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第21話 村長

 ケア・センターからの帰り道、有名な唐揚げ屋でザンギ弁当を買ってから家に帰った。


 ハッキリ言って、道産子の僕でもザンギとカラアゲの違いはよく分かっていない。


 発祥が道東の釧路ということで、道央出身の僕からしたら、ご当地モノの観光資源として便乗させてもらってる感が拭えないのである。


 豚丼の発祥も道東の帯広だし、僕の周りに大自然はないし、厳しい冬もそれほどではないし、北海道にいながら北海道のことを知らないというのが現実だ。


 道外の方が持つ北海道のイメージを僕以外の人が切り拓き、培って、耐え忍び、担ってくれているので、心のどこかで常に申し訳ない気持ちがある。


 全員じゃないけど、それが道央出身者の気持ちだ。少なくとも僕はそう思っているわけで、そんなことを考えながらザンギ弁当を平らげた。


「俺の分は?」


 白狼男が現れて、キッチンテーブルで食事を終えた僕の目の前の席に腰を下ろした。いや、腰の部位がどこか分からないので、椅子に尻を下ろしたが正解だ。


「買ってこなかった」

「冷たい奴だな」

「狼には味が濃すぎるよ」

「優しさのつもりか?」

「人間界ではね」

「死神界なら死刑だぞ」


 思わず「さっさと殺せ」と言いそうになったけど、『村人』全員の命を預かっているので止めておいた。


「ああ、そういえば、霊媒師の能力だけど、あちらさんは『別に構わん』だとよ」


 すっかり忘れていた。


「千葉くんは『人狼』だったの?」

「ああ」

「ゲームが続いているということはリーダーではないということか」

「それも正解だ」


 記憶が戻る前とはいえ、だったら生かしておくべきだった。


「じゃあ、蓮見さんは?」

「そいつは教えられねぇ」

「どうして?」

「おまえが『村人』に戻しちまったからな」

「そんな取り決めあったっけ?」

「『霊媒師』に見えるのは霊だけだからよ」


 それをリアルと表現するのは非科学的だけど、筋は通っている。僕としても真犯人は分かっているので問題はなかった。


「で、素敵なカノジョはどうすんだ?」


 元カノの愛川さんのことだ。


「『生贄』に捧げれば縁を切ることができるぞ?」

「そんな酷いことするわけないだろう」

「助けるってのか?」

「彼女は犯人じゃないから」

「甘いなぁ」


 次の投票で諸星くんがスマホの通話履歴から犯人を割り出してくれるはずだ。


「あっ、そうだ」

「眉間に皺を寄せんなよ」

「『村人』全員死亡エンドってなんだよ」

「ナイス・アドリブだろ?」

「そんなルールはなかったはずだ」

「ないから作ってやったんだ」


 そう言って、僕が買ってきたペットボトルのお茶を両手に挟んで飲もうとするが、そのほとんどを口から溢して床をびちゃびちゃにするのだった。


「正直おまえも良かったって思ってんだろ? あいつらには必死さが足りなかったもんな。おまえも全員の命が懸かってるわけだから、これで他人任せにはできなくなったわけだ」


 コイツの言う通り、風野我路としての僕も動きやすくなったのは事実である。瀬能くんのように『村長』に訴えるように投票を呼び掛けることが可能となったからだ。


「待たせたな」


 と言って、黒狼男がリビングに入ってきた。


「おう、待ってたぜ。それで愛川ちゃんは誰を指名した」


 そう言って、白狼男がわざとらしく口元を手で隠すのだった。見え透いた芝居でミス・リードを誘うのである。


「答えをバラしてどうすんだ?」

「わりぃわりぃ」

「勘弁してくれよ」

「今のは聞かなかったことにしてくれ」


 完全に遊んでいる。


「で、誰を襲撃するって?」

「九番だってよ」


 元イジメられっ子の瀬能くんだ。


「マジか」

「外してもガッカリした様子はなかったぜ」

「悪魔だな」

「ああ、完全に楽しんでやがる」

「しかし、なんで九番なんだ?」

「さあね」

「あいつだけはないだろ」

「ほんとにな」


 敵としては『村長』がわざとらしく『村人』を装って人狼ゲームを支配しにきたと思ったのかもしれない。


 だとしたら厄介だ。瀬能くんを真似ても狙われてしまうので、これは敵による足止め作戦のようなものだ。


 しかし美山さんはそんな余裕が持てるほど犯行に自信があるのだろうか? スマホに証拠を残しているので気が気じゃないはずだ。


 すでに消去した?


 だとしても通話接続の記録自体を消すことはできないのだから証拠自体を消し去ることは不可能である。


 転落直前に美山さんと話をしたのは事実なので彼女が犯人であることは間違いないが、明日勝負に出るのは様子を見てからにした方が良さそうだ。

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