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第23話 四回目の投票

 追放会議は続いていたが、ここで発言を求めたのは孤高の諸星くんだった。まずは円の中心に立っているグラビア系の多田さんを座らせて、それからゆっくりと立ち上がるのだった。


「今日の投票だけど、すごく難しい選択だと思うんだ。多田さんが『人狼』であることは確かだけど、チームのリーダーではないこともハッキリしている。もちろん、彼女の言っていることが全部事実ならばの話だけど」


 そこで多田さんが「本当です」と言ったが、探偵はその言葉を無視して、円の中を悩まし気にゆっくりと回り続けるのだった。


「問題は──」


 円の中心で立ち止まった。


「『人狼』のリーダーに投票しなければ、五回目の投票を迎えられないかもしれない点にあるんだ。そのためには脅迫者の正体を今日中に知る必要がある。つまり多田さんが『村長』に命乞いしても無駄に終わる可能性があることなんだよ」


 その通りだ。


「多田さんが『村人』になりたいなら、今なるべきだ」

「嫌です」


 即答だった。


「『村長』に許されたら『村人』になれるって、そんなルールも存在しないよ?」

「全て『村長』様に決めてもらいます」


 諸星くんが頷いた、ということは説得を諦めたということだ。


「だったら事件の解明を急がなければならない。犯人にとってスマホを盗み出すことは計画を実行する上で必要なことだった。それが犯行にどのように使われたか推理できる人はいるかな?」


 手を上げる者がおらず、一分、二分と経過したので、諸星くんも一旦席に着いてしまった。


「あっ、そうだ、鎌田くんのスマホのこと、みんなに報告してないよね?」


 議長の武藤さんに促されて、諸星くんが説明する。


「昨日、鎌田くんの入院先にお見舞いに行った時に、彼のスマホを調べさせてもらうことができたんだ。だけどダイイング・メッセージのような証拠は残っていなかった」


 そこで頭をかく。


「鎌田くんには申し訳ないけど、アプリも開いて中身を読ませてもらった。他にもメールの日付も確認したし、通話記録も見ちゃったけど、残念ながら事件当日に使用した形跡は見られなかったんだ」


 え?


「だから分からなくてさ、そこから先に進めないんだ」


 そこでモデル系の本庄さんが手を上げた。


「思ったんだけど、スマホや自転車の鍵も全部アリバイ作りのために盗んだんじゃないかな? この場合は一人でも多くの人のアリバイをあやふやにするためなんだけど」


 なんか違うような気がするけど、武藤さんが納得している様子で話を受ける。


「確かにスマホの紛失がなければいつもの面子で地下鉄に乗って帰ってたと思う。そうすると容疑者がかなり絞られたわけだ」


 そこで全員に問う。


「この中でさ、事件当日、放課後に残って、おかしな行動をしている人を見掛けた人はいないの?」


 手を上げる者はいなかった。


「いるわけないか」


 武藤さんが早々に諦めるのも無理はなかった。ウチの高校は私立のマンモス校なので敷地がとにかく広いからだ。


 スポーツにも力を入れているので体育館だけでも三つある。野球部の屋内練習場や卓球施設、他にもテニスの専用コートも存在する。


 図書館も独立して建っており、隣が大学なので研究用の植物園もある。他にも講堂や、文化部専用の部室兼倉庫もあった。


 何より問題なのは、特進クラスと普通科の校舎が別の場所にあることだ。おまけにそれぞれの校舎に特別棟が隣接しているので、転落現場で目撃者を捜すのは不可能というわけだ。


「あの」


 そこで控え目に手を上げたのが地味な剣崎さんだ。


「なに?」


 議長の武藤さんが発言を促す。


「今まで怖くて言えなかったんですけど、実は事件があった日の放課後、私と蓮見さんはずっと一緒にいました。どうして黙っていたかというと、さっきまで『人狼』が二人残っていて、だから私と蓮見さんが疑われると思って、蓮見さんも私が疑われないように黙っていてくれたんです」


 『人狼』が三人とする前提条件が正しければの話だが、それが事実ならば完璧なアリバイだ。


「蓮見さんのスマホを捜してたんだっけ?」

「はい」

「手分けして捜したんじゃないの?」


 剣崎さんが思い出しながら説明する。


「最初は手分けして捜すことになって、でも、すぐに何色のスマホか聞き忘れて、それで引き返して、結局そのまま一緒に捜すことになって、ね?」


 確認を求められた大人しい蓮見さんが頷く。


「みんなと別れて剣崎さんが引き返してきたのも一瞬で、一人でどこかに行く時間はありませんでした。それからパトカーや救急車のサイレンが聞こえてきた時も一緒で、その後も一緒に校門を出ました」


 完璧なアリバイだ。

 議長の武藤さんが他の人に尋ねる。


「他にもそういう人いない? 誰かと一緒にいたとか」


 誰も手を上げなかった。


「千葉くんの鍵の方はどうだったの?」

「今だから言えるけど、千葉の言ってることがおかしかったんだよな」


 愚痴ったのは目立ちたがりの勅使河原くんだ。


「ジャージのポケットにチャリのカギを入れてたって言うからさ、グラウンドとか体育館とか無駄に捜すことになったんだもん」


 それが脅迫者による指示だったわけだ。


「ナノカもおかしなこと言ってたよね」


 武藤さんが怖い顔をして多田さんを下の名前で呼んだ。


「記録会にスマホを持ち込んで? 体育館の更衣室にあるかもしれないって? 校舎のトイレにも行ったんだっけ? それからお昼には図書館だっけ? その途中で落としたとか、よくそんなこと言えたよね」


 妹系の古橋さんも抗議するように横目で見る。


「それとバイブだから鳴らしても分からないって言ってた」


 多田さんは既に開き直っている感じであった。


「それでも私は犯人じゃなくて脅迫の被害者だから」

「どんな脅迫を受けたの?」


 ムードメーカーの岸くんによる素朴な疑問だ。


「『村長』様が助けてくれるまで教えない」


 それに反応したのが元イジメられっ子の瀬能くんだ。


「君ね、僕たちの命が懸かってるんだよ?」

「転落事件と脅迫事件は関係ないもん」

「関係あるから『人狼』なんじゃないか」

「私は『村人』だよ」


 『村長』とは、こういう嘘つきまで救わなければならないわけだ。そんな僕を悩ませるのが参謀のように振る舞う瀬能くんだ。


「『村長』に最後のお願いがあります。この者に刑罰をお与えください。それは法治国家においても用いられている然るべき応報であります。自ら刑罰から逃れようとする態度には改心する気概が見られません。そういう者には罰を与えてあげるのが救いでもあるのです」


 独裁者から宗教家にジョブチェンジしたかのような変わり様だ。


「『村長』も、この者が卑猥な言葉を口にしたのを聞いていると思います。どうか、村のおさらしく、この者を改心させてください」


 信仰心があついと色仕掛けが逆効果になるわけだ。


「また、村を治める為政者としても、『村人』の命を軽んじる者に、僕たちと同じ一票を持たせたままにするというのは承服できません。その一票が『人狼』のための一票になるかもしれないからです」


 上からの物言いがダメだったので、下からの陳情に切り替えたわけだ。


 これは今に始まったわけではなく、表出しなかっただけで、これまでも人格が分裂する現象が心の中で起こっていたのかもしれない。


「賢明な『村長』なら、きっと解ってくれると思います」


 そこで多田さんが再びアピールし出したので、事件について話し合うことが出来ずに投票を迎えることとなった。


「結果は十一票で十番だ」


 思ったより少なかったけど、やはり予想通り多田さんに票が集まったのだった。

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