第18話 決選投票
「時間がないからハッキリ言わせてもらう」
決戦投票に向けての話し合いを行うのだが、まず口火を切ったのは議長の武藤さんだ。
「私は愛川さんに投票した。それはなぜかというと鎌田くんを殺したいほど憎む動機を持っているのが彼女しかいないからなんだ」
あっ、これはマズい流れだ。
美山さんは僕と愛川さんの関係が終わっていることを把握しているけど、彼女が知らない風を装ったことで、僕に騙された被害者のポジションを手にしたからだ。
「だけど現段階では証拠不十分だとも思っている。なんといってもアリバイがあるからね。そこでもう一人の『人狼』がカギになってくるんだけど、今日中に見つけるのは無理だよね」
共犯者が実行犯である可能性を疑っているわけだ。
「だから今回も『村長』の判断を信じたいと思う。つまり裁判員制度と同じように私たちで評決は出すけど、最終的に裁判長に決めてもらうの。結論として、今回の場合は審理不十分ということで一審の評決を破棄してもらうというわけ」
冷静かつ、極限状態の中で取り得る最良の判断である。
「なんにも解ってないな」
異議を唱えたのは元イジメられっこの瀬能くんだ。
「強い動機を持つ愛川さんが『人狼』だった場合、見逃してしまうと、夜のターンで『村長』が殺されてしまうかもしれないんだ。そこでゲーム・オーバーだよ」
ゲームの世界では彼が正しいので、僕よりも瀬能くんが『村長』の方が確実に勝率は上がる。
「武藤は尤もらしいことを言ってるんだけど、言動を追うと、『人狼』チームを勝たせるために導いてるのが気になるんだよな。これって人狼ゲームだと『裏切り者』の役割なんだよ」
さすがに武藤さんが共犯者ということはないだろう。
「まぐれでも死ぬんだから、このゲームに保留はない。疑わしきを罰していくのが人狼ゲームだ。四回目の投票を迎える前に勝てる可能性があるんだから、それに賭けないとダメなんだよ」
ここで間を空けずに反論できるのが武藤さんだ。
「『人狼』のリーダーは別にいて、愛川さんが真犯人を見つける手掛かりを握っているかもしれないでしょう? 生かしておいた方が有利に進められるとも考えられるの」
もう少し早く記憶が戻っていたら千葉くんも生かしておくことができた。
「人狼ゲームの経験は?」
「ないけど」
瀬能くんがニヤける。
「『村人』ならチームの足を引っ張る無能だな」
武藤さんが冷めた目で見る。
「君が『村長』に選ばれなかったのは私のせいじゃないからね」
瀬能くんが口をモゴモゴさせるが、聞き取れる言葉は発せられなかった。
「愛川さんのアリバイで気になることがあるんだけど」
委員長の本カノの本庄さんだ。
「事件当日、私は寄り道しないで待ち合わせ場所に行ったんだ。今まで黙ってたけど、ファクトリーで近江谷くんを見掛けたから私のアリバイは完璧。確か妹さんも一緒だったと思うけど?」
友達の近江谷くんがコクリと頷いた。
「で、問題はファクトリーに到着してからそんなに待たなかったことなんだよね。ということは、委員長は愛川さんと会って話したって言うけど、すぐに別れたんじゃないの?」
彼女の「委員長」呼びが気になったが、問われた小石川くんが思い出す。
「裏門で少し話をして、走って地下鉄に乗ったから」
「一本か二本しか違わなかった」
「急いだから」
「それはどうでもいいんだけど」
その一言に二人の終わりを見た気がした。
「私が言いたいのは、愛川さんに確実といえるほどのアリバイがあったのかなって。すぐに別れたなら校舎に引き返すこともできたわけだよね。それでアリバイっていえる?」
愛川さんが答えなければいけない問い掛けなのに、俯いたまま黙っているのだった。
僕は彼女が無実であることを知っているけど──
いや。
美山さんと共謀している可能性があるのか?
アリバイ作りに小石川くんを利用した可能性も考えられるわけだ。
「『村長』、聞いてるか?」
ゲームが始まってから存在感が誇大化した瀬能くんだ。
「愛川は『人狼』の一人だから吊っとけよ」
こうして話し合いが終了したのだが、決選投票の結果、僕を除く十六名が愛川さんに票を投じたのだった。