか?


 これまでの襲撃は武藤さん、諸星くん、瀬能くん、愛川さんの四人だ。目立つ人から襲撃するという意図が感じられたので、かく乱作戦はなかったと思われる。


「それでセフレのネェチャンだけど、どうせ『生贄』にしないんだろ?」

「『どうせ』って何?」

「じゃあ追放するってことか?」

「しないけど」

「なんだよ、だったら突っかかってくるなよ」


 大事なことを言い忘れていた。


「彼女はセフレじゃないですけどね」

「もったいねぇな、『村長』様の特権なのによ」

「この世にそんな権利はない」

「おめでたいね、ほんと、おめでたいよ」


 あと一歩のところまで来ている予感がある。たった一つの閃きがあれば一瞬で解決するような予感。


 そのためにも正体を見破られないように、多田さんに近寄らないようにしなければならないわけだ。


「待たせたな」

「おう、兄弟」


 黒狼男が床で犬のように丸くなっている白狼男を見下ろす。


「おまえ、いっつも横になってんな」

「どうもこのところ調子が悪くてよ」

「ヘンなモンばっか食ってるからだろ」

「うまいんだけどな」


 そんなことはどうでもよかったので、肝心な質問をすることにした。


「今夜は誰を襲撃したの?」

「二番だ」


 真面目な宇崎さん?

 どうしてだろう?


「本当に?」

「ハッキリと『二番』って言ってたからな」


 これはヤバい。名前ではなく番号で指名したということは、そこに意味があるからだ。


 先週が一番の愛川さんで今週が二番ということは、出席番号順でローラー作戦を開始したということになる。


 風野我路は四番なので、残り二回の投票で『人狼モドキ』を追放しなければならない。


 真犯人を捜すだけでも大変なのに、見つけたとしても、投票で選ばなければならないわけだ。


 今さら言っても意味はないが、このゲームのルールは欠陥だらけだと思った。それが現実社会と変わらないというのが大いなる皮肉だけど。

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