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第25話 村長

 金曜日の夜、この日が最後の晩餐になるかもしれないと思って、家族でよく出前を取っていた馴染の食堂に電話して、ざるそばとカツ丼を注文して一人で食べた。


 母親から「行儀が悪いから余所では絶対にやらないで」と注意されていた、カツをめんつゆに浸して食べるオリジナルの食べ方でお腹を満腹にさせた。


 どうして死を意識したかというと、風野我路が見ず知らずのクラスメイトにお見舞いに行くという不自然な目立ち方をしたからだ。


 それでスマホに残された証拠を確保できれば良かったけど、収穫がゼロということで敗北を覚悟したわけである。


「うんめっ」


 今晩は白狼男の分まで同じカツ丼を注文していた。その優しさはコイツにではなく、お世話になった食堂に対してだ。


 そのカツ丼をリビングの床に置いて、丼に口を突っ込みながら汚らしく食べていた。掃除をしやすいように新聞紙を敷いているので注意はしない。


 イヌ科に玉ネギを与えてはいけないと思ったが、コイツなので、気に掛けるのは止めた。


「それで、あのスケベなネェチャンをどうするか決めたか?」


 カツ丼を食べ終わった後、床にぐでんと横になりながら尋ねてきた。僕はそれをキッチンテーブルの席から見下ろしているところだ。


「『生贄』にはしない」

「セフレにするってか?」

「そんなわけないだろ」

「好きにしていいって言ってたぞ?」

「しないよ」

「ハメ撮りは?」

「だからしないって」

「つまんねぇ男だな」


 とはいえ、多田さんがリーダーである可能性も否定できないのも事実である。この場合、美山さんは共犯者だが利用された側となる。もちろん彼女が犯行に関わっていればの話だが。


「それよりリコールってどういうこと?」

「あっ、あれか、ありゃ嘘だよ」


 意味が分からない。


「嘘とは?」

「だから全部ヤラセってことだ」


 白狼男がイライラする。


「結果が一票差になったろう? それは始めから決まっていて、おまえの一票で賛否が決まるようになってたんだよ。で、おまえは自分の意志で『村長』を続けたわけだ」


 それは不正だ。


「他の投票も結果をイジってないだろうな?」

「当たり前だろう? そこは信じてくれよ」


 詐欺師も同じことを口にする。


「それで実際の投票結果は?」

「三、四人は賛成してたな」


 それが『村長』になりたい人の数だと思えば妥当な数字だ。


「他に企んでることはないだろうな?」

「さあな」

「勘弁してくれよ」

「だって暇なんだもん」


 暇つぶしで殺人ゲームに付き合わされているわけだ。


「あっ、そうだ」


 大事なことを思い出した。


「多田さんが言っていた問題だけど、『村人』チームは『村長』の僕が襲撃されたら全員死亡エンドだけど、『人狼モドキ』チームはリーダーが負けたら他の『人狼』はどうするの?」


 すぐに答えが返ってこなかったので、考えていなかったようだ。


「どうしたいんだよ?」

「彼女の言う通りでいいと思う」

「なんて言ってたっけか?」

「『村長』に救われたら『村人』として認められるって」

「それでいいのか?」

「それでいいと思うけど」

「B」


 ん?

 笑った?

 いや、気のせいだろう。


「おまえがいいなら、それでいいよ」

「彼女は脅迫を受けてたって言うし」

「嘘かもしれないぞ?」

「それは分かってる」

「だったら助けることねぇだろ」


 この一週間ずっと考えてきた。


「多田さんの場合は量刑を考えると真犯人と同じ罰では重すぎるんだよ。これは千葉くんにも同じことがいえる。彼の場合は禁固刑で反省を促すくらいが妥当だった。犯罪計画の立案に関わってないんだから」


 白狼男が状態を起こしてあぐらをかく。


「おまえは自由に話せるから今も自由に考えられるだけで、本当は病院のベッドにいるんだぜ? そこんところ勘違いしてねぇか?」


 それはあるかもしれない。


「でもリアルを信条に始めたゲームだから仕方ないよ。真犯人と同じ罰を受ける方が心情としても納得できないからさ」


 白狼男が挑発的な目で見上げてくる。


「あのネェチャン、また脅迫を受けたら裏切るかもしれねぇぜ?」

「それもゲームの内だ」

「Boooooo」


 口笛を吹こうとして失敗したようだ。


「もう他に知らないルールはないよね?」

「それを俺に聞くなよ」

「だってゲーム・マスターだろう?」

「ルールはおまえが作ったんじゃねぇか」

「そうだけど」

「だったら自分で考えろよ」


 何かあったか? といっても今は思いつかないので、来週までにしっかりとルールを見直した方が良さそうだ。


「確認を求めた時に間違ったことを教えるってないよね?」

「そんな残酷なことするかよ」


 殺人ゲームをさせといて、この言い草である。


「だったら来週までに考えておくよ」

「来週があったらの話だけどな」


 これを、言わなくていいこと、と言う。


「待たせたな」


 黒狼男が現れるなり床を凝視する。


「おまえ、なに食ったんだよ?」

「カツ丼」

「へぇ」

「さっきから気持ち悪くてな」


 玉ネギが当たったか?


「ヘンなもん食うからだろ」

「うまいんだけどな」

「こっちは生肉だったぜ?」

「マジかよ」


 黒狼男が改まる。


「そこでモノは相談なんだけどよ、次の夜のターンから、『人狼』チームの襲撃を二回に増やせないもんかな?」


 それを人は賄賂と呼ぶ。


「僕が『いいです』って言うと思う?」

「だよな」


 白狼男が横になってぐったりする。


「俺も生肉がよかったな」


 こういうのは無視だ。


「次の襲撃っていうことは、今回は外したというわけだ」

「鋭いね」

「誰だったの?」

「一番だってよ」


 元カノの愛川さん? そういえば、彼女も突然お見舞いに同行すると言い出した人だ。それで怪しいと思ったのかもしれない。だとしたら彼女の行動は『村人』チームを救ったといえる。


 そう考えると、『生贄』に捧げなくて正解だった。

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